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【エッセイ】夜行バスが好きだ
僕は夜行バスが大好きだ。
年に数回東京に遊びに行くのだが、移動手段はもっぱら夜行バスである。
深夜、終電が迫ろうかという時間に家を出てバスターミナルに向かう。
皆が寝静まる中で、これから旅が始まるワクワクを噛みしめる。
バスターミナルに着いたらお手洗いを済ませ、コンビニで水を買う。
乾燥する車内で快適に過ごすためには欠かせない。
バスターミナルには独特の雰囲気が漂う。
新幹線ホームのような華やかさはそこにはない。
特に首都圏に向かうバスならなおさら。ほとんどがこれから旅を始める者。
観光・仕事・帰省…。
様々な想いが一つの車両の中で交錯する。
静かに出発を待つあの時間。旅立つ前の静けさがまた堪らない。
バスが着き、淡々と乗り込んでいく。
格安の夜行バスは座席が指定できないケースがある。バスに乗り込む直前まで自分の座席がどこになるかわからない。窓側か、通路側か…。ちょっと緊張する瞬間でもある。
バスに乗り込み、荷物を整理して腰掛ける。
夜行バスに乗り込む時は夏場でも必ず羽織れるものを持ち込む。野菜室の野菜か!と言わんばかりに冷気を当ててくる夜行バスも多い。これも欠かせないルーティーンだ。
休憩のSAは必ず立ち寄る。深夜、人気も少ないSAにぼーっとたたずむあの時間が好きだ。意味もなく食堂のメニューやお土産コーナーにある地元の名産品を見つめたり、自分が運転するわけでもないのに道路状況を示す電光掲示板を見たりする。
その電光掲示板では事故防止のため実際の事故映像が流れることがあるのだが、深夜に見るとちょっと怖い。
屈伸、伸脚をして体をほぐしながら止まっている他の夜行バスを見つめる。
みんなどんな想いを背負って東京に向かうのだろうか…。
起きていればSAでは必ず降りる。だから、夜行バスは通路側が好きだ。
ぐっすり寝ている人を起こすのは忍びない。
運転手さんのアナウンスが流れればそこはもう東京。
窓に映る東京の景色は何度見てもテンションが上がるものだ。
若干の眠たさと気だるさを感じながらバスを降りる。
特に予定がなければ到着はバスタ新宿にしている。
早朝、朝の澄んだ空気と明るくなり始めた空と共にそびえ立つドコモタワーを見て「また東京に来たんだなぁ」と実感する。
ここから少し電車を乗り継ぎ、銭湯で朝風呂に入る。
風呂からあがってもまだ8時くらい。モーニングコーヒーを飲んで長い一日が始まる。
一日を長~く使えるのが夜行バスの最大の魅力。一日パンパンに予定を詰めて帰りのバスはもう寝るだけ。
バスタ新宿で全国各地の行き先をみるのも行きとは違うワクワク感にあふれている。
今年の1月で27歳になった。就活をせず会社を立ち上げて早5年。
大学生→社会人というはっきりとした切り替わりが無かった分、学生のまま年を重ねている感覚になることがある。
「思っていた大人像と違う…」
夜行バスはその象徴。この歳になればみな東京に行くとなれば新幹線だ。
時には出張でスーツを身にまとい、パソコンをたたきながらコーヒーを飲む。
でも今の僕はそんな姿とは真反対。純粋に東京に遊びに行くためにラフな格好で夜行バスに乗り込む。いつまでも大学生のようだ。
でも、そんな自分も悪くないなと思う。
夜行バスを降りる度、「まだまだいけるな」と思う自分がいる。
夜行バスはハングリー精神の象徴的なものだと思う。快適さと引き換えに一日をフルに使うことが出来る。
目の前のものを体力の限界まで楽しむ。いくつになってもそんな時間があって良いだろう。
まだまだ夜行バスにお世話になろう。
心躍るワクワク感を忘れないために…。
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