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25歳 博士(工学)の備忘録

2024年3月26日に学位記授与式を終えてようやく博士(工学)になりました。
今日は学生生活最後の投稿ということで、駄文になってしまうかもしれませんが、今思うことを残しておこうと思います。

偶然の産物

自分にとって博士課程は楽しいことより辛いことの方が多い期間でしたが
指導教員、先輩、同期、後輩、家族、友人など、多くの人々の支えのおかげで、苦しみながらも2年早期での学位の取得に至りました。

所属していた大学である東京工業大学は2024年の10月に東京医科歯科大学との合併に伴い東京科学大学へと名称が変更されることになっています。

そのため、偶然ではありますが、 高校、学士、修士、博士 全てが東工大の残り少ない卒業生の1人にれました。
2年早期修了の道を選んでいなかったら、このような結果になっていなかったと思うと、感慨深いものがあります。

高校の卒業証書と学士・修士・博士の学位記

大学での研究

博士論文のタイトルは「ポリマーメカノラジカルを検出可能な蛍光分子プローブの開発と応用に関する研究」ということで、高分子の「力による劣化」を可視化するための分子プローブの開発を主軸に研究を行っていました。

研究内容については、幸いなことに、卒業直前のタイミングでChemistry Wednesdayさんに声をかけていただき、YouTubeにて公聴会の内容を30分にまとめて発表する機会を頂けたので、そちらをご覧いただければと思います。

また、博士課程修了直前に投稿した2つの論文はオープンアクセスとなっており無料で公開されていますので詳細が気になる方は参照していただければと思います。

そして、自分の博士課程の目標の一つであった総説も博士論文の執筆と並行しながら筆頭著者として執筆させていただきました。中々在学中に執筆できるチャンスも少ないと思うので、大変ではありましたがとても良い経験になりました。

研究生活全体を通して、多くの学会に参加させていただき、多くの優秀な同世代の研究者に出会えたことは、私が博士課程に進んでよかったと思える要因の一つです。

また、学外から奨学金や研究助成金を頂く中で出会えた全く分野の異なる研究者たちも、自身の研究の立ち位置を振り返り視野を広げるための機会になりました。

修士課程はほとんどがコロナ禍とかぶってしまい、学会発表は愚か研究自体も思うように進めることができませんでした。そんな不完全燃焼を払拭できたのが博士課程だったように思います。

博士課程修了までに得たもの

たまに後輩や友人に聞かれるのが「博士号取得のメリットって何?」ということです。

対外的な成果としては、高校からの通算で受賞件数は20件超え、筆頭著者論文5報、筆頭総説1報、特許1件の受理などがありますが、正直これらの数値的な成果はあくまで博士課程修了の副産物であり、本質的に得られたものではないと考えています。

高校から博士課程まで過ごす中で、才能に溢れる多くの仲間に出会ってきました。その中で、修士課程在学中に筆頭著者論文を複数本投稿しても博士に進学せず民間企業に就職したり、日本学術振興会の特別研究員だった優秀な博士が中退したり、学年トップの成績で博士課程進学が決まっていたにもかかわらず進学そのものを断念したりした友人の姿を目の当たりにして、そもそも博士課程で得られるものはなんなのかということを考えさせられるようになりました。

きっと上記の彼ら、彼女らは、世間一般の博士課程修了者と比較しても劣らない研究力や論理的な思考力を有しているはずです。

こうした優秀な学生にとって修士課程修了後に博士課程に進学する意味はどんなところにあるのでしょうか?

正直なところ、この問いに対して自分自身明確な答えを見つけることはできていません。私が修士課程までと比べて博士課程で成長したことを考えると
・英語力
・プレゼン力
・研究立案力
・研究遂行能力
・文章執筆能力
・国内外の研究者との人脈
・うまくいかなくても打開しようとするメンタル
etc…
などが思いつきますが、これは単純に研究室にいた年数が長くなったから得られたもので、きっと社会人になって一般企業に就職していたとしてもある程度身につけられたと思います。

昨今の日本では博士取得者数の減少が問題視され、博士号取得者を3倍に増やそうという動きがあります。

人口100万人当たりの博士号取得者数の国際比較
科学技術・学術制作研究所 「科学技術指標2022」を元に筆者が作成

しかし私自身は、博士号を取得していなくても、多くの優秀な友人が産業界で活躍している姿を目にしているため、日本の国際競争力を高めるために単純に博士号取得者数の増加が有効なのかということに疑問を感じています。
(そもそも現状の教員数で博士課程の教育の質をどう保証するのかなどの問題もありますが…)

博士号取得によって得られる本質的なものはなんなのか、これから社会に出て、その本当の答えを見つけられればと考えています。そしてきちんと後輩や友人に博士課程で得られるものを答えられるようになりたいと思います。

終わりに

今日は博士課程修了にあたり、今の思いをつらつらと書いてみました。
改めて、博士修了まで力を貸してくださった皆様に御礼申し上げます。

まだまだひよっこの研究者ですので、学び続けることを怠らずに、社会を豊かにする一助となる研究を続けていきたいと考えています。

最後に、これから博士号取得を目指す世代に向けて言葉を残したいと思います。
博士課程はよほど優秀な人では無い限り、想像以上の孤独感や無能感、劣等感などの負の感情を感じることになると思います。

そんな時、研究室の仲間や指導教員に相談できればベストですが、そうでは無い時には、別の研究室や学外の友人など誰でも良いので会話をするようにしましょう。

そして何よりも、心と体を大切にしながら、その瞬間、その瞬間、自身の最善と思える選択をしていただければと思います。例え何かの理由で博士号取得に至らなかったとしても、自分が自分らしく輝ける場所を探す期間、それが博士課程という場所なのかもしれません。


ご愛読いただきありがとうございます