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小説「対抗運動」第2章2 2  電話で 2003年2月16日

舞ちゃん「おいさん、きのう渋谷のデモ行ったん?」

おいさん「ほう、よう知っとるね、行ったよ。」

舞ちゃん「すごかった?」

おいさん「5,000人くらいやったからね。面白かったけど、あんまり迫力はなかったよ。オーストラリアから始まって、ヨーロッパなんかものすごかったみたいやね。パリの20万人とかロンドンやベルリンの50万人とか。想像もつかん。」

舞ちゃん「世界中で1000万人!」

おいさん「14日の夜遅く、衛星放送で国連の安保理が実況中継されたんよ。イラクを調べよる査察委員会のブリックス委員長の報告があって、次ぎに理事国が順番に演説した。おいさんもテレビ見よったんよ。あんまり期待してなかったんじゃけど。おや、っと思たね。持ち時間は各々7分じゃった。なんとかイラクへの攻撃突入を避けようとする空気が感じられたよ。報告からしてそうじゃったが。なんと言ってもトップバッターやったシリアのジャラ外相がよかった。」

舞ちゃん「新聞には、フランスのドビルバン外相の演説が載っていたけど。」

おいさん「うん、ドビルバンは2番バッターやった。あいつもようやったよ。けど、流れを変えたんはブリックスの報告とシリアのジャラ外相やったな。そこを、ドビルバンがバーンと盛り上げて、一挙に査察継続の流れを主流にした。」

舞ちゃん「ふーん。シリアの外相は何言うたん?」

おいさん「最初はイスラエルのことばっかり言うとったよ。500以上の国連議決をないがしろにして、31の決議を無視しとるやないか、とかね。なんや、こいつピントがずれとるなと思い始めてたんや。そしたらなあ、今パレスチナを攻撃し続けているイスラエルは核保有国であり、査察を受け入れないのに、野放しやないか。今イラクはどこも攻めてないし核保有の証拠もない、しかも査察を受け入れとる。あわてて攻撃する必要がどこにあるんか、と。」

舞ちゃん「ふーん。」

おいさん「舞ちゃん、四国の高松でも岡山でもデモあったみたいやよ。これから、日本でも何万人とかのデモが続くよ。」

舞ちゃん「なんで?」

おいさん「強引にイラク攻撃しようとしとるアメリカ、それを支持しとるのは今のところイギリス、スペイン、日本くらいのもんや。まあ、世界から孤立しかけとるね。また、戦争にもっていこうとしとるんはアメリカ政府や。支持しとるんもイギリス、スペイン、日本の政府や。一般の人はこれからますます反対するやろね。何かおかしいもんね。シリアの外相が言う通りや。」

舞ちゃん「そしたらどうなるん?」

おいさん「そいでも攻撃するじゃろね。」

舞ちゃん「なんで?」

おいさん「石油、イスラエル、それとアメリカの国内の事情。戦争しとるかぎり大統領は安泰じゃからね。世界史でローマの皇帝のこととか習うたじゃろ。」

舞ちゃん「世界中の人が1000万人もデモしとるのに、自分らのことばっかし考えるん?」

おいさん「舞ちゃん、今の世の中のしくみはそうなっとるよ。」

舞ちゃん「おいさん、それ、おかしいわ。反対しとる人が1000万人もおるんやから。無視できるはずないよ。反対の投票とかできんの?」

おいさん「舞ちゃん、アメリカの大統領は4年に1回投票されるだけじゃ。世界中の人が大統領の影響受けとるけど、投票できるんはアメリカ国籍持っとる人だけじゃしね。」

舞ちゃん「おかしいねえ、腹立つねえ。影響受ける人がみんな投票できんのなら民主主義と違うよ。」

おいさん「おいさんも政治の民主主義はウサン臭い思とるよ。」

舞ちゃん「ほかにも民主主義があるん?」

おいさん「そうじゃねえ、投票じゃったら毎日しよろうがね。」

舞ちゃん「えっ?」

おいさん「舞ちゃんもアメリカに投票しよるよ。」

舞ちゃん「どして?わたしまだ選挙権ないよ。」

おいさん「毎日、買い物しよろがね。おいさんは、買い物は投票と同じやと思うけどね。だれでも何か買わな生活できん。そやから、自分の生活の安全、向上のために役だつもんをしっかり選ばんとね。何買うんかは投票と同じや。法律には何んも書いてないけどね。これはみんなが認めとる当然の権利や。」

舞ちゃん「ふーん。そいで、その買う投票でなんとかなるん?」

おいさん「反対する人がいっぱいおるのに戦争するんは、そうする方が都合がええ者がおるからやろ。大体、政府に取り入っとる大企業やな。いっぱい資金援助する企業が支えているから、政府はデモを無視できるんや。暴動になったら、警察や軍隊で防いだらええしね。そやから、暴れたりせずに、そういう企業の商品をボイコットするんや。買わんのが一番。無理に買わすことはできん。デモがもっと大きくなったら一時はブッシュ大統領を止めることができるかもしれん。けど、また収まった頃に始めると思うよ。1000万人がデモしとるのに無視するんやからね。しかし、デモした人がボイコットしだしたら無視できんよ。
舞ちゃん、ボイコットがうまいこといったら、なんとかなるかもしれんよ。」

舞ちゃん「お、おいさん、すぐやろ!」

おいさん「舞ちゃん、ようく調べてからね。ボイコットするためには、他で買えんとね。食べ物でもガソリンでも。ブッシュを支えている企業や政府の要人を支えている企業は大体分かっとるんよ。あとは、そのボイコットが成功するためには、戦争に反対しとる企業や生活の安全、向上のために生産しとる企業の製品を探して、そっちを買おうと呼びかけんとね。」

舞ちゃん「おいさん、調べてみるよ!」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年2月24

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