見出し画像

ジャズとヒップホップが教えてくれるダイバーシティ経営に欠落していること

奴隷制度下で黒人奴隷が、アメリカ南部のコットンフィールドや森林の奥地、または沼地の中など、プランテーションオーナーや警備員に見つかりにくい場所に設置されコットンフィールドの中にあった【見えない教会】で、創造した「黒人霊歌」。

南北戦争終結後の奴隷解放によって、少し自由な時間を持つことができるようになった黒人が、神についてではなく自分たちについて歌った「ブルース」。いずれも黒人が、独自に創造してきた音楽スタイルです。


元々がスペイン領で、フランス領となり、様々な国の人が行き交う貿易港であったニューオリンズ。

この街で、南北戦争終結後、南軍軍隊楽団の楽器が、安価で手に入るようになったことで、黒人も管楽器や打楽器を手にすることができたことで創造された「ジャズ」。

アフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人といった多民族が共存する荒廃した街であったニューヨーク・ブロンクスから、先人が創造した音楽に、新しいテクノロジーによる新しい視点や手法と解釈を加えて、創造されていった「ヒップホップ」


「ジャズ」と「ヒップホップ」は、ダイバーシティによって創造されていった音楽スタイルです。

「黒人霊歌」「ブルース」そして「ジャズ」「ヒップホップ」は、それぞれ創造された時代も環境が違っていますが、

社会的弱者であるマイノリティが、知恵と工夫によって創造したという共通点があります。

「スウィング・ミュージック」のアンチテーゼとして巻き起こった「ビ・バップ革命」によって、ジャズは、黒人主導による「芸術音楽」となり、1950年代に音楽シーンの主役の座を射止めた「モダン・ジャズ」として進化していきました。

1960年代に入ると「ブルース」をベースにした白人主導の「ロック」の来襲によって、「モダン・ジャズ」は、瞬く間に衰退していき、70年代以降、長い間「ロック」が音楽業界の主役の座に居続けます。


2017年の米国レコード協会(RIAA)のデータによれば「ヒップホップ/R&B」が、「ロック」を抜いて全米で最も多くの音楽ストリームを獲得するジャンルとなり、2018年の報告書によれば、「ヒップホップ/R&B」は全米で最も多くの音楽ストリームとダウンロードを獲得するジャンルで、全体の24.5%の売上を占め、これはロックの21.7%を上回っています。

Spotifyの2019年のデータによれば、ヒップホップが同サービスで最もストリーミングされたジャンルであり、世界中で最も人気の高いアーティストの多くが「ヒップホップ/R&B」のアーティストであることが明らかになっています。

2018年のNielsen Musicのレポートによると、ヒップホップは、CD売上全体の21.7%を占め、ロックは20.1%を上回り、音楽業界のトップになったというデータもあります。

2020年代の音楽業界の主役は、間違いなく「ヒップホップ」です。


マイノリティの知恵と工夫によって創造された音楽が、マジョリティに受け入れられて「メイン・カルチャー」となり、そのアンチテーゼとして、新たにマイノリティが創造した音楽が「カウンター・カルチャー」となって、音楽業界にムーブメントを起こし、主役の座が入れ替わるということが繰り返されています。

この変化は、正に企業の変革サイクル(「創業期」→「成長期」→「安定期」→「衰退期」)と同じです。

アメリカの社会心理学者:フィリップ・テトロ博士が提唱する「マイノリティのための創造性の理論」

この理論によれば、マイノリティの人々は、少数派であるために、多様な視点や経験を持ち、従来の思考やアイデアにとらわれず、新しい視点から問題を解決する能力に優れているとされています。

この理論は、従来の創造性に関する理論や研究が、主に西洋の白人男性に基づいていることに着目していることに対して、マイノリティの人々は、社会的・文化的背景の違いによって、異なる思考やアイデアを持ち得ることが指摘されています。

また、マイノリティであることが、社会的な圧力や偏見に対する抵抗力を養うことにつながり、自己実現や自己表現を促すとされています。

テトロ博士は、「マイノリティの人々が、自己肯定感や主体性を高めるためには、自己アイデンティティの確立や文化的アイデンティティの維持が重要である」と主張しています。

上記、テトロ博士の理論は、異文化間コミュニケーションや多文化共生の促進が、異なる視点やアイデアを持ち合わせた多様な人々との交流を可能にし、創造性の向上につながるとされています。

多様な価値観や思考法を持った構成員の組織であれば、創造的な思考ができるようになり、イノベーションが創出できるわけではありません。

つまり「ダイバーシティ」は、必要条件ではあっても、十分条件ではありません。



マイノリティ視点で、企業主催のダンスパーティーの例で考えてみましょう。

【ダイバーシティ:Diversity(多様性)】ダンスパーティーに招待されること

【インクルージョン:Inclusion(包摂性)】ダンスに誘われること

しかし、これだけでは不十分です。パーティーを開催した目的は、一部の人に楽しんでもらうことではなく、参加した全員に楽しんでもらうことですから、ダンスが苦手な人・嫌いな人へのケアが大切です。

そこで、次の概念が絶対に必要となります。

 【ビロンギング:Belonging(帰属性)】ダンスを教えてもらうこと、尊重される居場所があること

マイノリティの創造性を最大限に引き出すには、「尊重される居場所」ということが【ビロンギング】が重要です。


イノベーション創出が実現できない企業の多くが、この【ビロンギング】という概念が希薄だからです。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?