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【小説】 変える、変われる。 : 86

パタン。

「おはよ~」

「おはよう! 野木さん、ちょっと話があるんだけどさ。」

「どうしたの?」

「金曜日にさ・・・」

「え?? きむちゃんが・・・」

「で、多分、きょうからさ・・・」

「あぁ、そうか、まぁ、そうなるねぇ、でも・・・」

「うへへへ、そう言ってくれると思っていたよ・・・」

「きむちゃん、どうするかな・・・」

「きっと大丈夫、きむちゃんは・・・」

「そうだね、きっとそうだよね!」

「んじゃ、かますから、よろしく哀愁!」


週末は石黒さんとずっと一緒にいられて至福の充実具合だったせいか、月曜日のきょうはパチっと目が覚めた。

時計を見ると早朝気分だったけど、実は朝の9時ちょい過ぎ。

それでもここ3週間では最速起床な気がする。

適当な朝ごはんを食べて、掃除洗濯を済ませても11時前。

玉ちゃんから離職票関係書類の届く気配は感じられないから、せめて何か短期間で短時間なバイトでもしようとパソコンを立ち上げた。

近くの運送会社で早朝仕分けの募集があったのと、スーパーの品出しが程良いかなと思って、募集ページを後で問い合わせをするために、お気に入り登録した。

接客といった接客が無さそうなのも好都合。

そうそう、きょうから石黒さんを迎えに行くから、車にガソリンを満タンにすべく出掛ける準備をしないと。


「こんにちは、お世話になっております。」

「こんにちは。」

「三田村さんは外出でしょうか?」

「本日は朝から外出となっております。奥で石黒が対応させて頂きます。」

「はい。」


「こんにちは。お世話になっております。」

「こんにちは、お忙しいところ申し訳御座いません。」

「いえいえ、先ほどメールでデータは送信させて頂いております。ご確認頂いてますか?」

「はい。拝見致しました。問題無いと思います。有難う御座います。」

「・・・こないだ、大丈夫だった?」

「あ・・、はい、あの、大丈夫です。色々とご心配お掛けしました。。」

「そしたら良かった。まあ、きむちゃんが送るからそこは心配しなかったけど。」

「・・はい、あの、うちまで送って下さったので。。」

「そかそか。」

「玉田さんにもご迷惑お掛けしました。申し訳御座いませんでした。」

「全っ然問題無し。なんならちょっと安心したし。うひひひ。」

「・・・」

「では、こちらの資料は頂戴致します。事務所に戻り次第、メールを確認しまして、追ってご連絡させて頂きます。」

「あっ・・、はい、宜しくお願い致します。」

「それでは、失礼致します。」

「ちょっと!!! あんた、こないだ!!!」

「ども! 失礼します!」

「あんた、待ちなさいよ、ちょっと!!!」


「お!」

時計を見るともう少しで17時。

いつの間にロングな昼寝をしてしまっていたようだ。

今週は晴れが続くとラジオの天気予報が教えてくれたので、満タンついでに洗車もお願いした。

部屋も車もスッキリして、爽やかな気持ちでゴロゴロしていたら、がっつり寝落ちしていたらしい。

まずは「今から出ます。」と出発メールをポチリ。

急いでピカピカな車で石黒さんを迎えに向かった。

月曜は少し道路が混むけど、事故でも無い限りは遅くても17時45分には余裕で到着出来る。

安全運転を心掛けつつ、バスやタクシーの車線変更にも爽やかな笑顔で道を譲りまくった。

何となく世間に優しくすることで、徳を積んで色々なことが良い方向に進みますようにと願を掛けつつ。

優しくする運動のお陰で、初日のきょうは予定通りの時間に到着出来た。

念のため玉ちゃんの教えを守って、サングラス装着とパーカーをすっぽりと頭まで被っておいて「到着しました。」メールをポチリ。

着信は何も入っていないけど、まだ約束の18時では無いのでバックミラーで『いますぐ』の玄関の人の出入りをチラチラ確認しながら待つことにした。

18時を回った辺りで、望月さんが玄関から出て来た。

続いて、なんとなく見たことのある面々がポツポツと帰社し始めた。

誰もこちらを気にする様子が無いので安心した。

15分過ぎた辺りで、石黒さんが玄関の階段をキョロキョロしながら駆け下りて来た。

車の窓を少しだけ開けて、ヒラヒラと手を振ったら一目散に駆け寄って来た。

エンジンを掛けると、後部座席のドアを開けてスルリと石黒さんが乗って来た。

速やかに車をスタート。

「お仕事、お疲れ様でした。」

バックミラー越しに声を掛けた。

「本当に来てくれたんですね。。」

泣きそうな顔の石黒さんがバックミラーに映っている。

「必ず行くって約束しましたから。」

「・・ありがとう。」

一日不安だったのかもしれない、本当に僕が来るのかどうか。

「夕飯、うちで食べましょう。 その後送りますから。」

「はい!」

安心した笑顔の石黒さんに戻った。


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