見出し画像

アトラスの悪魔的ロゴ遣い

2020年7月のニンテンドーダイレクトミニで、『真・女神転生V』と『真・女神転生III NOCTURNE HD REMASTER』の紹介映像を観た。

本稿で触れているアトラスの新作紹介パートは8:42から https://www.youtube.com/watch?v=t57NnJAao0A

女神転生シリーズの最新作となる『真・女神転生V』を紹介するパートの冒頭で、開発元であるアトラスのロゴが黒地に表示される。アトラスといえば『キャサリン』や『ペルソナ』のスタイリッシュなイメージが筆者にはあり、Aに少しの個性をもたせたストイックなロゴはアトラスらしいなと思った。

画像1

新作タイトルのダークな世界観をひとしきり伝えたあと、ふたたび画面が暗転し、ロゴが表示される。先ほどとは違い、今度は白フチつきで、青と赤のパターンだ。装飾的な要素が増えているが、文字の骨格は先ほどのロゴと同一のようである。

画像2

次に紹介されるのは、2003年に発売された『真・女神転生III-NOCTURNE』のリメイク版だ。この映像は、最新作に白一色のロゴを、リメイク作にカラーのロゴをあてがうような構造になっている。

過去を表現するのにモノクロームを、現在を表現するのにカラーを用いるのはよくあることだが、この映像におけるロゴの扱いは、その逆をいっている。なぜか?

画像3

アトラスのロゴは2014年にリニューアルされたようだ。オリジナルのロゴから色使いと白フチの表現を継承しつつ、アクセント的に入っていた切れ目を取り除きシンプルな形状になった。青と赤は、過去から受け継いできたアイデンティティなのである。なお、ニンテンドーダイレクトで目にした1色のロゴは、検索しても見当たらなかった。

ここで一旦脱線。日産のロゴが19年ぶりにリニューアルされて話題になっている。元のロゴは立体的な表現で、物質性を全面的に押し出したようなデザイン。それに対して、新しいロゴは完全な平面。以前のロゴに比べて、モダンで、洗練された印象。このフォルムは、立体のモックアップを作成しながら導き出したらしい。意外。自動車メーカーのロゴはクルマの正面に立体物として取りつけられるものだから、その見え方を第一に考えたのだろう。

画像4

この感覚って活版印刷に似ているところがある。刷り上がった印刷物は紙にインキが薄く乗っただけの平面なのだが、それを印刷するためのゲラは鉛でできた活字の集合体だ。平滑な印刷面の奥に、ズッシリとした鉛の気配がある。日産のロゴも同じで、フラットな形状の裏にプロダクトの重みが感じられるところが面白い。

本題に戻ろう。日産のロゴが立体感や色を減らすことでモダンな印象を獲得したように、先述した映像で目にした白一色のロゴも、カラーのものに比べてモダンといえる。カラーのロゴは配色を過去から継承してきたという経緯もあいまって、ノスタルジーな印象を受ける。つまり、完全新作の新しさとリメイク作のノスタルジーを、ロゴのバリエーションで表現したことになる。

通常、ロゴをデザインする際は様々な状況で使用される(白い背景の上に配置するのか、黒い背景の上に配置するのか、カラーで印刷するのか、白黒で印刷するのか)ことを考慮して複数パターンを用意しておく。映像の中で使用された2種のロゴも、元々はそうした機能面に配慮して作られたものだと推測する。

とはいえ、企業のイメージを担うロゴの見え方は、いかなる状況でも揃えたい。そのため、複数パターンを用意してあるとしても、それを同一の紙面や、映像で使うことは滅多にない。というか、ご法度といってもいい。

そうしたロゴの常識を逆手にとり、映像の演出として利用したアトラスのロゴ遣いはどこか挑発的で、悪魔的だった。

twitterにて更新のお知らせをしておりますので、よかったらフォローお願いします! https://twitter.com/tsugumiarai