保護猫はもっと身近な存在へ ~クチコミ数増加の背景を調べてみた~
筆者は子どもの頃から傍らに必ず猫がいる家庭で育ち、ひとり暮らしを始めてからは実家の愛猫が恋しくてたまりません。
そんな1人の愛猫家として、本記事ではペットとして人気が加速し続ける「猫」とその裏にある殺処分という事実、そして「保護猫」についてクチコミを観測し、分析を行いました。
拡大する猫人気。猫から癒しを得るわたしたち
一般社団法人ペットフード協会の調査「令和2年 全国犬猫飼育実態調査(P.118)」によれば、2020年の「1年以内の新規飼育者」の猫の飼育頭数は前年に比べて16%増えていて、増加傾向にあることが分かっています。
同時にツイート数も増加傾向にあり、「猫」の話題量が年々増えていることが分かります。
また、ペットに関する調査の中でコロナ禍によるストレスを抱えた人たちが「癒し」を求めて「新しくはじめた・行う機会が増えた」ランキングを見てみると、2位と3位はどちらも動物の「動画を見る」がランクインしています。
そこで、Twitter上の「癒し」と「動画」が含まれるツイートの関連語を調べてみました。
1位と4位には「可愛い(かわいい)」が入っており、“可愛い何か”を見て「かわいい!」と癒されている人が多いことが分かります。そして、2位には「動物」、3位には動画プラットフォームの「YouTube」と、先述のランキング通りの結果となりました。5位には「猫動画」というランキング内で唯一特定の動物名が入ったワードが出てきました。動物動画の中でも、「猫」は特に人気であることが伺えます。
2021年8月には「YouTubeで最も視聴された猫」として、もちまる(通称もち様)がギネス世界記録に認定されており、一緒に暮らすだけでなく、猫はデジタル上のコンテンツとしても人気なことが分かります。
猫人気の裏にある「殺処分」という事実
一緒に暮らしたり、動画で見たりと人々が猫に癒されていることが分かりました。そんな癒しを与えてくれる存在「猫」ですが、なんと毎年約3万匹もの命が奪われていることはご存じでしょうか?
環境省が発表している「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、猫の殺処分数は犬の約5倍(2020年3月31日時点)。直近の2019年は、全国で27,108匹の猫が処分されており、日別で換算すると1日に約74匹が処分されていることになります。
猫は性周期が2~4回/年あり、交尾すると高い確率で妊娠するなど繁殖力が高いという特徴があります。また、人と生活圏が被るため事故に遭ったり、他の猫やカラスとの接触でケガをしてしまったりすることが多いです。そのため圧倒的に犬よりも引き取り件数が増え、結果殺処分数も多くなっていると言われています。
しかし、2005年からの推移を見ると殺処分数は約8分の1に減少、譲渡・返還数は6.5倍に増加しています。本当に少しずつですが、状況は好転していると言ってもいいかもしれません。
さらに各自治体が2021年に発表した情報(※1)によると、宮崎県が殺処分数の過去最少を記録したり、奈良県奈良市が2019~2020年度と2年連続殺処分数ゼロを達成したりと喜ばしい結果が出ています。
ペットを最期まで飼う「終生飼養」や不妊去勢手術の普及のほか、コロナ禍のペット人気で譲渡が進んだことが大きな要因と考えられますが、奈良市は飼い主のいない猫の「不妊去勢手術補助金制度」を導入していたり、ふるさと納税の寄付メニューとして「犬猫殺処分ZEROプロジェクト」を追加したりと積極的な取り組みもみられました。
ただ、未だ約3万匹の猫の殺処分が行われていることに対して、私たちができることはないのでしょうか?
