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データで見る英語弁論大会②——Judging Sheetから分かる大会の理想スピーカー(本選編)

「データで見る英語弁論大会」シリーズの第2回です。

本稿では、過去に国内で行われた英語弁論大会の審査用紙の基準と配点割合を分析して参照することで、当該大会がどのようなスピーカーを理想としているか、また各大会で入賞可能性が高いスピーカー像を考えていきます

ここでは主に、本選審査の審査基準についていくつか事例を取り上げます。予選審査については、以下の記事を参照してください。

1. 前段

肥前国平戸藩の藩主で「心形刀流(しんぎょうとうりゅう)」剣術流派の達人、松浦静山は、剣術書『常静子剣談』で「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と残しました。野村克也氏の座右の銘として広く知られています。

しかし、英語弁論大会の採点評価は「勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし」です。

弁論大会の結果は

最終評価 = 審査基準と配点 × 審査員の採点 × 出場者のコンディション

の等式です。そして最終評価の土台であり要が大会の審査用紙における項目配点です。入賞が目標の出場者の人は、大会の審査基準と配点から既に3分の1の勝負が決しているのであれば、知っておいて損にはならないでしょう。

2. 過去の英語弁論大会における審査基準と配点の実例から見る「理想のスピーカー像」「入賞するスピーカー像」

実例1:完全均等配点型

完全均等配点型評価は、総合得点を各項目ごとで完全に均等に配分した評価形式で、項目における傾斜配点が存在しません。この配点形式を採用する大会は、Contents、English、Deliveryの各項目について、スピーカーのスピーチをバランスよく評価し、さまざまなスピーカーの個性を偏りなく評価しやすい形式だと言えます。

1-1. 第10回Golden Cup争奪全日本学生英語弁論大会(2011)

※解説1:左側に記されているのは、①CDEカテゴリごとの項目、②各CDEカテゴリに属するサブカテゴリ1、③各サブカテゴリ1に属するサブカテゴリ2 です。③は①の各項目を最もブレイクダウンして参照した結果となります。※解説2:中央右寄りに記された「評価」は、審査用紙の評価が何段階となっているか、「倍率」は当該採点項目の採点を何倍して項目得点にするかを示しています。言い換えると、項目得点は次のような式になっています。

得点 = P, 評価(評価段階) = E, 倍率 = n
項目の得点: P = nE

特に注目する点は、右側に赤枠で記された項目と、青枠で記された項目です。まず赤枠は「Sub2各項目の総合得点比率」です。審査用紙の各項目が総合得点に比してどれくらいの得点比率を占めているかを表しています。次に青枠は「Sub2各項目のCDE内比率」です。各項目が、該当するCDEカテゴリ内でどれくらいの得点比率を占めているかを示しています。

完全均等配点型採点を本選で採用している大会は現在ほとんど存在しません。そのためやや古い資料ではありますが、2011年に実施された第10回Golden Cup争奪全日本学生英語弁論大会の本選を参考資料とします。

採点基準のカテゴリ定義が一般的なCDE型と異なっていますが、最も右側列を参照すると、"Criteria"の各項目が全て均等に配点され、傾斜配点が存在しないことが分かります。

実例2:準均等配点型(部分傾斜配点型)

準均等配点型評価は、総合得点を各項目ごとに配分する際、一部項目のみを傾斜配点した評価形式です。この配点形式を採用する大会は、Contents、English、Deliveryの各項目について、スピーカーのスピーチをバランスよく評価するとともに、大会が重視したい特定項目について傾斜配点を採用しています。大会で設定されたコンセプトなどを特定項目に反映することで、大会の理想のスピーカー像を採点評価に直接的に反映しやすい評価形式と言えます。以下に代表的な例を挙げます。

2-1. 第71回高崎市長杯英語弁論大会(2021)

第71回高崎市長杯は、項目における傾斜配点が比較的少なく、得点はほぼ均等に配分されていますが、特定項目の配点が傾斜されています。具体的には、Contentsの"Message"カテゴリにおける"Originality"、Question & Answerの"Quality and clarity of the answers"の2項目のみです。いずれも10段階10点満点となっています。これらは総合得点比でそれぞれ7.6%となります。その他の項目については5段階5点満点評価です。

以上を踏まえ、高崎市長杯における採点傾向の特徴を総括すると、次のように述べることができます。

  • スピーカーのスピーチがバランスよく評価され、Topicやスピーチタイプの違うスピーカー同士でも比較的公平に評価されやすい

  • Contents得点が全体の46.4%に対し、EnglishとDelivery得点が全体の42.9%を占め、Contentsの内容評価にやや優位性がある

  • スピーカーの独自性——独自の着眼点や経験などが重視されやすい

  • Q&A配点が全体の10.7%を占めており、特に回答内容の明瞭性と品質で結果が左右される可能性が高い

2-2. 第45回福澤杯争奪全日本学生英語弁論大会(2021)

第45回福澤杯は原稿を予め用意するPrepared Speechと、即興スピーチのImpromptu Speech2つの発表機会が設けられていますが、ここでは前者について取り上げます。

