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男女賃金格差公開義務と諸外国の制度との比較

岸田政権は、女性活躍推進法に関する省令を改正する形で、常時雇用の従業員が301人以上の事業主に、男女賃金格差の公表を義務付ける方針を発表した。役職差や、雇用形態の違いなどが生む賃金格差を可視化させることで、各事業主にキャリア制度の改革を促す意図がある。このノートでは、方針内容と、それが諸外国の制度と比べてどのような共通点・違いがあるのかまとめる。

方針内容
対象:常時雇用する労働者が301人以上の事業主
公表内容:男性の賃金水準に対する女性の割合を開示
                   厚生労働省によると令和2年の大企業における男性の賃金水準に対する女性の割合は約71%(男性 377.1 千円、女性 266.4 千円)(厚生労働省, 2022)。この値を下回るかどうかは1つの目安になりそうだ。
     また、非正規・正規の雇用形態別にも開示を義務付ける予定。
公開方法: 自社のHP掲載と有価証券報告書での公表

この方針内容は、OECDの賃金格差に関する報告書における「賃金格差報告制度」に当てはまる。他の国では、オーストリア、オーストラリア、チリ(金融)、デンマーク、イスラエル、イタリア、リトアニア、英国などが類似した制度を持っている。例えば英国では、従業員が250人以上の事業主は、賃金とボーナスの男女別平均値と中央値の差を企業HPと政府のウェブサイトで公表する義務がある。

この報告制度よりももう一つ踏み込んだ制度が、「同一賃金監査制度」だ。ただ、賃金格差を公表するだけでなく、原因の分析や行動計画の策定が求められる。カナダ、フィンランド、フランス、アイスランド、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スイス、スウェーデンなどがこの分類に当てはまる制度を持っている。企業側への負担は大きいが、賃金格差の是正効果はより高いと報告されている(中村, 2022)。

今後、公開制度の具体案は労働政策審議会で検討されるようだが、諸外国の賃金格差報告制度と比べ、どのような内容の公表を求めるのか、長期的に監査制度を求める方針はあるのかなどに注目したい。

参考文献
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」. 2022/02/04.

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/dl/13.pdf

中村奈都子.「男女の賃金格差は5000万円 開示制度で改善なるか」. 日経新聞. 2022/05/22. 
OECD. "Can pay transparency tools close the gender wage gap?". 2021/11. 

日経新聞. 「男女の賃金差の開示義務化 政府方針、非上場企業も対象」. 2022/05/20. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA194T90Z10C22A5000000/


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