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毎朝コーヒーを飲むワケ

どんなに忙しい朝でも、自宅を出る2時間前には起床する。愛犬の散歩をした後、コーヒーを飲みながら新聞を読む。

日刊スポーツ、朝日新聞の順番で目を通す。このときのマイルールは1つ。すべてのページをめくるということだ。

私はギャンブルをやらないが、スポーツ新聞の中央部に位置するギャンブル面もめくる。熟読はしなくても、紙面の流れとともに、どんな記事が載っているかを把握する。

たった、これだけなのだが、記者になったばかりの頃の私は、朝の新聞チェックができなかった。1分でも長く寝ていたかったので、新聞も読まずに慌てて現場へ向かう日が多かった。

当然、取材現場で恥をかく。

「○○球団が▲▲するらしいね」
「えっ、そうなんですか!」
「…あれ、君のところの新聞に載っていたような気がするけど…」

こんな調子で仕事になるわけがないのだが、それでも朝は起きられなかった。

当時、主に取材をしていた秋田県でAさんという地元企業の経営者と知り合った。当時で65歳ぐらいだったから、私より40歳以上も上の方だった。

高校野球を取材しているときに「飯島さん、あなたの記事をいつも読んでいますよ」と声をかけてもらったのだった。

それを機に親しくさせてもらって知ったのだが、Aさんは10紙以上も新聞を購読していた。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞、地元の秋田さきがけ…スポーツ新聞から夕刊紙、地域情報紙、ミニコミ誌まで購読し、宅配されていない新聞は郵送で取り寄せてもいた。

「新聞を読むっていうのは大変な労力ですよね。読み終わったと思ったら夕刊がきて、次の日になってまた朝刊がくる。月に1度の休刊日はホッとします。もっと休刊日が増えてもいい」

自分が勤める会社の紙面さえ読めていなかった私には、耳が痛かった。黙って聞いていると、Aさんは言った。

「若い頃は少しでも寝ていたかったから、出勤の10分前に起きて、顔も洗わないで出ていっていました。新聞も読んでいないから、取引先の人と会話が弾まないし、ときには『何だ、こんなことも知らないのか』と、あきれられることもありました」

まるで、自分のことを言われているような気がした。

「それで毎朝コーヒーを飲む習慣をつけて、その時間に新聞を読むことにしたのです」

コーヒーメーカーを買い、ちょっと高級な豆を手に入れて、朝のコーヒータイムが楽しみになるように工夫したのだという。

最初は1紙を読み切るのが精いっぱいだったが、次第に余裕が生まれると他紙と読み比べたくなり、増えていった。政党の後援会にも属していたので、政治面を読み比べたかったのだろう。

「今はね、日刊スポーツを最初に開いていますよ。全ての新聞の中で、飯島さんの記事を最初に読んでいます」

笑いながら、そう激励してくれた。

私は翌朝からまねすることにした。コーヒーメーカーと豆を買って、自分でコーヒーをいれるようになった。出張先ではコンビニエンスストアで買った新聞を持って、コーヒーショップを探した。

コーヒーを飲むと、二日酔いが軽くなる気がした。その頃の私は毎日のように二日酔いだったので、これが続けられた最大の要因だろう。コーヒーを飲む習慣がつき、新聞をめくる時間ができた。

Aさんは数年後に亡くなった。

朝、コーヒーを飲みながら新聞をめくっていると、時々Aさんを思い出す。この習慣が身についてから、もう30年が過ぎた。


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