税理士になろうと思った理由②10時間以上の手術
こんにちは。
丘咲 つぐみです。
17回目の記事になります。
間も無く、手術のための検査、入院の予約、手術予定日、とどんどんスケジュールが決まっていきます。もしかしたら、これで人間らしい生活が取り戻せるのかも、と思うと、検査の苦痛なんて全く感じません。入院の準備さえも、まるで修学旅行へ向かうかのようにわくわくする時間でした。
ただ唯一、大きな、大きな気がかりがあります。それは、1歳の息子のことです。
私の入院中、息子は母にお願いするほか選択肢がありません。私自身は、3歳のころから虐待を受けていた記憶があります。息子も同じように虐待を受けるかも知れない。愛する息子を虐待するかも知れない人に預けるほかない。これは、「胸を締め付けられる」などという言葉では全く足りないほど、苦しい決断でした。それでも、他に方法がない。
息子を守りたいからこそ、手術をして元気になり、一日も早く迎えに行く。そのことを自分に何度も何度も言い聞かせて、病院へ向かうことになったのです。
手術は、10時間以上に及ぶ大手術となりました。
麻酔から覚めた瞬間の爽快感を、20年経った今でもはっきりと覚えています。
実際には、体中に何本もの管と機械が繋がれ、腕以外動かすことは許されない状態です。身体のあちこちが、どこから来るのかよく分からないような、不思議な痛みに包まれています。10時間以上もの手術を受けたのですから、当然のことでしょう。それでも、私は爽快感に溢れていたのです。痛みとの生活が始まってから、ずっと夢見ていた「治療」というものを初めてしてもらえた、その喜びは、もう言葉では表せません。もしかしたら、治る、治らないは、どうでも良かったのかも知れない。病気があると認めてもらえた、痛みが嘘ではないと信じてもらえた、そして、こうして実際に治療をしてもらえている。もうそれだけで、私の望みは十分過ぎるくらいに叶えられた、そう感じていたように思います。
手術から数日経って、リハビリが始まりました。
この先に待ち受ける、痛みから解放された日常を想像すると、リハビリなんてスキップを楽しんでいるみたいなものでした。思わず口から出てしまううめき声も、鼻歌みたいなものです。
これで、息子との新たな生活が始められると、希望に溢れていました。
入院生活では、少し年下の友人もできました。先天性の足の障害を抱えている大学生の女の子Hちゃんでした。入院中は、病室やベッドの移動が多いものですが、Hちゃんとは入院中、ずっと隣のベッドで過ごしました。私にとっては、「初めての友人」ができたような思いでいました。
病気のある生活、学校に行けないこと、自分の努力だけではどうにもならないことばかりに囲まれていること。これらのことを何も説明しなくても分かってくれる、共感してもらえる。このような繋がりは、今までの私には一度も無かったものでした。大学生活を楽しんでいたり、社会人となって普通に仕事のできている同世代の人には、全く通用しなかった話がすんなりできる。否定されることを怖がらずに話せる安心感は、とても居心地の良いものでした。
リハビリ室へも一緒に通います。Hちゃんは松葉杖、私は車いすを使って移動しているのですが、まるで手を繋いで歩いているような感覚でした。女子高生が友達と一緒に原宿に出掛けるとしたら、こんな気持ちなのかな、と想像します。ベッド周りのカーテンをしっかり閉め切って、ひそひそと女子トークをしたこともありました。看護師さんの目を盗んで病院を抜け出したこともあります。「飲み会」という言葉の響きに憧れるねという話になり、病院の中でアルコールを飲む計画を立てたりもしました(実際に決行してしまって)。まるで、修学旅行です。
ところが、リハビリ生活が進めば進むほど、どんどん不安が大きくなっていったのです。Hちゃんとの会話も、楽しい話から悩みの話にシフトしていきます。
なぜなら、手術の効果はほとんど無かったことに気付いてしまったからです。お医者様からは、「手術の経過は順調」との説明を受けます。痛みに耐えながら、リハビリも毎日頑張っています。だけど、痛みの状態は改善されない。そうなると、手術の効果が無かったことを受け入れる他ない状況だ、ということに気付かされてしまったのです。
手術をする前から「治るかどうかわからない」としっかり説明を受けていたのですから、当然と言えば当然の経過です。それでも、治らないことが現実となってくると、何もかも諦めてしまいたい気持ちに襲われました。やっぱり、生涯痛みと共に生活するしかないのだろう、生涯歩くこともままならない生活なのだろう、と。手術に辿り着くまでに、同じ想いを何度も何度も感じて来たはずでしたが、一度「希望」を見てしまったことで、まるで今まで以上に状況が悪くなってしまったように感じてしまう自分がいました。
(つづく...)
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