第45回福澤杯は、採点項目数が比較的少なく、また得点もおおむね均等に配分されている特徴があります。配点が傾斜されている項目は、Contentsの"Choice of Topic”と"Title"、Deliveryにおける"Verbal"の評価です。前者2項目は5段階5点満点、後者は6段階評価15点満点となっています(福澤杯の場合、全項目に最低得点1が設けられている)。特に目を引くのは、総合得点比13.0%のDeliveryの"Verbal”です。

"Verbal"の評価基準は、次のように定義されています。

Whether he/she delivers his/her opinion efficiently and effectively by using his/her own voice.
Ex)Volume・Stress・Speed・Pause etc…

以上を踏まえ、第45回福澤杯におけるプリペアドスピーチの採点傾向の特徴を総括すると、次のように述べることができます。

  • Contents得点が全体の43.5%に対し、EnglishとDelivery得点が全体の39.1%を占め、Contentsの内容評価に優位性がある

  • Q&Aが全体の17.4%を占め、Contents以外の配点と合算すると56.5%となり、Contentsの配点割合を上回るため、原稿評価と実演面でスピーチ評価が大きく変化する可能性が高い

  • Deliveryの"Verbal"に特に配点比重が置かれており、声量や語句の強調、速度や間の取り方を適切にコントロールすることにより、話者の意見を効率よく効果的に伝達できるかが、評価に影響を及ぼす可能性が高い

2-3. 第48回大隈重信杯争奪全日本学生英語弁論大会(2022)

第48回大隈杯は、項目における傾斜配点が比較的少なく、得点はほぼ均等に配分されていますが、特定項目の配点が傾斜されています。具体的には、Contentsの"Topic"カテゴリにおける"Signficance"、そして"Originality""Persuasiveness"で、総合得点比約21.3%です。またQuestion & Answerカテゴリの"To the Point""Depth of Answer"の2項目で総合得点比14.2%となります。これらを合算すると全体のうち約35.7%となり、全採点項目23項目中5項目で36%近くの配点が与えられていることになります。これはEnglish & Deliveryの全12項目中10項目で満点を取ることに等しいと言えば、いかに高い配点かが分かります。

以上を踏まえ、第48回大隈杯における採点傾向の特徴を総括すると、次のように述べることができます。

  • Topicで勝負が決しやすい。特にSignificanceの高いTopicを取り上げるスピーカーを重視する傾向がある

  • Contentsを綿密に詰め、主張の説得力が高いスピーチが重視されている

  • スピーカーの独自性——独自の着眼点や経験などが重視されやすい

  • Contents : English & Deliveryの比率は1:1だが、QA配点が全体の14.3%を占めているため、QAの回答が流暢なスピーカーに優位性がある

実例3:Contents配点傾斜型

3-1. 第58回大木杯争奪全日本学生英語弁論大会(2022)

第58回大木杯は、主にContentsの各項目に対し傾斜配点されている代表的な大会です。Contentsカテゴリが総合得点の51.4%を占めるのに対し、English & Deliveryの合算値が全体の37.1%です。これにQ&Aの配点割合11.4%を合計しても、約48.6%までしか及ばず、Contentsの配点比率を上回ることができない配点となっています。

赤枠Sub2、総合得点に対する各項目の配点割合を参照すると、English & Deliveryの13項目の合計値が約37.1%です。これはContentsおよびQ&Aの7項目で満点を得点すると上回ることができます

以上を踏まえ、第58回大木杯における採点傾向の特徴を総括すると、次のように述べることができます。

  • Contents : English & Delivery配点比率差は訳14.3%と、国内主要大会の中でも特に開きが大きく、Contentsの優れたスピーカーが評価されやすい傾向がある

  • TitleやTopicの良し悪し、内容の独自性から構成の良し悪しや分析力等に至るまで、全般的にContents各項目に弱点の無いスピーカーが高評価される

  • Contentsで差がついてしまった場合、Q&Aでのフォローアップでも挽回することは難しい

実例4:English & Delivery配点傾斜型

English & Delivery配点傾斜型は、総合得点を各項目ごとで配分するに際し、EnglishとDeliveryの各項目を重点的に傾斜配点した評価形式です。この配点形式を採用する大会では、原稿記述における構成力や論理性より、英語運用能力や実演能力により差がつきやすいと言えます。本選では該当する大会はありませんが、第19回梅子杯予選(2021)は一例と言えます。前回の「予選編」記事で取り上げているので、以下のリンクから参照してください。

3. 結び

英語弁論大会におけるスピーチの評価は、最終評価 = 審査基準と配点 × 審査員の採点 × 出場者のコンディションの等式で成立しています。当然の事実ではありますが、審査員の採点と出場者のコンディションは変数となるため、最終評価を100%予想することは非常に難しいことです。

しかし、それは裏を返すと審査基準と配点はある出場者の最終評価に至るまでの公式において最も確定的な要素だと言えます。これらについて情報を集め、理解を深めることは、入賞を目指す出場者に取ってはその扉を開くために重要な鍵となり得ます。そして大会主催者にとっては、どのような出場者を理想とするかを最も直接的に具現化する手段について理解を深めることにつながります。こうした研究は、英語弁論を愛する人々にとって必ず有益な学びや経験となるでしょう。

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