見出し画像

『ダウト 〜あるカトリック学校で〜』感想。|確信のない疑惑、行き場のない怒り。

前書き

こんにちは。
映画大好きトマトくんです。

2022年もいよいよ12月に突入して、映画好きとしては「そういえば今年はこんな映画が公開されたな」「あの作品、面白かったな」と様々な出会いに思いを馳せる時期がやって参りました。

しばらくnoteに投稿するアイデアもなくて、年末に「2022年の総括」をするくらいかな…と考えていたのですが、どうせなら今年出会った印象的な旧作映画を「感想文」として幾つか記事にしよう!と思い立って、今に至ります。

そんな中で、僕が今年最も印象的だったと感じた旧作映画が、2008年に公開された『ダウト 〜あるカトリック学校で〜』でした。とても完成度の高い作品で、もっと評価されてほしいと考えていたところなので、布教するには丁度良い機会でもあります。

では早速、紹介に参りたいと思います。


あらすじ

時代は、ケネディ暗殺や公民権運動によって世界が揺らぐ1964年。
ニューヨークのカトリック学校を舞台に、一人の神父がとある男子生徒に手を出したのではないかという「疑惑」がかけられる。
そこでシスターたちは、確証もないのに神父を問い詰めていき、成敗しようとするのたが…。


作品解説

本作は、『月の輝く夜に』の脚本家で、アカデミー脚本賞を受賞したことでも知られるジョン・パトリック・シャンリィの監督作品。

劇作家としても知られるジョンは、2005年に執筆した戯曲『ダウト 疑いをめぐる寓話』を自らの手で舞台化。

その舞台はトニー賞とピュリッツァー賞のW受賞という快挙を果たすなど大成功を収めた。その勢いに任せて、今度は自らメガホンを取って映画化。そして生まれたのが本作である。

(監督)ジョン・パトリック・シャンリィ

メインキャストは、

校長:メリル・ストリープ
神父:フィリップ・シーモア・ホフマン
新米教師:エイミー・アダムス
被害生徒の母:ヴィオラ・デイヴィス

主要キャストの4人全員がアカデミー賞で演技部門にノミネート。作り込まれた秀逸な脚本と、見応えある実力派俳優たちの演技合戦で最後まで釘付けになること間違いなし。


登場人物

まずこの映画はオープニングの段階からかなり重要で、開始すぐに神父が「疑い」をテーマにした説教を始めるのだが、その言葉のひとつひとつに深い意味がある。

そして、その協会に立ち会っている全てのキャラクターのほんの些細な行動ですら、その後の物語に尾を引くようになっており、この構成力がとにかく凄まじい。シリアスな物語を彩るキャラクターたちの配置も、とんでもなく巧みで絶妙。

メリル・ストリープ

まず主演のメリル・ストリープは、生徒たちに恐れられるほど厳格な校長の役。

彼女は神父が罪を犯したのではないかという確証のない疑惑から、不確定なまま個人的な感情のみで神父を追い詰めていく。まさに「疑わしきは罰する」を体現したかのようなキャラクター像。

その行いは、正義感によるものなのか、私情によるものなのかは分からない。本人はそれが正しいと思って行動しているのだが、傍から見ればあまりにも哀れで、皮肉的な存在。しかし、それは誰よりも人間らしく、この映画のテーマの芯になる存在でもあった。

フィリップ・シーモア・ホフマン

そして生徒に人気で、ユーモア溢れる神父を演じるフィリップ・シーモア・ホフマンも素晴らしい。「あの優しそうな笑顔の裏には何かがあるかもしれない…」と、視聴者ですらも違和感を覚える僅かな表情の変化や、セリフの抑揚で、この物語をかき乱していく。

彼は本当に男子生徒に手を出しているかもしれないし、出していないのかもしれない。メリルとは相反して、「火の無い所に煙は立たぬ」という言葉を見事に体現している。最後の最後まで「疑惑」を「疑惑」のままにしつつ、その開放的でありながらも、ミステリアスな演技は恐ろしくも圧巻だった。

エイミー・アダムス

また本作が公開される1年前に『魔法にかけられて』が大ヒットし、スター街道まっしぐらだったエイミー・アダムスの配役も良い。お人好しゆえに、人を疑うことを好まない人間。しかし、自分の中でしっかり軸が出来ている。

主演のメリル・ストリープとはしばらく対立するキャラクターとなるのだが、そんな透明度の高い彼女の存在によってさらに物語は複雑化する…。

ヴィオラ・デイヴィス

そして!!そしてそして!特に良かったのが、出演時間わずか8分ながら強烈なインパクトを残したヴィオラ・デイヴィス!

彼女が登場することによって、これまで描かれてきた物語の方向性が一気に定められて、映画の空気がぎゅっと引き締まる。

ただ映画を観ていただけの、ただ傍観していただけの自分自身ですら、何が正解で、誰が正しいのか分からなくなっていく。

そんな視聴者を勢いよく物語の中に引きずり込んでいき、それぞれの頭の中にも「己の答え」が生み出されていく。そして、ここでようやく映画のテーマが明確になる…。

そのため彼女の存在によって、作品の濃度がより一層濃くなり、ドラマ性や風格がうんと引き上げられるのだ。

もはや彼女の流す涙や鼻水の1滴ですら心を鷲掴みにされるし、彼女こそがこの物語の真の主人公なのではないのか…と思ってしまう。


感想

まあ元が舞台劇なだけあって、ストーリーのほとんどはキャラクターたちの会話のみで進んでいくのだが、やはり画面や演出にもどこかに戯曲らしさ、演劇らしさが残る。

場合によってはそれがマイナスポイントになるかもしれないが、この映画においてはそれがむしろプラスで、逆に映画的でもある。

人によってはかなり地味と感じると思う。でも重要なのは画面の中ではなく、その奥。ストーリーとキャラクターたちの心情を紐解きながら、サスペンスとヒューマンドラマが見事に絡み合うその様が素晴らしい。

最近で言うところの『別離』(2011)や『スリー・ビルボード』(2017)、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)に近い何かを感じた。

また「疑惑」をテーマにしているように、9.11によってテロが身近となり、疑心暗鬼になった当時のアメリカの世相を風刺しているのも、やはり抜け目がない…。

はあ。あまりにも傑作すぎて、見終わったあと僅かに両手が震えていたな。まだまだ紹介したい作品が沢山あるので、またすぐに次の感想記事を投稿しようと思います。

最後までご愛読ありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?