5.未来ファンタジー_ホロパース2121
#小説 #文明と幸福 全11話
ハンターがいる間は原住民にもリングは渡されていた。しかし彼らは狩りの邪魔になるからと、ネックレスとしてリングを持っていた。リングの翻訳機能は、タイムラグのないコミュニケーションを可能にしていた。
サトリとユラがアマゾンの大自然と原住民の生活に馴染んできた頃、仲良くなった同い年の原住民ハンター、ミラと一緒に焚き火を囲んでいた。そこでミラはふと二人にきいた。
「二人はそのリングを持っていて、幸せかい?」
突然の質問に困っていると、ミラは話をつづけた。
「僕たちも最初は、君たちの持ってくる新しいものに驚いたよ。でもすでに僕たちが能力として持っているものも多かった。ここにはない便利なものも見せてくれたし、使ってみて最初は驚いたけど、必要ではないものの方が圧倒的に多いんだ。このリングも毎日持っていると、なんだか疲れてくる。そして昔と自然が変わってしまった。以前は雨季でももちろん家は大丈夫だったのに、隣村が流されてしまったんだ。そうかと思えば、乾季が長すぎて作物が十分育たずに備蓄している食料がどんどん減っていってしまう。君たちが調査に来ると、あれがないこれがない、出来ないと言われてなんだか申し訳ない気持ちになったよ。
僕たちは毎日子供たちや長老たちと一緒に楽しく暮らしていて、自然から十分な食事をもらって、平和に暮らしていた。でもこの森林の外で作られたビルや工場というものが原因で変化が起きたみたいだ。僕たちは何もしてないのに、どうして僕たちの生活を変えるんだろう。僕たちは十分幸せだから、なにも奪わないで欲しい。だからそのリングがあると、どうして幸せなんだい?」
ミラは困った様子で、とても不思議そうにサトリとユラに聞いた。しかしその夜は、あまりに難しい問題で答えられそうになかった。その様子を察してかミラは、そろそろ寝てまた明日も遊ぼうと、二人に声をかけた。
サトリもユラも、なんだか寝付けないまま気がつくと深い眠りに落ちていた。
-翌朝。
ミラとその友だち、カカウと4人で「イグアスの滝」に向かっていた。自由飛行エリアでのソロフライトが可能なドローンを使うと昔は6時間かかっていた距離も、2時間で移動ができた。
イグアスの滝はブラジル南部とアルゼンチン北部の国境付近にあり、世界三大瀑布の一つに数えられ、南米では「神の源」と言われる水源として、動植物が豊に育つ場所で有名だった。
遊覧フライトの許可時間に間に合い、4人は上空から入り、滝の近くまでオートマで近づくことができた。声なんてすべて掻き消される水流の爆音。4人は笑顔だけでその場を満喫していた。
そんな中、ユラは視界の脇を横切る何かを見つけた。RBG専門のプレイヤーとはいえ、広大な場所でのVRバトルもときどきすると動体視力は自然と鍛えられていた。最初は鳥かと思ったけれど、軌道がすこし不思議だったので気になってその物体を探した。すると滝の隅の岩場にシロが消えていくのが見えた。
「え?」
シロはたしかに地球上あらゆる場所にいる。けれど、この滝の監視は、見えるところに浮かんでいるシロがしている。でも今のシロは明らかに何かを運んでいた。気になったユラがオートマを外しブレイン操縦に切り替え、岩場の影が見えるところに移動を始めた。すると滝に近づきすぎ、ドローンから「離れてください」と警告が鳴った。まずいなと思った次の瞬間、予想もしていないラインから大量の水が降ってきた。
「ユラ!」と大きな叫ぶサトリ。
次の瞬間、ユラは水の重みに耐えていた。しかしどんどん落ちていく。
「ユラーーー!」サトリが急いでレスキューモードに切り替え、ユラに急接近した。サトリが手を伸ばすと、ユラはその手を掴んだ。
「絶対に離すな!」サトリの声も滝の爆音にかき消されていた。けれど、ユラには伝わっていた。
ミラとカカウのドローンは、二次災害回避モードになりその場所から動けない設定に切り替わり、見守ることしかできなかった。
次々のシロが集まってきたが、時間の方が早かった。
二人はついに瀑布の壺に飲み込まれていった。
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