「詐欺事件とその後ー誰が信用に値するのか。ー」アフリカ大陸縦断の旅〜エジプト編⑮〜
*前回の物語はこちらから!!!
2018年8月17日、午後12時頃。ギザ観光警察の懸命な捜査のもと、目の前に連行されてきた犯人。そして、私たちに与えられた究極の選択。お金を取り返す権利か、詐欺師ムーディを逮捕する権利か。
「Money or Arrest ?」
この先続く旅のことを考えれば、私たちが選択肢はもはやただ一つ。
「Money!!!」
こうして、取り返すことができたお金。しかし、詐欺師ムーディには一切のお咎めなし。わずか4時間ほどで詐欺事件は解決。いや、捉え方によっては未解決で幕を下ろしました。
「エジプトの法律はどうなってるん?」
「お金返せば許されるってこと?」
「これが通常なら、詐欺がエジプトから消えることはないな。」
詐欺師とそのグループ。警察の対応。エジプトの法律。怒りをぶつけたい場所は数え切れないほどありました。しかし、全ての責任は私たちにありました。日本で培ってきた価値観や常識は何も通用しない。そんなことは承知の上で、旅に出たはず。しかし、私たちの認識は甘かったのです。完全に旅を舐めていました。
何一つ調べず、何の警戒心もなく、ふらふらと適当な判断をしていたことが、この事件を引き起こしたのです。
自分の身は自分で守らなければならない。そんな当たり前のことを、身をもって痛感しました。
これから行く先々で起こることは、こんなもんじゃないかもしれない。今のままでは命が何個あっても足りない。
「調べるしかない。」
こうして、私たちは情報収集に時間を費やすことになったのです。その国の治安、拠点、衛生面、経済、観光地など、調べていけばキリがありませんでした。宿から一歩も出ることがなく、その日が終わることもありました。
そして、調べていくうちに、段々と今回の詐欺事件の全容が分かってきたのでした。
・ピラミッドツアーでエジプト人用の安い行き方がある。というのは、詐欺師の誘い文句であること。
・客引きには、騙しやすさという点から、子連れの奴らも多くいるということ。
・英語が話せる人には、要注意。それは観光客を騙すために身につけた可能性が高い、ということ。
・後日、詐欺グループにつきまとわれる可能性があるので、宿の場所や個人情報を教えてはいけないこと。
・詐欺師たちの情報共有のスピードが凄まじく速いこと。
少しでも調べていれば、今回のような被害を受けることはなかったはずでした。「旅人なら調べずに行くべきだ!」という謎の安いプライドは、捨て去るべきだったのです。どこまで予備知識を積んでおくかは、旅の経験値次第かと今では感じています。
さらにエジプトについて調べた結果、次のようなことも分かりました。
・エジプトはアフリカ大陸の中でも、比較的治安は良いということ。
・一般人がナイフやピストルなどの武器を持っていることは、滅多にないということ。
・何かあった時、強く言い返せば、エジプト人はすぐに引いてくれるということ。
これまで頑なに拒んでいた情報収集という行為。しかし、それは命を守るためには欠かせないことでした。また、得た情報と目で見たことを比較して、新たな視点から異文化を見られることにも繋がっていきました。結果的にこの詐欺事件は、私たちに、ポジティブな変化をもらたしてくれたのです。
一方で、この詐欺事件は私たちにネガティブな影響も与えました。それは、人間不信です。情報収集によって、自分の判断を信用できるようになった私たちでしたが、出会う全ての現地人に疑いの目を向けるようになってしまったのです。
ではここで、人間不信エピソードを3つご紹介します。
・スラム街でお世話になったガマルへの不信
スラム街にて、私たちを案内してくれたガマル。家にも招待してくれて、料理まで振る舞ってくれた。そのガマルとSNSで作ったグループ。日々の暮らしを伝えるだけの平和な会話でした。しかし、詐欺事件以降、「何かに利用されているんじゃないか。」と勘繰った私たち。突然そのグループを抜けて、彼のアカウントをブロック消去。
・バスの運転手への不信
移動のために使ったバス。事前に値段を調べてから乗った私たち。お釣りが数十円返ってくるはずでした。しかし、中々返ってこない。腹が立った私たちは走行中の運転手に、怒鳴り込み。乗客が怯えるほどの激昂。結果的には、現地人も私たちと同じ値段を支払っていたらしく、私たちの態度にエジプト人ドン引き。
・ちびっ子への不信
ルクソールの街中。20分以上私たちの後をつけてくるちびっ子。「お金をくれ」としつこく迫ってくる。その言葉には非常に敏感になっていた私たち。中々離れないそのちびっ子に向かって、大声で怒鳴りつけました。小学生ぐらいの子供に暴言、罵声の嵐。
もはや目に入る全員が詐欺師に見え、異常なほどの警戒心を四六時中保ち続けました。それほどまでに、他人への信用や感情を制御することが難しくなっていたのです。
アフリカ大陸縦断の旅を開始してわずか5日。私たちの旅は、とてつもなく大きな変化を迎えたのでした。
もう2度と同じ轍は踏まない。そう意気込んで迎えた次の国、エチオピア。強烈な黒人のオーラに、圧倒される私たち。
「もう自分さえ信用できない。」
そう思うしかなかった、エチオピアの初日。エジプトで得たことは、早くも揺れ動くことになるのでした。
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