シュウマイがギョーザに勝つ日は来るか
日本で暮らすほとんどの人が知っていて、食べた経験があるにも関わらず、食卓の脇役的存在の「シュウマイ」。日常の食卓からホームパーティー、外食まで、色々な切り口で語られる食卓の主役的存在である「ギョーザ」とは異なり、食卓の中で目立たない存在です。
果たして、この「シュウマイ」は「ギョーザ」に並ぶ存在となり、食の選択肢として多様性を獲得することはできるのでしょうか。
本記事では、「シュウマイ」のクチコミや、味の素冷凍食品株式会社との共同の取り組みとして実施したオンラインイベント「#負けるなシュウマイ 大会議」の結果についてTwitterで観測し、「シュウマイ」の可能性について迫っていきたいと思います。
「#負けるなシュウマイ 大会議」は「シュウマイ」の可能性に関するTwitter上のクチコミ観測および調査の一環として、2月26日(シュウマイの日)に実施しました。
増加する「多様性」の声
近年、食の話題だけでなく多くの場面で「多様性」が叫ばれ、「多様性の時代」と呼ぶ声も増えてきたように思います。価値観や働き方、趣味、人種、性別など、私たちを取り巻く社会の多くの事柄において、「多様性」の浸透を感じている人も多いのではないでしょうか。
「多様性」のツイート数の推移を観測すると、以下のグラフのようにクチコミが大きく増加していることがわかります。
「多様性」のオーガニックツイート(※1)を集計/集計期間:2018年1月1日~2020年12月31日
このように「多様化」が進むとマイナーだったもの、目立たなかったものが、主役の一つになることがあります。そして元々目立っていたものと、新たに注目を浴びたものが並列になることで、多様な選択が可能となり、多様性の認識につながります。
多様性を獲得するプロセスにおいて「元々脇役だったものが主役の一つとして認識されるようになる」というのは口で言うのは簡単なのですが、実際はそう簡単なことではないことのようにも思えます。いま、食卓の脇役である「シュウマイ」が主役として認識されるのも、まだまだハードルがありそうです。
ギョーザの1割しかツイートされないシュウマイ
「シュウマイ」と「ギョーザ」のクチコミ数にどの程度差があるのか。2020年の年間ツイート数を比較したのが以下のグラフです。
「シュウマイ」「ギョーザ」のオーガニックツイート(※1)を集計/集計期間:2020年1月1日~12月31日
「シュウマイ」のツイート数は「ギョーザ」の11.8%となりました。これは「ギョーザ」が多くの会話の中で語られやすい存在=主役であるのに対し、「シュウマイ」が語られない存在=脇役であることを示唆していると考えられます。
「お弁当」や「中華メニュー」の仲間ポジションの「シュウマイ」
そんな「シュウマイ」と「ギョーザ」の語られ方はどのように異なるのか、「シュウマイ」「ギョーザ」と一緒に語られている言葉(関連語)のランキングを調べてみたのが下記になります。
「シュウマイ」「ギョーザ」とともにツイートされた関連語をランキング形式で表示/集計期間:2020年1月1日~12月31日
「シュウマイ」「ギョーザ」どちらも「美味しい」が1位であり、「冷凍」のような自宅での食シーンを想起させる言葉が上位にランクインしつつ、関連語の傾向にそれぞれの特徴が見受けられました。
シュウマイの関連語は、「弁当」が12位と上位にランクインしているのが特徴であり、「プチトマト」(8位)「玉子焼き」(15位)のようなお弁当の他の具材とともに語られている傾向が見受けられました。
また、「餃子」(3位)「ラーメン」(26位)「小籠包」(38位)のような中華メニューの一つとして語られてることも多いことがわかりました。シュウマイのバリエーションとして50位以内で確認できるものは、「海老焼売」(28位)のみとなりました。企業ブランドとしては「崎陽軒」(4位)「551の焼売」(48位)の名前が観測されました。
一方、ギョーザの関連語の上位には、シュウマイを始めとする中華メニューではなく、「水餃子」(4位)「焼き餃子」(16位)のようなギョーザの種類に関する言葉が並びました。また、「宇都宮」(15位)などの地域ブランドの名前が挙がり、企業ブランドとしては「餃子の王将」(3位)が上位にランクインしていました。
シュウマイにない特徴として、「餃子の皮」(9位)という餃子の部分に踏み込んだ内容の言葉が挙がっており、ひと手間かかる調理方法を積極的に楽しんでいる心理が推察されます。また、「パーティー」(42位)のような言葉もあり、ギョーザを主役にした会話が多くなされていることが確認されました。
