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【家族とわたし】#3 渡辺俊美

もし「あなたと家族の思い出を聞かせてください」と言われたら、あなたはどんなエピソード、どんな感情を思い浮かべますか?

「家族とわたし」では、毎回ゲストをお招きして家族にまつわるエッセイをお届けします。第3回は、ヒップホップバンド「TOKYO No.1 SOUL SET」をはじめ、ギターとヴォーカルで幅広い音楽活動をされている渡辺俊美さん。2020年に映画化された著書『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』では高校生の息子さんとの絆が描かれていましたが、実は幼い長女と次男の子育ても真っ盛り。昔取った杵柄と思いきや、新しい課題をつきつけてくる育児の奥深さに圧倒される毎日のようです。大変さと同時に、新しい気づきを得る楽しさも感じる中で、いま「家族のために大切にしていること」とは―。

2014年、僕が高校生の息子のために3年間作ったお弁当のことを綴った『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』という書籍を出版しました。ありがたいことに多くの方に手に取っていただき、映画にまでしていただきました。

なぜ、僕は3年間、お弁当を作り続けることができたのか? 今になって振り返ると僕の中でふたつのことが重なったからだと思います。

ひとつは高校受験に失敗した長男が自分から「やっぱり高校に行きたい」と言って、再チャレンジを決めたこと。取り立てて勉強が好きでもない息子が自分から「もう一度チャレンジしたい」と決めたことなので、僕も一緒に学校に行くような気持ちで手助けをしたいと思いました。それがお弁当だったのです。

もうひとつの理由が東日本大震災でした。この震災で故郷の福島県が未曾有の事態に見舞われました。長男が高校に通い始めた時期と重なっていたのですが、僕は震災直後から福島県にボランティアなどで通い、その間長男は一人で家にいます。「もう高校生だし一人でも大丈夫だよ」という人もいましたが、親としてはやはり心配です。そんな環境の中で長男に対して何ができるかと考えたとき、僕が家にいられる日くらいは、親が責任をもって食材を選んだお弁当を長男に持たせたいと思いました。

子育ても一区切り。お弁当によって息子との絆も強まり、子育てに自信を持っていた僕でしたが、この後、実はまだまだ理解できていなかったことを思い知らされます。

二度目の子育てで、妻を“手伝う”気でいた自分に気づいた

長男が高校を卒業した後、僕は再婚して、娘と次男、2人の子どもを授かりました。僕くらいの年齢になると普通は落ち着いた暮らしをしているでしょう。でも僕は再び子育てがスタート。一度経験したことだから大丈夫だろうと軽く考えていましたが、実際にやってみるとわからないことだらけで毎日がバタバタです。

振り返ると最初の子育ては忙しい時期だったこともあり、生まれてすぐベビーシッターさんにお願いすることも多かったのです。嫌な言い方ですが面倒なことをお金で解決していました。でも今回は、全部自分たちでやろうと妻と話しました。

子育てが始まってから僕は妻の偉大さをひしひしと感じています。生命力というか、生きる力がすごい。娘が生まれた瞬間、妻は全力で娘に向き合うようになりました。出産前と後では違う人なのではないかと思うくらい、子どもに目が向いているのです。しかもその中で自分の時間もきちんと持つことを考える。そのために子育ての便利道具を探したりする努力も惜しまない。心からすごいと思いました。僕はというと、「子育てってこういうものでしょう」という思い込みが、僕を育ててくれた母親やおばあちゃんの時代から進歩していなかったのです。完全に“昭和”でストップです。

こんなエピソードがあります。まだ娘が小さかった頃に風邪をひいてしまい、僕は鼻吸い器を買ってきて娘の鼻を吸いました。僕が買ったのは口で吸うタイプ。ところが何度も吸っていたら、娘の風邪がうつってしまいました。すると妻は「はいこれ」と電動の鼻吸い器を僕に渡しました。僕は鼻吸い=口で吸うと思っていたのでお店で電動タイプが目に入っていなかったのです。

思い返すと、子育てが始まってからの数年間を妻に謝りたい気持ちになります。僕は一生懸命のつもりでしたが、実は子どもではなく妻を見ていた。しかも、僕は全力のつもりだったのに、妻から見たら100のうち30くらいしかできていないと指摘されて初めて「確かに、洗濯や掃除などの家事すべてが中途半端だった!」と気づいたんですね。

僕は自己嫌悪に陥りました。家事も子育ても嫌いではないのになぜ中途半端なのかと考え、ある日気づきました。妻と「全部自分たちでやろう」と話したのに、僕は妻を“手伝っている”という意識でいたのだと。家事も子育ても、やらなきゃいけないことの奥にはさらに細々としたことが発生するもの。掃除ひとつとっても、僕は掃除機をかけて終わりますが、妻はもうすぐゴミ袋がなくなるから買っておかなきゃと先のことまで見ています。娘のわずかな手荒れにも気付いたとき、どうしたのだろうと不思議に思うだけでなく、妻はすぐに病院に連れて行く。家事も子育ても想像力が大切だということに気づきました。

