7日目:むしばむ【蝕む・虫喰む】 →掌編小説
むしばむ【蝕む・虫喰む】
① 虫が食って物を損なう。
② (虫が食うように)悪弊や病気が少しずつ体や心をおかす。
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「このレタス、悪くなってるよ」
夫が冷蔵庫の中を見て、言った。
「ああ、これも。どうしてそういうの、分かんないの?」
夫はわたしの方に目を向けることもせず、ドサドサと音をさせて乱雑に、野菜たちをゴミ箱に捨てた。
もったいない、まだ食べられる、食べなきゃと思いながら手を付けず、腐らせてしまった食べ物たち。
もう食べないならさっさと捨ててしまえばいいのに、腐り切って可能性がゼロになるまで、捨てられない。
「今度から気を付けてね」
そう言って夫は、ゴミ袋を閉じることもせず家を出た。次に燃えるゴミを出せるのは4日後だから、腐敗はより進んでしまうだろう。
そんな些細なことを説明する労力すら、夫にかけるのが面倒くさい。
私たちの夫婦関係は、お互いすら気づかない小さな箇所から腐敗が進んでいった気がする。
腐るなら、さっさと腐ればいい。腐り切ってしまえばいい。罪悪感なく、捨てられるように。
今夜の夕食は、なにを作ろう。冷蔵庫を開けて、中身を確かめる。夫の手により残された食材で、作れるものはまだあるだろうか。
空に近い冷蔵庫を前にして、わたしは途方にくれて立ち尽くす。
お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!