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【映画感想】哭悲(こくひ)/THE SADNESS

ダニー・ボイル監督『28日後』の後継的な台湾パンデミックバイオレンスホラー。 

監督はロブ・ジャバス。


あらすじ
台湾に蔓延している感染症とそのウィルス『アルヴィン』専門家からは突然変異する可能性とその脅威の警鐘が鳴らされていたが、風邪のような症状しか出ていないため人々は警戒が薄れていた。
いつもの朝のように出勤していくカイティン(レジーナ・レイ)を見送ったジュンジョー(ベラント・チュウ)この別れを契機に2人はそれぞれウィルスが巻き起こす混乱に巻き込まれてゆく。

主要ふたり。ジュンジョーとカイティン。



観終わった後の感想は(意外と綺麗な血みどろホラーだったなー)というもの。

後日、腑に落ちない点をあれこれ考えた後にパンフを読んだら"余計な表現は無くし(中略)醜いアイディアを高い純度で伝えることを意識した"という監督のステートメントがあり、自制の取れた表現方法をあえて選んでいたと納得。


序盤〜中盤はお見事。

屋上に佇む白髪の老婆、そして料理屋でジュンジョーを見てにやり「あんたいい男ねぇ♡」と嗤う老婆をみて(やべぇ……自分がボケたらこういうお婆さんになりそう……)という恐怖で震えがあがるwww

自分がこうなりそうな恐怖の色ボケばば様。


コックが老婆に襲われ揚げ油を顔に被って皮膚がびろーーーーーーんとなる描写が凝っていて良き。

ジュンジョーの指が序盤早々に感染者により切り落とされてしまう(ハンデをつける)ところにも感心。

隣人のおっさんに襲われるジュンジョー

一方地下鉄の中だったカイティンは、セクハラ親父に陰湿に絡まれ……が、凶暴化した感染者が暴れ始めて車内は一転して血みどろの殺戮列車状態に。

そんな中でセクハラ親父もウィルス突然変異を起こし凶暴化、執拗にカイティンを狙うストーカー舌レロレロ斧親父へグレードアップ。

劇中いちのしつこさストーカー斧親父


血しぶきが、じゃばじゃば。

動脈いってもそこまで噴き出さんだろうという突っ込みが失せる勢いで噴水の如く散血する、絵面の紅さの美しさ。

あっという間に誰も彼もが血まみれ。

血で真っ赤な車内でひとり佇み奇妙な笑顔を浮かべつつ太ももを掻きむしる女性の醸す異質さよ。


意外と直接なゴア描写は少なく事後を見せる形なのですが、フレームの絵の収め方が上手いのと編集が上手いのもあってか物足りなさはなく……その分血糊の量が凄いってのもある。


絵よりも台詞が下品でえげつなかった。

唯一、太ましい女子が「私は出会いを待っていただけ」と発症後も口調が変わりませんでしたが(でもちん〇をちょん切っていたけど)

(彼女が眼球ファッ〇された後、微妙に穴が拡がっていた細かさも〇)

終盤は、よくしゃべる専門家の登場で、ウィルスの性質や抗体の可能性が解説される仕組みになっていますが、この時点まで"泣いている凶暴化した感染者"って気をつけて観ていないと分からない。

寧ろケツ丸出し男性、ドM男性の性癖、3?4P?血まみれくんずほぐれず組、ストーカー舌レロレロ斤親父等、キャラ立ちしている感染者のインパクトが強くて"罪悪感に涙を流しながら凶行に及ぶ感染者"のイメージがほぼない。

(パンフを読んだら"泣いてるシーンを撮るのを忘れて結果少なくなった"との監督の弁にずっこけたwww)


カイティンが消化器で親父の頭を叩き潰す。

ウィルス専門家が赤ん坊を実験に使う。

これは正気の人間でも、極限状態に置かれれば容易く倫理の境目を超えるということを見せたいのだろうなあと。

 感染した専門家が本音を吐露する「(赤ん坊を殺して)本当は凄く気持ち良かった」という台詞はマッドさが出ていて良き。

ウィルスの性質を鑑みて、太ましい女子や他数名がカニバっていたところは疑問。

(攻撃という形の噛みつきは除く)

カニバリズムが表に出るとしたら、それは相手に執着か愛情か何かしら元になる感情があり、それが変質した形なら分かる。

だから、ジュンジョーのラスト近くの台詞全般は理解できる。

"愛している"から"切り刻みたい"
"愛している"から"あなたを食べたい"
の直結は分かる。

"いい女(男)"だから"犯したい"は分かる。
いい女(男)"だから"食べたい"とはならない気がする……通りすがりの人間に食欲を覚えるかっつたら、まずそこまで到達しない。

何かもうワンクッション必要な衝動だと思う。

人は本能にカニバリズムの欲求を抱えてはいないと思う……ウィルスの突然変異が理性を外すとしても、本能に萌していない欲求や性癖は表出しないのでは?……と思って、そこは疑問だったところ。


また"罪悪感で涙を流す"設定が活かされていない。
それが活きたのはラストシーンのみ。

そも凶暴化した彼らの心理を分析出来るのか?というところで前提に齟齬が出てる。

これは台詞なりでも(例えばジュンジョーのような)表現可能だったので序盤辺りでねじ込んで印象付ければ良かったのにな……と思った。

ラスト、個人的には"正気でいるより狂ったほうがマシ"な状況に追い込まれそのまま狂うに任せたカイティンだと自分は解釈(≒感情失禁)

恋人とようやく再会でき、でも変わってしまった彼、そして彼の本音が、彼女が目撃した感染者達と変わらない恐ろしい行為を彼女にしたいと言いつつ愛を並列に語る姿に、彼女の限界をみた気がする。


そして人は臨界点を超えると笑い泣きながら狂う……ってのは絵的にも心情にも無理のない演出なんではないかなあと。主観ですが。

というわけで血の量も美しさもあった血しぶきにとても満足でしたし、救いのないバッドエンドも大変に好みでした。 

おしまい。

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