完璧だと思う映画① 『カラーパープル』|スピルバーグ最高傑作!
みなさんは、完璧だと思う映画に出会ったことはありますか?
どれだけ沢山の映画を観ていても、「完璧」「100点!」「非の打ち所がない!」と思える映画に出会えることって、かなり珍しい奇跡のようなことだと思っています。
今回は、過去に僕が出会ってきた映画の中で100点を叩き出した作品を生きているうちに言語化したくてここに書き記すことにしました。というわけで記念すべき第1回は『カラーパープル』です。
ちなみに僕の友達には『タイタニック』を完璧と言う人もいれば、『アバター』を完璧だと言う人もいるので(なんでジェームズ・キャメロン縛り)、まあ僕の中の完璧な映画も論理的なものじゃなくて、こういう主観的なものだと思ってください。
またある程度内容に触れることにはなりますが、なるべく物語の核心に迫るようなネタバレは無いように心がけています。安心して読んでください。
『カラーパープル』(1985年)
あらすじ
舞台は1909年のアメリカ南部ジョージア州。まだ14歳ながらに父親との子供を2度も妊娠、出産した少女セリーが本作の主人公。
セリーは売り飛ばされるようにして男の元へ嫁がされ、そこで奴隷のような扱いを受けて、最愛の妹とも離ればなれになってしまいます。
「手紙」という媒体を通して、過酷な環境を乗り越えながらも、様々な出会いや経験を経て、再び最愛の妹と出会うために成長していく…という。まあいかにも感動系ヒューマンドラマって感じのあらすじですね。
本作は、当時『ジョーズ』や『E.T.』『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』など、大衆向けの娯楽映画で大ヒットを飛ばしていたスティーヴン・スピルバーグが、初めてシリアスな作風に挑んだ重厚感のある作品として知られています。
またこれまでは短い期間に起こった出来事を凝縮して描いてきたスピルバーグが、初めて30年以上にもわたった時間の流れを感じさせるような、一大叙事詩的な作品を作ったことにも大きな意味があると思います。単なる娯楽映画のヒットメーカーでは無いことを証明してみせました。
その結果、第58回アカデミー賞では作品賞をはじめとする10部門11ノミネート(助演女優賞では2人)。しかし、奇しくも無冠に終わることとなります。これは若くして売れっ子となったスピルバーグへの嫉妬や、保守派が毛嫌いする黒人映画であること、そして「賞狙いの作品だ」「世界興行収入1位の次はオスカーまで…」と様々な批判がなされたようです。残念。
原作は黒人女性作家のアリス・ウォーカーが1983年に発表した同名小説で、ピューリッツァー賞フィクション部門受賞作。自らの両親や祖父母の人生を参考に、黒人社会での抑圧、そして「自由」や「解放」をテーマに執筆したみたいです。また発表されてすぐに男性批判だと叩かれたり、黒人社会での家庭内暴力(DV)を内部告発した小説としても話題になりました。
スピルバーグは小説を読んだ直後から瞬く間に心を奪われ、大ヒット作を生み出す人気監督としてのプライドを捨てて、必死に原作者のアリス・ウォーカーに自らを売り込みました。
白人による映画化を望まなかったアリス・ウォーカーですが、本作のプロデューサー兼作曲家でもあり、ジャズ・ミュージシャンとしても知られるクインシー・ジョーンズがスピルバーグを推挙したことで、承諾を得ることができたと言われています。
では、この作品の一体何が素晴らしいのか。
まあ「完璧」だと豪語する作品に対して、何が素晴らしいのか?と言ってしまうと、もちろん答えはすべてなのですが、だからこそひとつずつ丁寧に紐解いていく必要があります。
まず黒人社会を舞台にしているところから始めていきます。本作はブラックムービーと呼ばれる映画ジャンルにあたるのですが、現代でもよくある「白人>黒人」の対立構造ではなく、完全に黒人同士のコミュニティを中心に描いています。
中でも大事にしているのは「姉妹の愛情」であり、「夫からの抑圧の解放」という全世界の家庭内に蔓延る普遍的なもの。本編を見てもらえば一目瞭然なのですが、前者にはLGBTQ的な側面があり、後者にはフェミニズム的な要素があります。
これはどの人種にも共通する問題で、80年代にこんなにも時代を先取りしている映画が公開されたことにまず驚きを隠せません。これはユダヤ人というマイノリティ側の人間であるスピルバーグだからこそだったのかも…。
(あとこれは半分余談ですが、後にスピルバーグは2人の黒人の養子を授かっており、それもこの作品にとって大事な要素のひとつもかもしれませんね)。
