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野蚕録(王元綖著)

書評と言いますか、本のご紹介。
「野蚕録」王元綖著、伊藤智夫・深田哲夫訳、法政大学出版局刊、1999年初版・・・という、少々マニアックなご本でございます。

大まかな内容

野蚕(やさん)と言いますのは、いわゆるお蚕さま=家蚕(かさん)という家畜化された蚕さんではなく、野生の繭を作る蛾のことです。
日本で言いますと天蚕(てんさん)が有名ですね。
え、天蚕、養蚕してるじゃん?とお思いになった方もあるかもしれませんが、彼らはそこから逃げたとしても生きていける可能性はあるのですが、お蚕さまはそうはいきません。それが、野蚕と家蚕の違いと言えましょう。

話を書籍に戻しますが、元々1902年と1931年に記されたもので、1冊の中に4巻立てで収載されております。
まず巻1に、中国の、養蚕などに係る清朝の頃の文書と考証が載っておりまして、「どこどこの省で野蚕を広く飼うための檄文」とか、タイトルからして中国っぽい感じの文書や、そのための解説文などがあり、野蚕養蚕を奨励・顕彰していた様子がリアルにうかがえます。

巻2では野蚕の種類や餌樹、育て方などがまとめてあります。柳蚕だの、楓蚕だの、何ですかそれはという蚕さんがあれこれ載っています。糸について書いてある種もあれば、何を食べて育つ程度の情報しかないものもあり、現在もその種の糸を取っておられるのか否か、まだ調べたりはしていません。(産業にはなってなくても、少数民族の方がとかありそうだし・・・)

続く巻3では春秋に集繭するためのスケジューリング的なことや、繭から糸のことが書いてあります。糸繰りの道具は図解入り。巻4はその先の糸から染、織のことが書いてあり、日本と同様織物は重さで取引されていたため、織った後に大豆の粉(黄粉ですよね・・・?)をまぶしていたとか、そんなことも書かれていました。その頃の、野蚕糸や布の輸出量推移もまとめられています。

感想?など

ということで、野蚕の情報兼中国近代の養蚕資料という双方を兼ね備えた本です。中国では養蚕の規模も違い、山一つに柞蚕の種付けを・・・などという噂も聞いたことがありますので、そういう文化性や地域性、大きさの違いなどを感じながら、ちょっと昔の養蚕の話を垣間見れます。ちょうど日本では家蚕糸輸出が盛んだった頃と被る話だと思いますし、いろいろな観点から興味深い内容のご本だと思います。
なお、カバーの写真は、天蚕が生んだ卵の画像です。


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