シュウマイに比べて、ギョーザは中華メニューの並びの一つではなく主語として語られていること。そして、家の中や外などシーンのバリエーションが多いことなどがクチコミボリュームの差につながっているのではと考えられます。
「#負けるなシュウマイ 大会議」で見つかったヒント
上段左からやしろあずきさん、山田麻莉奈さん、森遥香さん、中段左から、まこさん、りゅうじさん、朴さん(味の素冷凍食品 シュウマイ開発担当)、下段左は上園まりんさん
では、どうすれば「シュウマイ」を「ギョーザ」のように語ってもらえるのかを検討すべく、シュウマイ研究家やシュウマイ開発担当者、多種多様なインフルエンサーを招集し、2月26日(シュウマイの日)に「#負けるなシュウマイ 大会議」をオンラインで開催。
なお、本会議においてソーシャル文化研究所は観測だけでなく、企画立案から運営まで担当しました。
そもそもシュウマイのいい所はどこなのかということについて「冷めてもおいしい」という意見には、全会一致で賛同の声があがりました。お弁当向きの特徴をみんなが理解している状態であることが確認できました。また、「ギョーザより作りやすい」という声もあがり、実はギョーザを超えるさまざまなバリエーションを生み出せるポテンシャルが示唆されました。
続いて、脚光を浴びてブームになるにはどうすればいいのかの議論が交わされました。
・生活者に食べ方を提案し、話題になるレシピを生みだす(需要の喚起)
・シュウマイをモチーフにした漫画コンテンツの展開(想起率の向上)
・「#シュウマイしか勝たん」の流通(クチコミ促進)
などのアイデアを受け、シュウマイ研究家で日本シュウマイ協会発起人のシュウマイ潤さんは「日本シュウマイ協会として、ぜひシュウマイフェスは開催したい」という意向を表明していました。
会議最後の議題は「こんなシュウマイが食べたい」というテーマで、シュウマイそのもののイノベーションの可能性を探りました。
・「卵黄醤油につけて食べる」新しい食べ方の提案
(卵黄醤油は卵黄:1、醤油:小さじ1強、味の素:2振り)
・映えシュウマイ(見た目がとにかくかわいい)
・シュウマイ団子(串にシュウマイを連ねる)
・シューマッハイ(食べたい人の所にマッハで届ける)
などのアイデアがあがり、シュウマイの楽しみ方はまだまだ広げることができるというポテンシャルを感じさせました。味の素冷凍食品 シュウマイ開発担当の朴さんは、アイデアに感嘆し、検討を進めたい意向を示しました。
シュウマイがギョーザに勝つ日は来るか
シュウマイのクチコミ数はまだギョーザの1割程度、語られ方についてもギョーザより話題の種類に乏しいことがわかりました。
一方、「#負けるなシュウマイ 大会議」を経て、シュウマイの楽しみ方、シュウマイの語り方、シュウマイの啓発の仕方、そしてシュウマイそのものの在り方について、イノベーションしていくことができる可能性が示唆されました。
これを受け、シュウマイ潤さんは以下のように語ります。
私が本格的にシュウ活(シュウマイ活動)をはじめた約6年前からすると、シュウマイの知名度は格段に上がってきたと思い込んでいましたが、クチコミ数からすると、餃子さんの足元にも及ばない現実を、改めて実感させられました。すごいです、餃子。
ただ、今回の大会議でのみなさんの先入観ないシュウマイの面白がり方をみて、いい意味でシュウマイの“自由さ”や“なんでもあり感”が受け入れられる可能性を感じました。これは、すでにブランド定着した餃子をはじめとする人気料理にはない長所であり価値だと思います。それをネットを通じて発信拡散していく方法を模索していくと、さらなるシュウマイの活性化につながると、私は思っています。
シュウマイが脚光を浴び、ギョーザに並び立ち、食卓の多様性につながる日ももしかしたらそう遠くない未来なのかもしれません。
※1 オーガニックツイートは、リツイートなどによって拡散されたツイートを除き、一次発信されたツイートのみを指します
※本記事のデータは全て、ソーシャルリスニングツール「ブームリサーチ」で算出しています
鈴木 崇太(すずき そうた)
ソー文研 文化観測士。制作会社にてプロモーション・イベントのディレクションを経験後、 2011年にトライバルへ入社。SNSを基軸とした企業のコミュニケーション設計に従事する。SNSと街の観察に基づく「生活者の気持ちに寄り添った」企画の設計を得意とし、2018年には「ポッキー&プリッツの日」のプロモーション施策であるTikTokキャンペーン「#ポッキー何本分体操」を手がけた。
Twitter @suzukinosonzai