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「賃上げ+利上げ」が迫る中小企業経営の転換

  1. 17年振り利上げのインパクト

  2. 中小企業の資金調達環境

  3. 許されなくなった現状維持

1.17年振りの値上げのインパクト

2024年3月19日(火)は日本経済のターニングポイントになるでしょう。
日銀が2024年2月から続くマイナス金利政策の解除を決定しました。

日銀が最後に利上げをしたのは2007年2月。
金利が上がるのはなんと17年振り。

金融機関に勤務していた際、長期固定資金のセールストークで
「金利が安いのは今のうちだけ。長期的に見たら必ず上がる」
 ⇒「だから今のうちに長期固定で利率が低い資金を調達しましょう」
と言って勧めるのが鉄板でしたが、私が就職してから金融機関を離れるまで結局一度も利上げは有りませんでした。

その際に手掛けた融資は全て完済してますね。


SNSやニュースのコメント欄を見ると
金利が上がるといってもせいぜい0.1%程度。
誤差ではないかという意見もある一方、
経団連の十倉会長が「カンフル剤での『ぬるま湯』の時代が終わったと」という発言があったり、報道は経営を取り巻く環境が変わるというスタンスにあります。

利上げは中小企業経営をどう変えるのか。
今回は、これまでの環境と比較しながら考えていきます。

2.中小企業の資金調達

私自身十倉会長の
「『ぬるま湯の』の時代が終わった」という発言と
同じ捉え方をしています。

2007年の利上げから今回までの経済状況を振り返ってみましょう。

利下げの歴史

2007年2月に最後の利上げをした日銀は、2009年の10月・12月にそれぞれ利下げに踏み切っています。

2008年10月にリーマンショックがありました。
リーマンショックを受けて、アメリカ等他の国の中央銀行は一斉に利下げを行いました。
当初利下げをしなくても十分に低いという理由で利下げをしなかった日銀も、結果的に日銀も利下げに踏み切った形です。

リーマンショック以降の中小企業施策

中小企業基本法上中小企業は以前は「守られるべき存在」だったのに対し、1999年の改正で「経済活性の主体」に位置づけが変わっています。

リーマンショックがこの流れに水を差す形になりました。

緊急経済対策として、政策金融公庫の融資を受けやすくなったり、保証協会の保証枠が増えたり、中小企業が資金を調達しやすくなるよう、政策的な後押しがありました。

金融機関は返済条件変更に原則として応じなければならないとする金融円滑化法も2009年でした。

リーマンショックの影響からそろそろ抜け出そうかというタイミングであったのが2011年3月の東日本大震災です。
直接的に被害を受けた東北地方だけでなく、東日本大震災以降経営にマイナスの影響があった企業は広く対象になりました。
事実上、日本全国の企業が支援の対象となりました。

東日本大震災からの復興支援の名目で、中小企業に対する資金繰り対策は続きます。

この間日銀の政策金利は当然ながら低い状態が続きます。
更に一段下がってマイナス金利になったのが2016年2月です。

金融機関の過当競争

政策金利を下げるという行為は
金融機関に対して「お金を企業に沢山貸せ」というメッセージになります。
これを受けて金融機関も企業に融資をしようとするのですが、お金を貸したい先が増えたわけではありません。
むしろ減っていきました。

私が金融機関で融資を担当していたのはちょうどこの時期になります。

金融機関からすると、利益は出ているけど借入にも頼っている、利益と借入のバランスがほどほどに取れている企業が一番お金を貸しやすいです。

私が融資担当をしていた2010年代前半は、このちょうどいい層が減って、
利益は出ているが、投資を抑える優良企業層と、利益が出なくてお金に困る企業の差が大きくなった時期でもありました。
ちょうどいい層以外のこの2つの層にお金が流れるようになります。

