言葉の匂ひ、芸術の香り

私は以前から音楽は勿論、特に言葉で伝える詩やエッセイなどの芸術に触れると、体を通して伝わってくるこの何とも言えない感情の色合いのことを”匂ひ”と名付けていたのだが、ふと、その”匂ひ”の正体を言語化できるようなモノを朧げにも捕まえたので急いで書き留めておこうと思う。

それは所謂、概念になる前に存在する純粋な”心情”がダイレクトに心へ伝わるために”匂ひ”として感じられるのかもしれない。例えば、言葉とは言葉に出すことでその”心情”に概念が付いてしまう。悲しいと言えば悲しいという概念が付き、美味しいと言えば美味しいという概念が付く。しかしこの感情が言葉として出る以前の純粋な”心情”には概念が付かない。悲しいという言葉一つで終わらせられない複雑に蟠ったその”何か”を口に出して現界へと存在してしまえば、それは誰もが見知った感情として既に名前が付いてしまう。その概念になる前の”何か”が琴線に触れ心を共鳴させるのかもしれない。

”匂ひ”とは古文辞書でも載ってあるが、この言葉には多くの意味がある。色合いや色艶、美しさ、魅力、気品、香り、匂い、栄華、威光、気分、余情...。現代語にすると"匂い”であるが、それだと現実味が強く出てしまいあまり好まず、私はずっと”匂ひ”と表現して愛でている。

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