【短編小説】 スーパーカーと廃墟。
「大丈夫、大丈夫♪」
「止めようよ、怖いよ・・」
あきふみはマイミと一緒に廃墟へ肝試しに来ている。
わざわざ日付が変わりそうな時間に訪れる、地元の人からすると迷惑な訪問者であることは間違い無い。
パリッ
「キャッ!」
自分で小さな破片を踏んで小さな音が鳴っただけで、マイミは盛大に悲鳴を上げる。
「怖がりだなぁ」
ニヤニヤしながら、あきふみはここぞとばかりにマイミをギュっと抱き寄せて、さりげなくあらぬところに指を忍ばせる。
バンッ
叩きつけるようにドアが急に閉まった。
「ぎゃああああ!!」
先ほどは自分で踏んだ自覚があったようで可愛らしさを演出したが、今度はマイミの本性が出た。
マイミの伸ばした爪が、あきふみの手首を強力に鷲掴んでめり込んだ。
「うわっ、痛ってぇぇぇ!!!」
あきふみの雄たけびを聞いて、マイミがそれに逆上する。
「うぎゃあああ」
あきふみの悲鳴とマイミの叫びが輪唱を奏でている様子を、ジっと見ている人影にふたりは気付かなかった。
「怖かったねぇ・・」
あきふみの部屋に戻り、マイミが何事も無かったようにあきふみにしな垂れかかる。
やや血が滲んだ手首をさすりさすり、あきふみが懲りずにマイミを抱きしめながら体を撫でさすりしている。
「これ見ろよ」
あきふみがズボンのポケットから、赤い小さな塊をマイミに差し出した。
「え? 何これ?」
「拾って来ちゃった、戦利品♪ あはは!」
赤い小さな塊はよく見ると消しゴムのスーパーカーで、加工を施されているようだ。
「やだぁ、そういうの拾ってこないでよぉ~」
マイミはスーパーカーを指先でツンっと突いた。
えへへへ、うふふふ・・・
スーパーカーは先ほどまでの恐怖と興奮を思い出させたのか、二人の何かを起動させるスイッチになったらしい。
「・・・返せよ」
「え??」
「え、なに??」
二人以外の「何か」の声が聞こえた。
「・・・・返せよぉぉ」
やや高ぶった若い男の声。
「やだ・・、なになになに???」
「マジ? マジで? ヤバイ、ヤバイ!!」
怯える二人に畳みかけるように更に若い男の声が聞こえる。
「・・・上は大雨、下は大火事、これなぁんだ?」
くぐもった男の声が問い掛けて来る。
「やだ、やだ、怖い!!!」
マイミの爪が再びあきふみの手首にめり込む。
「お? おおお???」
あきふみは開いた口が塞がらない。
お互いを必死に手繰り寄せながら部屋を見回すが、二人以外の気配は感じられない。
しばらく震えながら、時間が過ぎて行った。
「声」はあれから聞こえず、部屋に異変も起こらない。
「気のせいだったのかな。。」
「多分そう、そう、きっとそう! さっぱりしてすぐ寝ようぜ!」
恐怖とエロは表裏一体。
欲望丸出しのあきふみに、ひとりで風呂に入ることは「ちょっぴり怖い」マイミも「乗った」。
何事も無かったように、イチャイチャしながら脱衣して、風呂場を開けた。
「かえせよぉぉぉぉぉ!!!」
妙に頬を染めた「透けた」中学男子がマイミに熱い視線を投げながら、迫って来た。
「・・・・!!!!」
腰が抜けた二人はその場にへたり込んだ。
「お前らがうちに勝手に上がり込んで来たんだ。あれを返すまで、オレもここに居てずっと見ているからな、その権利はあるんだからな!!」
あきふみには全く目もくれず、中学男子はマイミをガン見するでなく、チラチラ見ている。
恐らく中学2年、ガン見する勇気は、まだ無い。
「あんたがヘンなもん拾ってくるからよ、行きたく無かったのよ、あんなとこ、バカ男ぉぉ!!!」
マイミがあきふみをブン殴って、走って、着て、出て行った。
腰の抜けたままのあきふみに、中学男子は素っ気なく、
「返せよ、じゃないとずっといるんだからな。ずっと見てるからな。」
翌日、日が昇るや否や、あきふみはバイクを飛ばして廃墟の玄関にスーパーカーを投げつけた。
「タダで見てんじゃねぇよ!!」
スーパーカーから小さな声が聞こえた。
「お前は見てねぇよ」
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