妻が昔からそうだったかというと、それは違うと思います。母になったことで自然に周りのことが見えるようになったのでしょう。

このことに気づいてから僕は子どもに向き合うのはもちろん、妻と共感しあえる瞬間を持ちたいと思うようになりました。「そうだね、そういうことってあるよね」と妻と一緒に話したくて、育児雑誌や育児のWEBサイトに目を通すようになったのもこの頃からです。

幼稚園生の娘に作るお弁当から、家事へのスタンスが変わった

2人目の子どもが生まれた後、妻はなかなか体調が戻らず不安定な様子でした。小さな次男の面倒を見ながら、元気いっぱいの娘のことも見なければなりません。週末になると僕はライブで地方に行ってしまうため、余計にヘトヘトに。そこで妻と話し、幼稚園に通うことになった娘のお弁当を僕が作ると決めました。

最初は妻も大変だし、昼ごはんくらいは僕が作ろうかなというくらいの気持ちでした。料理は好きだし、3年間お弁当を作ったから大丈夫。ところが実際に始めてみると、大変なことだらけで驚きました。

まず量の加減がわからない。ある日、幼稚園から「お弁当の量を減らしてほしい」と電話がかかってきました。突然のことに僕は驚きましたが、理由を聞いて納得です。娘のお弁当はごはんやおかずの量が多くて食べるのに時間がかかり、お弁当の後に遊ぶ時間がとれないと言われたのです。これは盲点でした。僕はお弁当の量を少なくし、前の晩に娘に「明日はなにが食べたい?」と聞くようにしました。好きなおかずならきっと早く食べてくれるはずと思ったのです。

最初にお弁当を作ったとき、長男は高校生ということもあり、何を入れても文句は言わせないぞという気持ちで作っていました(幸いなことに、文句は言われませんでしたが)。しかし、娘の場合はそうはいきません。だって僕は、まだ小さい娘には特に嫌われたくありませんから。

娘のリクエストはどんどん加熱していきます。最初は食べたいものを話していたのに、やがてもっとかわいいお弁当がいい、お弁当箱もかわいくしたいと言われ、僕は途方に暮れてしまいました。長男には僕が好きなものを作っていましたが、娘は僕が好きなものを作らせてくれません。

でも、この頃から想像力を働かせながら家事に取り組めるようになったと思います。娘の「おいしかった」という言葉は最高のプレゼント。お弁当作りだけでなく、生活全般に置いて、娘にもっと喜んでもらうにはどうしたらいいかと自然に考えながら動くようになったのです。

そんな娘も年長さん。もうすぐ幼稚園を卒業します。そして4月からは次男が同じ幼稚園に入るので、お弁当作りはまだまだ続きます。

夫婦で決めた、子どもたちのための大切な約束

子育ては人それぞれ。家族のかたちで変わってくるものだと思います。かつての僕は、妻という者が子どもたちを100%の力で見て、夫である僕は妻を100%の力で支えるものだと考えていました。僕と同じようなパパはきっと多いのではないでしょうか。でも、ママはそんなパパにイライラするかもしれませんね。それでも続けていれば、パパは子どもから褒められたくなるもの。きっとパパもだんだん変わってきます。大切なのは夫婦がお互いを尊重しあえるかだと思います。

2011年にスタートした最初のお弁当づくりは、当時高校生だった長男との約束でした。そして今、僕は妻とひとつの約束をしています。それは子どもたちの前で喧嘩をしないということ。もちろん我慢することもあるし、それでもちょっと言い合いになることもあります。そんなときもすぐに仲直りした姿を子どもたちに見せる。これは妻との約束であり、「ママとパパはいつもニコニコだよ」という、子どもたちとの約束です。

作者|渡辺俊美(わたなべとしみ)
1966年12月6日生まれ、福島県出身。TOKYO No.1 SOUL SETのギター、ヴォーカルとして1994年にメジャーデビュー。2010年には福島県出身の松田晋二(THE BACK HORN)、山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(風とロック)とともに猪苗代湖ズを結成。また、ソロユニットTHE ZOOT16としても活動中。現在、渡辺俊美 & THE ZOOT16名義の最新アルバム『NOW WAVE 2』が発売中。また、2014年に刊行した『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』の文庫版が発売中。
Twitter @zootset
Instagram @toshimi_watanabe
イラスト|三好 愛(みよし あい)
2011年、東京藝術大学大学院を卒業。イラストレーターとして書籍の装画や挿絵を数多く手がける。日々のできごとや人との関係の中で起きるちょっとした違和感を捉えた独自の世界観が魅力。主な仕事に伊藤亜紗さん「どもる体」(医学書院)装画と挿絵。
WEBサイト  http://www.344i.com/
Instagram @ai_miyoshi
Twitter @344ai

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