優良企業に対しては金利の引き下げ競争をして何とかお金を借りてもらいつつ、厳しい企業も調達がしやすい環境になりました。

そうした環境が続く中起こったのが
2020年の新型コロナウイルスに伴う混乱です。

新型コロナウイルスに伴う混乱に対応するために、
またもや緊急経済対策が打たれます。

緊急性が高く、影響が広範囲に広がった事で
審査の制度より、とにかく融資の速度を優先した印象です。
また、コロナの影響が長引くことを見越してか、返済開始の猶予み
長くとられていた感触です。

余談ですが、緊急経済対策で資金調達のハードルが下がった事で
生き延びる事ができた企業は多かったと思います。

経営コンサルタントして相談を受けた企業の中で、従来なら資金を調達できなかったであろう企業が融資を受けて延命できた会社を何社も見ました。

「どこがこんな融資したんだ!?」と思って内訳見ると
「古巣でした(苦笑)」というシーンが何度もありました

コロナによるマイナス以上に、資金調達が容易になったプラスが勝った企業は多かったのではないででょうか。

このように、リーマンショック以降のここ15年は、
融資の利率が低く抑えられ、かつ資金自体の調達が長らく続いてきました。
資金調達面では恵まれていたと言っていいでしょう。

3.許されなくなった現状維持

15年続いた恵まれた資金環境は、
中小企業に対し、「現状維持ならOK」というインセンティブをもたらしました。

本来なら外部から調達をしたら、その資金を活用して利率以上の利益を上げなければならないのですが、利率が歴史的に低く、資金も調達しやすかった事で、企業は成長しなくても何とかなったわけですね。

「意思決定は先送りにする」
「リスクを冒して新しいことをするよりは、現状を維持する」という
選択ができたわけでした。


利上げ傾向が続くとこの態度は許されなくなります。
資金を調達したら、上がった利率分収益を増やさないとお金が回らなくなります。

日経新聞は、企業の借入金利が1%上がると、企業全体の経常利益が7.4%減って、零細企業の21.1%が倒産すとか、
内閣府は2023年度から2028年度にかけて金利が0.9%上がる前提で試算をしているという記事を合わせて載せています。

賃上げの追い打ち

更に追い打ちをかけるのが、賃上げでしょう。
日銀が今回金利を引き上げたのは、春闘で賃上げが進んだことを受けてになります。
単に金利を上げたのではなく、「賃金上がるから金利を上げた」のです。

中小企業の経営者にとっては、支払金利が増えるだけでなく、
賃金を上げていかないと事業を続ける事が出来ない環境になりました。

現状維持をしているだけだと
賃金を上げて会社のお金を削るか、人を他の会社に取られるかになるので、
いずれにしても苦しい状況に陥ります。

もはや現状維持が許されなくなってきたわけです。


調達がしやすいタイミングを好機とみて、チャレンジの種を蒔いてきた中小企業も一定存在しています。
そうした企業と、そうでない企業と間で差が広がる事になると見ています。

余力のない日本

改正された中小企業基本法の方針に反して
「弱いから守られるべき」という路線が続いたのがここまででしょう。

ですが、悲しい事にこの間に日本全体の国力が衰え、
もはやそうした余力を国自体が失っています。

GDPでドイツに抜かれて4位になったという報道がありました。
一人当たりGDPで見ると、台湾や韓国等他のアジア各国に抜かれて落ちる一方です。

税金を上げても社会保障費と国債の償還にあてるので精いっぱいになっています。

次のスターは生まれるか

「現状維持ならよし」から、「変化に対応して新しいものを生み出す」に
転換し、適応できる企業・経営を突き付けてきたのが今回の
「賃上げ+利上げ」でしょう。

明治維新の混乱から三菱が生まれ、
戦後の焼け野原から、SONYやホンダが生まれた歴史があります。

リーマンショック以降の環境変化に対応して、大きく成長を遂げた中小企業は存在します。
これは創業からの年数に関係ありません。

古い歴史を持ちながら、歴史にとらわれず、またリソースを活用して
再成長を遂げる事ができた企業を
「シニアベンチャー」と呼んでいます。

実際に今の状況を「チャンス」と捉えている中小企業の経営者は一定いらっしゃるんですね。
多くの「シニアベンチャー」が誕生し、世界を変えていくことをサポートできたら幸せです。














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