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Mon Appartment

パリの建物は

大抵

 次の道まで繋がっていて

迷子になって 戻る時は

ひどく大まわりしなくてはいけない

その日初めて 

私は

自分のアパートを下から見上げた

そのアパルトマンは

6階建で

道と道の角に位置していて

どちら側の道にも

長く長く

そう、ずっと向こうの次の道まで

繋がっていた

慣れない私には

この一画の建物が全て

たいして変わらず

目を離すと

たちまち自分のアパルトマンが

どれだったのか探せなくなり

迷子になりそうだった

当然ながら

似ているように見えて違うし

中ではちゃんと分かれていて

同じ様なドアを

間違えたなら

同じような階段を登っても

自分の部屋には

たどり着かない

アパートの最上階にだけ

長いバルコニーが設置されているのが

パリのアパルトマンのスタイルで

街を見上げてみると

大抵のアパルトマンは

そのスタイルのまま

何百年も変わっていない

バルコニーから見える

正面のアパルトマンも

鏡のように同じ造りで

グレーのトタン屋根に

屋根裏部屋の窓が並び

その上に

今はもう使われなくなった

煙突が行儀よく

並んでいた

それはまるで

東京でよく見ていた

パリの特集の雑誌の1ページを

切り取ったかのような光景だった

それからの数年間

私はそこからの景色を眺めながら

楽しくても

悲しくても

青空が見えると

シャボン玉を飛ばし

夜になると

バルコニーから

オレンジの街を眺め

エッフェル塔からのサーチライトが

巡ってくる回数を数えた

雨が降れば

ベランダが全て濡れるまでそれを眺め

雪が降れば

雪だるまを作ったりして

東京での忙しい日々が

どんどん遠くなっていった

パリのエスカルゴで言えば

新しもの好きな人々が集まる

と言われる

カナル・サンマルタン界隈

10区

魔法の絨毯は

ここに私を降ろした








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