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#016.音を出してみよう その4(運指とそのしくみ)

今回は「音を出してみよう その4」。これまでに「音を出してみよう」というタイトルで3つ書きました。ご覧になっていない方、過去の記事すぎてもう忘れてしまったという多分ほとんどの方はぜひこちらも読んでいただけると、今日の話がスムーズだと思います。

そして今回は「運指とそのしくみ」について解説します。


トランペットには3つのバルブがあって、それを単独またはいくつか組み合わせて押すことで音の高さを変化させています。

それを一覧にしたものが運指表です。

自著「まるごとトランペットの本」より

イラストを参考に、バルブ番号とその位置を確認してください。黒い丸が押すところです。

「うわー、いっぱいある!これ全部覚えるの?!めんどくせー」と思ったかもしれませんが、大丈夫。ややこしそうに見えて法則があります。それを覚えてしまえば良いのです。では、順番に説明していきます。

開放の音を確認してみよう

まずバルブを押さない開放の音(全部白い丸)を確認してみましょう。開放はこの音です。

これを五線に並べるとこうなります。

トランペットってバルブを押さなくてもこんなにたくさん音が出るんです。

また、高い音になるにつれて音と音の間(音程)が狭くなってきているのが特徴です。更に上へ行くともっともっとも狭くなっていきます。

実はこれ「倍音」と呼ばれる音列の一部で、簡単に言えば響きの仲の良いグループです。
(※トランペットを開放で演奏すると、この五線での最高音(ドの音)とその下(ソの音)の間に( )で記したシのフラットも出ます。今回は運指がテーマなのでこの音については触れませんが、存在は覚えておいてください。)

法則を見つけてみよう

では次にバルブを押さない開放音のすべて半音下(=運指表の1つ左隣)を見てください

緑色の部分ですが全部「2番」を押す運指になっていますね。
さらに言うと、そのさらに半音下もすべて同じ「1番」だけ押すようになっています。法則が少し見えてきました。では、ためしに以下の部分を比較してみましょう。

開放音をスタートに音をひとつずつ(半音ずつ)下げていくと、紫色のところと黄色のところが7つとも同じ順番で並んでいるのがわかります。

○○○(0)

○●○(2)

●○○(1)

●●○(1,2)

○●●(2,3)

●○●(1,3)

●●●(1,2,3)
※( )内はバルブ番号による運指表記。開放は0で表記することが多いです。

どこの開放音からスタートしても、やはり順番はすべて同じです。ただし、先ほど確認したように音が高くなると倍音どうしの幅(音程)が狭くなるので、7つ全ての組み合わせに達する前にひとつしたの開放で出せる音に出会うため(1,2,3)のような運指の出現率が減っていきます。

楽器の構造から考える

では次にトランペット本体を見てみましょう。

このイラストはおなじみのピストンバルブ式のトランペットです。

先ほどから「バルブ」という表現をしていますが、多くの場合「ピストン」と言いますよね。ピストンというのはこのイラストのようなものを指していて、この他に以下の写真のようなロータリーシステムのバルブを搭載している「ロータリートランペット」という楽器があります。主にドイツやオーストリアなどヨーロッパの一部で最も多く使われています。

ベルリンフィルやウィーンフィルの映像を見ると、ピストンではない横向きのトランペットを演奏しているシーンを確認できます。日本のオーケストラでもその地域の作曲者の作品を演奏する際にロータリーを使用することが多いです。

さて、トランペットのピストン部分を見てみると、それぞれに独立した管がついているのがわかると思います。

1番ピストンについているので1番管、2番ピストンは2番管、3番ピストンは3番管と呼びます。さらにそれぞれの管を見ると、長さが違うことに気づくと思います。2番管が最も短く、次に1番管、そして3番管という順に長くなっています。
ピストンを押すことで、これらの管が接続され、管の長さが変化する仕組みになっているのです。

管の長さは音の高さに比例します。

管が長くなればそれだけ音は低くなります。ということは、何かの開放音を基準にして1,2,3番それぞれのピストンを単独、または組み合わせて押すことで「異なる音の低さ」に変化させることができできるわけです。

それぞれの管は以下のように低くなります。

開放の音をスタートとして、
・2番管→半音(短2度=半音程)低くなる
・1番管→半音+半音(半音2つ分=長2度音程=全音)低くなる
・3番管→半音+半音+半音(半音3つ分=短3度音程)低くなる

仮に半音を「0.5」と定めると、
・2番管→0.5
・1番管→1.0
・3番管→1.5

になります。これと先ほどのピストンを押す7つの音の順番と合体させるとこうなります。

○○○  0

○●○  0.5

●○○  1.0

●●○  1.0+0.5= 1.5

○●●  0.5+1.5= 2.0

●○●  1.0+1.5= 2.5

●●●  1.0-0.5-1.5= 3.0

0.5ずつ増えています。0.5は半音低くなるわけですから、順番に吹くと下行の半音階になるのがわかりました。これがトランペットの運指の法則なのです。

替え指

レッスンでこの説明をすると気付く方がいらっしゃるのですが、「これ以外の運指でも同じ数字にできるのでは?」と。確かにそうなんです。例えば、

ピストン1,2(●●○)の組み合わせは
●●○  1.0+0.5=1.5
でした。

ピストン3番は単独で1.5の長さを持っているわけですから、同じ高さの音を出すことが可能です。こういったものを一般的に「替え指」と呼んでいて、今回最初に掲載した運指表にもいくつか小さめに掲載しています。

じゃあどっちでもいいのか、というとそうではありません。試しにこの音を以下の2つの運指で鳴らしてみましょう。

運指表からすればこの音は「○●○ (2)」ですが、(先ほどの原理とはまた違った理由ですが)替え指「●●●(1,2,3)」でも出せます。

いかがでしょうか。替え指で出した音はなんだかとても不安定に聴こえませんか?異常なほどピッチが高くなってしまいます。他の音の替え指も思いつく限り出してみてください。運指表にあるものと微妙に音の高さや鳴り方に違いがあることがわかると思います。ほとんどすべて替え指のほうが不安定か異質な鳴り方がします。

よって、トランペットを演奏する際の運指は、各「開放」をスタートと考え、そこから7つの半音ずつ下がる組み合わせの運指順に従います。ただし、倍音列は音が高くなってくると音程(2つの音の隔たり)が狭くなるので、7つの組み合わせすべてを使う前にひとつ下にある開放音に到達する、というわけです。そして、替え指は基本的には使用しません。

最初にすべきこと

トランペット初心者の方が音を出せるようになると、まず最初に楽譜の「ド」から始まる調号のない長調の音階(ドレミファソラシド、正確にはB dur)を練習することが多いのですが、そればかりやっていると、ピストンを押す順番が理論とまったく結びつかずにB durの運指パターンのみ暗記してしまうため、他の調との関連性の理解ができず(シャープやフラットが付くと特殊な存在と認識しやすくなる)、応用が効かないために他の音階や半音階を演奏する際、また1から覚えようとして非効率的なだけでなく、楽典的な理解が得られにくくなります。


ということで、運指に関してはまず「解放で出せる音」と「開放から半音で下がるピストンを押す(組み合わせる)順番7つ」を理論的な側面からも覚えてください。それができたら今度は音符だけを見て「この音の運指はこれ!」とパッと出てくることを目標にしてみましょう。

今回はここまでです。また次回!


荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。