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「水場」著者インタビュー04 フィルム時代の野鳥撮影

noteにて無料公開された野鳥写真集「小鳥のくる水場  ぞうき林の小さなオアシス」。撮影当時の思い出や、動物カメラマンとしてデビューした道のり、「チョウゲンボウ 優しき猛禽」「野鳥記」に至るまでの経緯などなど著者の平野伸明に、いろいろな話をお聞きました。
全6回、どうぞお楽しみください。インタビュアーはしげゆかです。


前回に引き続き、書籍「水場」の思い出話です。

カメラとレンズについて

――当時使っていたのは、高校時代から使っていたカメラ、とかでしょうか?

(平野)いや、違ます。高校時代は、フジカのST701を使っていました。これは友人Fから買ったんだった・・・。

――友人Fさんはどんな方ですか?

(平野)中学高校同期の悪友親友です。彼はぼくの写真の先生なんですが、野鳥の世界にいざなってくれたのも彼です。彼は野の鳥の生態にとても詳しかった。

いつも彼は僕より一歩先んじて野鳥を撮ってて。僕はこの道に進みましたが、彼も生き物好きは変わらず、つい最近まで県の職員としてハクビシンやアライグマの有害鳥獣を研究してました。よくテレビで彼の姿を見ます(笑)。

ーー道は違えど、同じ動物関係の仕事をしているというのは、嬉しいですね。

(平野)カメラの話に戻りますが、フジカのST701にレンズはタムロンの300mmを装着して使っていました。
それから数年後、水場で使っていたカメラはCanonです。当時のカメラはフィルム巻き上げ式のアナログカメラです。レンズは、初夏はFD50mm、秋冬はより広角になるFD35mmを使っていました。初夏ではツミの翼の心配もあったし(笑)、秋冬は35mmを使ったことによって背景がよく写り、画の変化が出せたと思います。

当時の撮影のアナログさ

――今のカメラは液晶画面で撮る前から露出や絞りなんかがわかりますが、当時は撮影した数値で感覚をつかんだりしていたんですか?

(平野)撮影はマニュアル撮影だから、撮影前と終わりにはカメラの前に手をかざしたりして、ピントと露出を必ず確認していました。

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▲撮影当時水場にて 露出やピントは毎回確認していた

――でも、そうして撮影された写真も、現像に出して結果がわかるのは数日後ですよね?

(平野)そう。とにかくその場ですぐに見られないから。試行錯誤の繰り返し。そうやって調整するしかなかった。

――後になってあの時失敗してたってのがわかるのはつらいですね・・・。

(平野)今はすぐわかりますから恵まれていますよね。それにフィルムも高価だったから、撮影するのも1日に何本までしか撮らない、とかあらかじめ本数を決めておいて撮影していました。

当時のスライドフィルムは、1回シャッター押すたびに、現像代など含めてだいたい30~50円はかかっていた。1本36枚撮りだから、1本で2000円近くかかることになる。それを毎日数本となると結構な金額だから節約していたんです。
チョウゲンボウの撮影にはモータードライブ(連射システム)を使っていたけど、残り5、6枚になったら1枚撮りに変えて撮影するとか。

――頭の中で残り枚数を常に計算しながら。

(平野)フィルムのチェンジのタイミングも難しい。「今なら鳥がいないからフィルムチェンジ出来るぞ。でも、フィルムはあと数枚残ってる。新しいのに変えるか変えないか」・・・もうお金のない者の情けない葛藤(笑)。でも、当時の自然系のカメラマンだったら誰しも経験があると思いますよ。それほどカメラはお金がかかり、切実な問題でした。その点、今は本当にいい時代ですよねぇ。

――SDカードも、1TB、2TB・・・なんて膨大な容量も出てきました。

(平野)そうですね。でも、今はデジタルで膨大な量を撮れる分、撮影が雑になっているのも否めない。今回、数十年ぶりに過去に撮影したポジフィルム(スライドフィルム)をじっくり見直せてよかった。

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▲ポジフィルムを見る平野

(平野)当時のフィールドワークの量の多さは今とは比べ物にならないくらいだったし、1カット1カットにかける時間や思いも違う。あの頃のアナログの経験が今の糧になっていると思いますし、あの頃の姿勢を忘れずにいたいですね。

ーーアナログとデジタル、それぞれの良いところを活かしながら、作品に反映させられると良いですね。

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