猫人気の中で存在感を増している「保護猫」
できることの1つは「殺処分されてしまう前に猫を引き取る」ことです。では、どうしたら引き取ることができるのか? そのキーワードは「保護猫」です。
保護猫とは、飼育放棄や野良猫(地域猫)といった理由で飼い主がおらず、保健所や動物愛護センター、NPO法人、ボランティアなどで一時的に保護されている猫のことを指します。
ここで「猫」についてのツイートの関連語ランキングの変化を見てみましょう。
ランキングトップは3年間変わらず「可愛い」となっており、猫を愛でるツイートが多くされていることが分かります。その他の関連語もほとんど変わっていませんが、2020~2021年になると、突如6位に「保護猫」というワードがランクインしています。
直近3年間の「保護猫」に関するツイート数も増えていました。
「保護猫」でツイート数の推移をみると、直近1年(2020~2021年)のツイート数は2018~2019年と比べて2.5倍近く増加していることが分かります。
以前から保護猫活動はありましたが、いま急激に注目されている理由は何でしょうか? さらにツイートを分析して紐解いていきたいと思います。
保護猫クチコミ増加① 保護猫を身近にした「保護猫カフェ」(直近1年のツイート数 111,400件)
「保護猫」が含まれているツイートの関連語ランキングを見てみると、4位に「猫カフェ」がランクインしています。
従来の猫カフェとは異なる「保護猫カフェ」は主に保護猫と(保護猫を)飼いたい人のマッチングを目的にした場所で、気軽に触れ合える場所として保護猫を身近にした存在です。
ツイートをより詳しく見てみると、ペット不可の住宅で暮らしている人、猫と暮らしたいけどまだ準備ができてない人など、何らかの理由で家族としていまは一緒に暮らせない人が猫に触れる機会を求めて訪れていることが分かります。
「猫と触れ合える」というのは従来の猫カフェでも叶うことですが、あえて保護猫カフェを選ぶのは「行くこと(売上や寄付)が保護猫の支援になる」ということがモチベーションになるためだと考えられます。
また、保護猫カフェに行ったことでお迎えしたい気持ちが湧いたり、実際にお迎えしたという人もいたりと、マッチングの場として十分機能していることが分かります。
つまり保護猫カフェの魅力は
・猫が好きだけど何らかの理由で一緒に暮らせない人にとっては、従来の猫カフェ同様「癒やしの場」でありながら、同時に猫のサポートに貢献できる場
・猫と暮らすことを検討している人にとっては、気軽に行くことができる出会いの場
であることが考えられます。
保護猫クチコミ増加② 保護猫活動のアイコン的存在「サンシャイン池崎さんと保護猫」(直近1年のツイート数 42,000件)
お笑い芸人のサンシャイン池崎さん(以下、池崎さん)が保護猫活動のアイコン的存在になりつつあります。キッカケは、日本テレビ系「天才!志村どうぶつ園」(現:I LOVE みんなのどうぶつ園)で放送され人気コーナーになった「サンシャイン池崎の保護猫預かりボランティア」。
猫好きの池崎さんがプライベートでも行っている保護猫の預かりボランティアに密着したコーナーです。
これまで「まさき」と「明日香」と名付けた2匹の保護猫を譲渡会に送り出した池崎さん。この放送により、保護猫団体が預かっている猫たちの実情や預かりボランティアについて知った人たちの応援や共感のクチコミが生まれていました。
保護猫クチコミ増加③ 企業の取り組み「ハッシュタグ投稿キャンペーン」
【1】#とろねこチャレンジ(実施年の合計ツイート数:210,380件)
池崎さんのような個人による取り組みの一方で、企業もさまざまな取り組みを行っています。デジタルの力を使って保護猫の課題をサポートしている企業の1つが花王株式会社。
同社は2020年2〜4月、同年10~11月に「#とろねこチャレンジ」と題して、眠る猫の写真やイラストをTwitterやInstagramで投稿すると、1投稿につき10円が保護猫の飼い主募集活動に送られるというキャンペーンを実施しました。
このキャンペーン投稿を見た人たちが取り組みに賛同し、たくさんの #とろねこチャレンジ投稿 がされました。
【2】#シマホネコダスケ(実施年度の合計ツイート数:73,310件)
こちらも花王と同じく、ハッシュタグをつけた1投稿につき3円が保護活動に寄付されるという株式会社島忠とネスレ日本株式会社「ネスレ ピュリナ ペットケア」による取り組みです。
どちらの取り組みも、猫の飼い主さんたちの「可愛いわが子を見てもらいたい」という気持ちと「保護猫を救いたい」という気持ちを掛け合わせたキャンペーンです。こういった取り組みも保護猫の認知拡大につながっています。
これらの「保護猫」に関する取り組みや発信が行われ、クチコミが増えたことでどんな変化があったのでしょう?
ここで改めて「保護猫」が含まれているツイートの関連語ランキングを見てみましょう。
1位に「暮らし」、8位に「生活」、9位「家族」が入っており、保護猫と暮らし始めた、もしくは暮らしている人のツイートが増えていることが考えられます。
猫を飼っている人がよく使う定番の「#猫」「#猫のいる暮らし」と一緒に「#保護猫」「#保護猫と暮らす」というハッシュタグが使われていることが分かります。
ちなみにこの「#保護猫と暮らす」のハッシュタグは、2020年から激増しています。
これは、コロナ禍のペット需要増加のタイミングでペットショップからの購入だけではなく、「保護猫」を選ぶことを検討したり、実際に選ぶ人が増えたりしたことが理由だと考えられます。
猫を愛する人々の意識は「猫を救うこと」にも向いてきている
看過できない殺処分問題と対峙するキーワード「保護猫」。クチコミを分析してみると、高まり続ける猫人気の中でもとくにクチコミが増え、注目度が上がっていることが分かりました。
クチコミが増えることで、「保護猫」について考える機会や「保護猫」に関する活動を応援する人も増え、その結果殺処分数がいま以上に減少することを願ってやみません。
1人のマーケター兼愛猫家として、今回クチコミを通じて「猫」の現状とそれに対する人々の動向をお伝えしました。これからも猫という家族と暮らすことで素敵な生活を送る人が増え、幸せになる猫も増えていくといいなと思います。