マガジンのカバー画像

物語の欠片-韓紅の夕暮れ篇-

24
カリンとレンの十四篇目の物語。太陽光発電の仕組みが実用化の一歩手前となり、フエゴで検証が始まったが…… 技術と人の心というお話。
運営しているクリエイター

2023年11月の記事一覧

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 16

-レン-  アキレアの館に着いたのは十九時を少し過ぎた頃だった。  夕食中かもしれないと考え、玄関口で使用人に伝言だけ頼むつもりで呼び鈴を鳴らしたのだが、出て来た使用人はアキレアから返信があるかもしれないから少し待つようにと言い、レンを玄関付近の簡易な応接間のようなところへ案内して奥へ消えた。  アキレアの館は、先のフエゴ火山の噴火で甚大な被害を受けており、所々に修復の痕があった。それでも、完全に壊れてしまった物見の塔以外は造り直さずに、修復して使っている所に、アキレアの人

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 15 度重なる故障の謎 解2

-カリン-  黒板の所まで歩いて来たプリムラは、先ほど机を叩いたのと同じように、こつこつと黒板を叩いた。 「これで、誰が、何故という問題は解かれた。あとはどうやって、という問題が幾つか残っている。もちろん本人に聞けば分かるわけだが、私はカリンの話が聞きたい……どうかな? お前は、どこまで分かっておるのだ」 「一応起こったことすべてに筋が通る仮説は持っております」 「ふむ。よろしい。では、答え合わせといこうではないか」  プリムラは口元に不敵な笑みを浮かべると、イイギリの隣の

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 14 度重なる故障の謎 解 1

-レン- 「プリムラ様が整理してくださったとおり、もし度重なる故障が人為的に引き起こされたものなのだとしたら、一番の問題は誰が何のためにそれをやったか、ということです」  カリンは落ち着いた態度で話し始めた。 「最も影響を受けていそうなのは玻璃師でしたが、わたくしは最初に四箇所の故障の場所と原因を聞いた際、これを仕組んだ人間は、太陽光発電の仕組みをよく理解している人ではないかと感じました。あまりにも上手く、効率よく、太陽光発電の弱点を突いているからです」  口を挟む者がいな

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 13

-カリン-  アグィーラへ着くと、カリンはまず官吏服ではなく普通のアグィーラの衣装に着替え、ヨシュアに紹介してもらった幾つかの工房を訪ね歩いた。相手を変に警戒させないために、レンにはヨシュアの家で待っていてもらうことにした。  カリンはまだマカニで暮らしている時間よりもアグィーラで暮らしていた時間の方が長いが、アグィーラは大きな町である。官吏服を着ていないカリンのことを誰だか知る者はそれほど多くはない。クコに会う前に、アグィーラの城下町の人々の認識がどの程度なのか、確かめて

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 12

-レン-  カリンと共にマカニへ戻ってから数日は平穏に過ぎた。  その間に一度だけ、シヴァと一緒に族長の家へ行く途中でソレルが近くへやってきて、そのまま一緒に族長の家まで行った。  前回シヴァの元へ現れた日からまだ十日も経っていなかった。こうやって少しずつ距離を縮めてゆくのだろう。  その時にはたまたま族長の所へモミジも来ていて、レンがモミジを、シヴァがソレルを相手に訓練をした。鳥たち同士は、お互いを気にしている様子を見せつつも、適度に距離を保って、決して交わることは無かっ

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 11

-カリン-  挨拶した時のクコの表情で、調査結果は芳しくないのだということが分かった。 「一般的な短絡の原因はいくつか考えられる」  カリンとレンに椅子を勧め、自らは打合せ用の小部屋の中をゆっくりと歩き回りながら、クコは話し始めた。今日は三人の他に誰も居ない。 「ひとつは配線の老朽化。これは今回新設したばかりだからあり得ない。二つ目は、配線がむき出しになっている部分に埃や水分が付着して電流の流れ方が変わること。これも防塵防水用の箱に入っている上に、まだ埃が溜まるほど稼働して