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【ドラマ感想文】アンチヒーローが問い続けた「正義」と「悪」

27年間の人生でほとんどテレビドラマを見たことなかった僕が、いつの間にか日曜夜9時が来るのを待ち望むようになっていました。

日曜劇場「アンチヒーロー」
テレビの前に釘付けになった3か月間でした。


・何気なく見始めたけど…

きっかけは些細なことでした。
ドラマ好きの知り合いとふとドラマの話になったときに、「次の日曜劇場は何となく好きそうなストーリーだから、騙されたと思って一話だけでも見てほしいと…」
せっかくおすすめされたので何気なくみた第一話で一気に引き込まれました。
「正義とは、悪とは一体何なのか」
タイトル通り、ややきわどい手段を使ってでも依頼人を守り抜く弁護士の物語か。
と思えばただそれだけじゃない。回を重ねるごとに各話で何気なく散らされた点が少しずつ繋がっていく。
いつの間にか毎週日曜日を待ち構えている自分がいました。

・視聴者に問いかけ続けた「正義」と「悪」

アンチヒーロー公式サイトの「はじめに」にはこんな記述があります。

日本の刑事裁判での有罪率は99.9%と言われている。長谷川演じる弁護士は、残り0.1%に隠された「無罪の証拠」を探し依頼人を救う救世主のような人間ではない。たとえ、犯罪者である証拠が100%揃っていても無罪を勝ち取る、「殺人犯をも無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士。ヒーローとは言い難い、限りなくダークで危険な人物だ。しかしこのドラマを見た視聴者は、こう自問自答することになるだろう。「正義の反対は、本当に悪なのだろうか・・・?」

このドラマは「弁護士ドラマ」という枠組みを超え、長谷川演じるアンチヒーローを通して、視聴者に“正義とは果たして何なのか?” “世の中の悪とされていることは、本当に悪いことなのか?” を問いかける。本作では、スピーディーな展開で次々に常識が覆されていく。日常のほんの少しのきっかけ、たとえば「電車に一本乗り遅れてしまった」「朝忘れ物をして取りに帰った」・・・たったそれだけのことで、正義と悪が入れ替わり、善人が悪人になってしまう。まさにバタフライエフェクトのような、前代未聞の逆転パラドックスエンターテインメントをお届けする。

アンチヒーロー 公式HPより

「正義」とは「悪」とは一体何なのか。そして、「正義の反対は悪なのか?」
この点は私たち視聴者に最後まで問いかけ続けられた気がします。
そして、その上で素晴らしいと思ったのは、明墨が完全なる正義ではなく、伊達原も完全な悪では無かったこと。

明墨は12年前の自身の間違った正義感に気付き、志水の冤罪を晴らすために動き始めた。しかし、その実現のために証拠隠滅をしてでも緋山を無罪に持ち込んだ。
一方で、伊達原も愛する家族を守るため、そして世間の検察・警察への信頼を失墜させないという使命感を持っていた。ゆえに、証拠の隠ぺいや改ざんを行ってしまった。

ドラマ内では何度もこの世の中の犯罪者、道を踏み外したものへの厳しさを語っていた。その厳しさを誰よりも知っていたからこそ、伊達原は罪を犯してしまった。
しかし、それは伊達原自身の「検察は正義であるべき」との行き過ぎた使命感だけでなく、世間の「検察は正義である」との行き過ぎた期待感が生んだ悲劇なのかもしれません。

もし、自分が伊達原の立場だったら。身の回りの大切な人のために同じことをしてしまっていたかもしれない。
それは、明墨が糸井一家殺人事件の止まった針を動かすために緋山を無罪にしたことのように…。

ネットやSNSが発達し、どこからでも正義の刃が飛んできて、少しでも道を踏み外せば一瞬にして立ち上がれないほどになってしまう。
しかし、それは本当の意味での「正義」なのだろうか。現代に対する壮大な問いかけのような作品でもありました。

