見出し画像

2024年度版中小企業白書から考える  ~支援の現場から見た中小企業政策~


 BACソリューションズの眞田(さなだ)です。

 5月10日(金)に2024年版中小企業白書・小規模企業白書が閣議決定されました。5月10日の16時時点では、白書の概要のみ公開されています。
 (※ 下記のURLよりご覧ください)

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html

 中小企業政策は通常中小企業白書の内容を受けて作られます。
今後の中小企業政策を占う意味でも、内容は抑えておきたいところ。
 今回は中小企業支援をしている立場から、気になった内容をまとめて
いきます。
 気になった4つの項目について特に深堀りしますが、時間がない方は
6.まとめに「一言でいうと何」を書いたので、そちらをご覧ください。

1.倒産件数・失業率

 まずは倒産件数から。
 2023年の倒産件数は8,690件でした。2021年、2022年に比べて増加して
いるとは言え、リーマンショックのあった2008年・2009年が15,000件を超えている事を踏まえると、低い水準で推移しています。
 コロナ融資等の政策的な後押しが効いていた事が見て取れます。
 
 気になるのが完全失業率で、2021年→2023年にかけて倒産件数は増えているにも関わらず、失業率自体は、横ばいか若干減少傾向にあります。企業の倒産を防ぐ目的の一つは、失業者を出さない事にあるますが、ここ3年間の動きを見る限り、倒産が増えても失業者は逆に減る動きになっています。
 

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

 倒産件数自体は減っている一方、再生支援の相談件数自体は、2020年以降増加傾向にあります。
 政策的に倒産を抑えてきたものの、予備軍は増えています。ニュース速報を見ると倒産のニュースが増えてきています。2024年以降倒産件数は増えていく事になりそうです。 

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

2.人手不足への対応

 2024年に入り倒産は更に増えています。その理由の1つが人手不足です。人手不足倒産のリスクが高まっている事を受けてか、会社の業績が改善していない状態でも、賃上げを実施している企業が増加しています。
 2024年度の春闘では、中小企業も4%を超える賃上げとなりました。利益を削ってぐっと耐えている姿が目に浮かびます。

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

 給与を上げる事が人材確保に最も効果的という結果が出てます。

 他に興味深いのは人材育成です。人材育成に取り組んでいる会社の方が、人材の定着率・生産性ともに高いという結果が出ています。
 従来中小企業の育成と言えば、OJTという名の放置も多かったのではないでしょうか。
 2010年代には「社員への投資はもったいない」という
マインドの経営者もまだまだいらっしゃいました。一転して、今は育成に投資しない企業は存続できないという時代になっている事が伺えます。
 中小企業においても人的資本経営は重要なテーマになってきています。

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

3.付加価値・生産性向上

 人件費上昇を賄うには、生産性を高め付加価値を高める必要があります。企業規模が大きくなるほど生産性は高くなるのだから、中小企業はいらないという言説もあります。
 飲食・介護のような単価を上げにくい業種が小企業に多かったり、中小企業に値下げを迫る事で、大企業の利益を確保している実態も勘案するべきだとは思うのですが、今回の白書は規模が大きい方が生産性が高いというスタンスのようです。
 
 付加価値・生産性を高めるための活動としては、価格転嫁投資活動が挙げられています。
 価格転嫁に関しては、応じない企業を公表するなど、公正取引委員会が厳しい姿勢を見せた事もあってか、応じる企業は増えてきている感触です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB289M80Y4A320C2000000/
 
 賃上げ+利上げが進む状況では、攻めの活動が必要なのは、3月のnoteで書かせていただいた通りです。

今回の白書では、それが数字でも示された形です。

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

4.M&A、エクイティ

 積極的な投資の例として、M&Aについてページが割かれています。M&Aを実施した企業は、そうでない企業と比べ、投資後2~3年は経常利益・労働生産性は低位するものの、3年後以降共にした企業がしなかった企業を上回るというデータを出しています。

 M&Aの世界だと、成功率は20~30%と言われており、M&A後に、負債と赤字だけが残るとうケースも珍しくありません。このあたりは私の肌感覚と比べ、良い数字が出ていると感じます。
 支援機関別のM&Aの手数料の分布も出ています。こちらも、私の見てきた事例と比べて全体的に低い数字が出ている感触です。

 驚くべき事に、エクイティ・ファイナンスが重要テーマとして挙がっています。
 従来中小企業は銀行等からのデットファイナンスが中心で、出資のようなエクイティファイナンスはレアケースでした。
 これにページを割がれているだけでなく、わざわざファンドの投資を受けて業績を急激に改善した企業の事例を載せているは、今後PEファンド等の
活動が後押しされるという事なのかもしれません。

5.外部機関の活用

 中小企業活性化協議会や、よろず支援協の活用にも触れられています。
 上記のような支援機関を活用している企業ほど業績が良いというデータが掲載されます。

 3月8日に「再生支援に対する総合的対策」が打ち出され、その中で活性化協議会や保証協会等の支援機関は、より積極的に企業を支援をする方針が
打ち出されています。
 白書は企業側にも活用を促す形になっています。

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

 一方、支援機関の課題として、支援・ノウハウの不足が挙がっています。
 これは3月にBACソリューションズが取ったアンケートの結果とも一致しています。
 また、支援機関の方とお話をすると、「支援を強化するように言われているが、何をしたら良いか分からない」という言葉をよく伺います。
 ここは政策と現場のギャップを強く感じるところになっています。

(出典)2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要より

6.まとめ

 今回の白書の内容を見ると、以下のようなメッセージを感じます。
 ① 投資をして付加価値を高めよ
 ② 外部のノウハウを活用せよ
 ③ 失業率は上がらない。付加価値が上がらない企業の退場はやむなし。

 以前も書いた「現状維持は成り立たない」が政策的な方向性にもなった
内容と感じます。この流れは同感です。
 
 触れられていなかったのが、市場の縮小についてです。
 日本は今後人口減少が進み、放っておいたら市場が縮小する国になります。白書で上げているような、投資や価格転嫁だけでは、市場縮小に対応する事は難しいでしょう。
 既存市場が縮小する以上、新規市場の創出を考える必要があります。こちらに関しては明確な方向性はありません。難易度は高いですが、各企業で
道筋をつけていかなければなりません。

 投資の1つの形態としてDXがあります。ITの主戦場は、ITを活用して既存産業をどうアップデートするかに移ってきています。人手不足が深刻な日本は真っ先に取り組まなければならないテーマです。
 ITで自身の産業をどう変えていくかは、あらゆる会社が考えなければならないテーマです。こちらに関しても各企業で答えを出す必要があるでしょう。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?