あつ森はなぜ人気なのか? クチコミから読み解いてみた
あらかじめお伝えしたいことがあります。
本記事では、コロナ禍で大ヒットした「あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)※1」のクチコミとその人気について説明しますが、分析や考察内容はあつ森の内容や特性を知っている方が理解しやすいため、あつ森ユーザーを対象としています。
ユーザーでない方は、「あつまれ どうぶつの森」公式サイトやYouTubeの動画をご確認いただくか、TwitterやInstagramで「#あつ森」のついた投稿を見ていただいてから読み進めていただくことをおすすめします(もしくはぜひプレイしてみてください! 時間が溶けてしまいますが……)。
あつ森のツイート数がスゴい
冒頭でもご説明したとおり、あつ森は外出自粛期間に制限されたあらゆる行動(洋服などの買い物や外食、アウトドアのアクティビティ、人との交流など)の一部をゲームの中で楽しむことができて、先が見えない不安な日々を過ごす私たちを癒し続けるゲームとして、瞬く間に大ヒットしました。
本記事ではTwitterでのクチコミ分析を通じて、あつ森がヒットした要因を分析してみました。
Twitterで「あつ森」や同時期に話題になった国内のツイート数を調べたところ、「あつ森」のツイート数は「(新型コロナウイルス感染症の)感染者」や「おうち時間」より、はるかに多い結果となりました。
「コロナ」よりは少ないものの、あつ森のツイート数は約2,180万。
これまで発売された“どうぶつの森シリーズ”が人気で期待値が高かったこともツイート数が多かった要因の一つですが、外出自粛中に家でゲームをする時間が増えてゲームに関するツイートも増えたことも要因だと考えられます。
参考までに、他の人気ゲームのツイート数と「ファミ通」のゲーム販売本数ランキングとあわせて見てみると、他ゲームに比べてもツイート数や売上本数の多さが分かります。
ランキングのベスト10に入っていませんが、PlayStation 4「ファイナルファンタジーVII リメイク」が、ツイート数が「約160万」とツイート数ではランキングの上位に入るほど人気であることが分かります。
また、ツイートの集計期間中(6月12日)に発表があった「PlayStation 5」のツイート数は「約56万」にのぼり、注目度の高さがうかがえます(発売は年末に予定されています)。
あつ森のツイートは5つに分類できる
話をあつ森に戻しましょう。
約2,180万ツイートの傾向を整理すると、楽しみ方を大きく5つに分類することができました。「カスタマイズ性」「イベント」「仲間」「お金」「メディア化」です。
傾向に含まれるキーワードのツイート数は以下のとおりです。
●カスタマイズ性(ツイート数 925,260)
1つ目のカスタマイズ性には「島クリエイター」「家具」「DIYレシピ」「マイデザイン」のツイートなどが含まれます。
島の作り込みや家具、レシピ収集は、ユーザーの「こんな島や家を作りたい!」を形にしていく底なしのカスタマイズ要素があり、その中毒性はあつ森の特徴の一つです。Twitterでも、ユーザーが作った島や家に関するツイートが多くみられました。
●イベント(ツイート数 170,020)
「イースターイベント」「春のアップデート」「夏のアップデート」など、ゲーム内で配信されるイベントに関するツイートです。
ユーザーを長く楽しませるために、あつ森では定期的にアップデートが行われており、新しいイベントや施設、アイテムが配信されます。季節ごとに登場する魚や昆虫、植物もクチコミが増える要因と言えるでしょう。
●仲間(ツイート数 572,800)
フレンドとの島の行き来や人気島民「ちゃちゃまる」などに関するツイート。
特にフレンドとの交流では作り込んだ島や家を自慢したり、アイテム交換を呼びかたりして(ツイート文ではユーザー自身が何を求めているか、何を譲れるかを詳しく記載)、あらゆるコミュニケーションを生んでいます。また、ヒツジの島民「ちゃちゃまる」のユニークな表情や言動が動画でよくシェアされています。“ソーシャルメディア映え”するキャラクターですね。
●お金(ツイート数 502,190)
「カブ価」や高額で売却できる「タランチュラ」や「サソリ」に対するツイート。
島づくりにはお金(ベル)がかかります。高額で売れる生き物やカブ価は、あつ森における経済活動。
特にカブ価については、連日「うちの島、いまカブ価◯ベルだよ!」と報告するツイートが目立ち、他のユーザーが島に出向いてカブを売買することが習慣化しています。このカブ価の仕組みが多くの交流やクチコミにつながっています。
●メディア化(ツイート数 79,590)
「アパレル」「美術館」などのマイデザインや、あつ森を楽しむ「芸能人」に関するツイート。
ツイート数としては少ないのですが、マーケターとして大変興味深いのがこのメディア化です。
近年、ゲームに商品が登場するケース(企業によるブランディングやマーケティングを目的とした試み)が増えていますが、あつ森でもその事象が見受けられます。
国内外のアパレルブランドや美術館がマイデザインを公開し、ユーザーに使ってもらうことで新たなコミュニケーションを生んでいます。
また最近は、YouTuberだけでなく芸能人やタレントもYouTubeでゲーム実況を行っています。影響力を持つ彼らもあつ森を楽しみ、一部では一般人とゲーム内で交流することで話題になりましたた。
いずれも、ユーザーであれば一度は見たことのある内容だと思います。
詰まるところ、あつ森は無人島をカスタマイズして、仲間とコミュニケーションを楽しむために必要なお金を稼ぐゲームであり、ユーザー数やクチコミ誘発力から企業や機関が参入してメディア化されつつあると言えるでしょう。
そのすべてが、ツイートやUGC(※2)によって可視化され続けています。
なぜあつ森はこれほど売れたのか?
ファミ通によると、あつ森は発売からわずか3日で188万本を販売しました。Nintendo Switch向けのソフトでは、初週販売本数が歴代1位のロケットスタートだったそうです(※3)。
ゲーム内容や操作が簡単で、さまざまな楽しみ方があるという点だけでなく、発売タイミングがこのコロナ禍の外出規制中だったこともあり、ゲーム需要が急増。さらにソーシャルメディアとの親和性の高さが抜群だったことも起因していると考えられます。
かつて、ゲームはオタクのイメージで、親にとっては子どもの学力向上の妨げになる敵のような存在でした。それがいまや、子どもたちのプログラミング学習の教材に「Minecraft」が活用され、eスポーツやプロゲーマーなどの登場によって世の中のゲームに対する認識が変化しています。
サラリーマンが電車の中で、主婦が家事の合間にスマホゲームを楽しむ時代。かつて親に文句を言われながらファミコンを遊んでいた世代が大人になり、子どもを育てています。
以下のグラフは、あつ森のツイートをしている年代別の割合です。
Twitterユーザーであることが前提なので若年層に偏る傾向にありますが、それでも20代以上が40%を超えています。このゲームが若いゲーム好きや子どもだけのものではない事実を表しています。
ゲームに関するツイート数は、そのゲームの市場規模を示し、ツイート内容はゲーム内におけるユーザーの意思や行動(批評も含む)を可視化したものです。これからのゲームは、ゲーム自体のクオリティだけではなくクチコミ創出も設計して開発いただけると、ゲームファンとしてもマーケターとしても嬉しく思います。
最後に。コロナ禍で不安な日々を過ごす人たちを癒やし、笑顔や人と関わる機会を生み出して、私たちの時間を鮮やかに奪ってくれた任天堂さん。
娯楽としてはもちろん、いちマーケターとしても大変興味深いゲームでした。素晴らしい時間をありがとうございました。
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