・常に考察の上を行く最高な脚本

この時代のドラマ制作は本当に大変だなぁと感じたのは、ネット上で次々ドラマの考察が行われること。
ある程度の伏線は視聴者も回収してしまうので、その期待を上回る脚本づくりって大変なんだろうな…と思っていましたが、最後の最後まで視聴者の考察を上回り続けてくれました。
志水が写るアリバイ動画が伊達原に消された後、新しい証拠として殺人に使われた毒の鑑定結果の改ざんが行われていたことや、緑川・桃瀬・明墨は12年前からの同期で桃瀬が亡くなる直前からタッグを組んでいたことを予想していた方は様々な考察動画をチェックしていましたが、いらっしゃらなかったと思います。

今回は明墨側の人物にみな色が入っており、(赤峰、紫ノ宮、白木、青山など)緑川もどこかで明墨側に入るだろう!とは考察されていましたが、伊達原の部下になった段階で既に二人は同じゴールに向かって歩んでいたとは…。

明墨や伊達原に「アンチ」な部分があったからこそ、桃瀬や緑川の権力や圧力に屈しない姿がこの物語には必要不可欠だったのではないでしょうか。

そして、緋山もまたこの物語に必要不可欠な人物でしょう。
明墨は最終回でこんなセリフを残しています。

法律とは一体何なんでしょう。 我々は法律によって白か黒かを公平に判断することができます。 ですが、それも所詮人間が作り上げた尺度です。 法によって白となった者が本当に白なのか。黒の奥には、実は限りない白が存在しているのではないか。 それを考え続けることこそが、こんな世の中を作ってしまった我々の役割なのかもしれません。

アンチヒーロー 第10話より

緋山は殺人をしてしまった。しかし、その裏には被害者からのパワハラや大切な母親を踏みにじるような発言がありました。
「黒の奥には、実は限りない白が存在しているのではないか」
これはまさに緋山を表していると言えるでしょう。

「事実から目を背けず、どうか生きてほしい」
明墨から緋山へのラストメッセージは、罪を犯してしまった者への最大限の願いがぎゅっと込められていました。

ちなみに、一番好きだったシーンはラストの紫ノ宮と倉田の面会シーン。
「娘に守られる父親なんてカッコ悪いだろ」と笑顔を見せた倉田。
倉田もまた娘を守るという正義のために悪に手を染めてしまった。 
ただ、父の笑顔が見たい。
その一心で父を犯罪者として切り捨てることなく、一人の娘として、弁護士として向き合い続けた紫ノ宮。
止まってしまった二人の針が再び動き出した。そんなシーンでした。

・未回収でも良いじゃない

「全伏線回収」
10話の予告でそう宣言され、明墨・桃瀬・緑川の関係性などは見事に明らかになりましたが、
・糸井一家殺人事件の真犯人
・明墨と白木の出会い
などは明らかになりませんでした。
その他、緑川の元旦那が警察官僚だったことや青山の妻が弁護士だったことなど…。
でも、これはこれで一人一人それぞれの妄想で楽しめれば良いのかなぁと。
あくまで、ドラマの中の一世界として分からなかった部分も楽しみましょう(笑)

ただ、続編やスピンオフはかなりできそうな終わり方や構成だったので、いつか期待してしまいますね…

・正義を振りかざす「悪」は私たちかもしれない

アンチヒーロー放送期間中、実際に起きた「袴田事件」の再審が行われていました。
58年前一家四人が殺害された事件で、被害者の会社の従業員だった袴田巌さんが逮捕されます。
袴田さんは一貫して無罪を主張していましたが、検察の連日の取り調べに最後は自白。
公判では無罪を主張するも、死刑が確定。
しかし、証拠品などが証拠として不自然なものが多く、更には捜査において虚偽の実証実験が行われていたことも明らかになっています。

58年の時を経て行われた裁判。
ですが、ここでも検察は死刑を求刑しました。

袴田さんの戦いはまだ続いています。

現実世界で気持ちよく「正義」を振りかざし、誰かを追い込んでいるのは自分かもしれません。

法によって白となった者が本当に白なのか。黒の奥には、実は限りない白が存在しているのではないか。 それを考え続けることこそが、こんな世の中を作ってしまった我々の役割なのかもしれません。

この世の中に様々なメッセージを投げかけてくれたアンチヒーロー。
最高の3か月をありがとう…!

またいつかチーム明墨に会えるその日まで…

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