そして主人公 セリーはアメリカ社会のみならず、黒人社会でも最底辺の地位に追いやられてしまうわけですが、ここで何よりも素晴らしいのが主人公 セリーを演じたウーピー・ゴールドバーグの演技力。
ウーピーは本作が映画デビュー作。小さな劇場でコメディアンをしていたところを一目見て、アリス・ウォーカーが「セリー役は彼女しかいない」と判断。スピルバーグにも「君がやらなければ僕もやらない!」と言わしめるほど…(ウーピーからしたらかなり迷惑な話ですが)
それがもう何ともハマり役で、「戦い方を知らない」「上手く笑うこともできない」少女だったセリーが、自分を見つけてひとりの人間として成長していく過程には涙を抑えきれない。スピルバーグの人間洞察力もさることながら、彼女に対する演技プランが素晴らしい。
そして本来ならば、ひとりの女性の人生を2時間半も費やして描くと、どうしても間延びしてしまうものですが、心地良いテンポ感と、間に挟まれるクスッと笑えるコミカルさ、そして詩情溢れる美しい映像美によって観る人を飽きさせない演出が巧み。
一切の無駄を省いた脚本は完璧そのもので、あえてセリーたちにとっての転換点しか描かないという勇気が凄い。(ちなみに、アカデミー賞受賞作の『ムーンライト』(2016年)は、あえて「転換点」を描かないという本作とは全く逆の描き方をしており、同じ黒人が主人公の作品なのに、こうもアプローチが違うのかとこれはこれで興味深い)。
魅力的なキャラクター
また登場人物の緻密なキャラクター性が良い。特にダニー・グローヴァー演じる威圧的で横暴な夫役のミスター。フェミニズム的な要素のある本作において、最も「非難の的」になる存在で、男性から見ても厭なキャラクターになっている。それは彼の見事な演技力があってこそのもの。
特に象徴的なのはセリーの妹 ネティを襲おうと、平原の中をひたすら追いかけ回るシーン。女性を性欲のはけ口だとでも思いこみ、失敗すれば怒って妹を家から追い出してしまう。本当にとんでもねえ男だなこいつ。
そしてオプラ・ウインフレイ演じる夫の前妻が残した息子の結婚相手ソフィア。とても気が強く、喧嘩早い性格をしています。そのため自らの夫や義父(セリーの夫)にも強く反抗し、セリーの成長にとって一躍買うこととなります。しかし、その気性の荒い性格が災いとなって、本作で最も社会的格差と人種差別の壁に直面するキャラクターになります。
ちなみにこのオプラ・ウインフレイ、もちろん本作が映画初主演。今では最もセレブな司会者の一人ですが、80年代当時から既に司会の仕事に携わっており、プロデューサーのクインシー・ジョーンズがシカゴのホテルでたまたま彼女の番組を見ていたことが、出演の決め手になったようです。
そして、マーガレット・エイヴリ演じるシャグ。セリーの夫が愛してやまない歌手で、これまで自由に生きてきたことで、聖職者の父親に絶縁を告げられたという過去を持っています。そんな彼女の自由な生き方は、セリーにとって決定的な変化をもたらすことになります。
まだまだ魅力的なキャラクターは沢山登場するのですが、いちいち書いているとキリがないので、それは本編を見るまでのお楽しみということで…。
『カラーパープル』を鑑賞した人におすすめの黒人映画。
①『ミシシッピー・バーニング』(1987年)
黒人差別、公民権運動に揺れる60年代。実際に起きた公民権運動家の失踪事件を題材に、ミシシッピ州のとある街へやってきた二人のFBI捜査官を描いている。本作は『カラーパープル』と同時期に公開された黒人映画で、スピルバーグが10代から20代を過ごした波乱の時代を描いている。
②『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)
黒人監督であるスパイク・リーの最高傑作として知られる作品。猛暑を記録したブルックリンの黒人街を舞台に、街の人々が白人に対して不平不満を爆発させるまでを描く。ブラックミュージックを基調とした映像展開、黒人そのものが抱える問題をストレートに描いてる様は、『カラーパープル』との類似点が多い。
③『ムーンライト』(2016年)
LGBTQ差別、黒人差別、いじめ、DV、麻薬に囲まれて育った少年シャロンの人生を描いた作品。様々な社会問題を扱いつつも、その奥には普遍性がある。しかし前述の通り、あえて「転換点」を描かないという『カラーパープル』とは全く真逆のアプローチをとっている。
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