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COVID-19/インフルエンザワクチンの同時接種の重要性。公衆衛生上不可欠なツール

The Importance of COVID-19/Influenza Vaccines Co-Administration: An Essential Public Health Tool
Received: 24 October 2022 Accepted: 1 December 2022
Published: 5 December 2022 Infect. Dis. Rep. 2022, 14, 987–995.

https://doi.org/10.3390/idr14060098

要旨

  ワクチンの同時接種は、経済的・物流的な利点だけでなく、接種率の向上など、公衆衛生上いくつかの利点を持つ重要な手段である。本研究の目的は、ワクチン同時接種を選択した医療従事者(HCW)とCOVID-19の接種のみを受けたHCWのCOVID-19初回ブースター接種(三回目接種)に対する免疫反応を評価・比較し、同時接種の経験に関する個人の意見を調査することである。そこで我々は二つのグループを使ったレトロスペクティブ解析(後ろ向き研究解析)を行った、両群ともCOVID-19ワクチンの初回接種と初回ブースター接種の両方を接種済みのHCWだが、一方は初回ブースター接種の際、同時にインフルエンザワクチンも接種したグループとなっている。電話調査も実施し、副反応の発現状況や一般的な意見など具体的な質問を行った。両群とも、免疫反応に統計的な有意差はなく、良好な免疫反応が認められた。また、両群とも重篤な反応は生じなかった。参加者のほとんどは接種の結果に満足し、再接種も希望した。今回の結果は、より多くのワクチンを同時に投与することによって得られる数多くの利点を考慮すると、同時投与に完全に賛成するものである。

図解

概要
副反応について
まとめ

図解スライド(5ページ)

English Presentation Slides

日本語翻訳ファイル

1.背景

 COVID-19と季節性インフルエンザは、入院や死亡など、人々の健康への影響が顕著な広範な空気感染症である[1,2]。高齢者、合併症のある人、妊娠中の女性などの一部の耐性が少ない集団は、これらの感染症にかかり、悪い臨床結果をもたらすリスクが特に高くなっている[3-7]。このため、全人口、特にこれらのリスクが高い人々にワクチンを接種することは、公衆衛生政策の主な目的の1つとなっています。これら2つの感染症に対して利用可能なワクチンは安全かつ有効であるため、ワクチン接種プログラムは、両感染症を制御するために公衆衛生が打つ手として最も強力な手段である[8,9]。
 イタリアのCOVID-19ワクチン接種施策としては、2021年秋は、初回投与(1,2回目接種)が継続された事と、いくつかのカテゴリーの個人、中でも医療従事者(HCW)、60歳以上の人々、特定の病理または状態に冒され「極めて危険な」人々など、ウイルス曝露のリスクが高い人々に1回目と2回目のブースター投与(3回目、4回目接種)が行われたことが特徴のシーズンだった[10]。HCWは、パンデミック時にSARSCoV-2の影響を特に受けており、非常に高い有効性を持つワクチン接種が行われた最初のカテゴリーの1つである[11,12]。
 北半球では、秋はインフルエンザの予防接施策が行われる季節でもある。インフルエンザワクチンの接種は60歳以上の人、インフルエンザ合併症のリスクを高める疾病に罹患している人、そして、HCWに対して強く推奨されています[13]。そのため、2021年10月、両ワクチン施策の時期や両ワクチン接種が強く推奨されている対象グループが重複することを考慮し、イタリア保健省は、世界保健機関(WHO)と欧州疾病対策予防センター(ECDC)の勧告に従い、これら2つのワクチンの投与を同じ接種期間に計画することが可能であったと表明した[14,15]。
 一般に、ワクチンの同時投与にはいくつかの利点がある。最も重要な効果は、ワクチン接種率の向上であり、経済的・物流的な利点もある[16,17]。さらに,COVID-19とインフルエンザワクチンの同時接種については,HCWの間で非常に高い接種率に達した2020/21年シーズンのインフルエンザワクチン接種率と同等またはそれを上回る機会を得られることも利点となるであろう[18]。
 ワクチンの同時投与は、公衆衛生の将来的な主要政策の一つである。しかし、この目的を達成するためには、ワクチンへの躊躇いが困難な障害となり得る。ワクチンの躊躇いは,ワクチン接種サービスが利用可能であるにもかかわらず、ワクチンの受け入れの遅さや接種拒否からなる広範な感情であり、副反応への恐怖が接種を躊躇わせる最も一般的な決定要因の1つである[19]。多くの人は、より多くのワクチンを同時に投与することで、副反応の発現に高い影響を与えることになると考えている。しかし、最近の科学的証拠によると、同時投与は安全であり、反応原性プロファイルは単独でのワクチン投与と同様であることが示されている[20]。
 本研究では,COVID-19初回ブースター接種から1カ月後の血清反応を、同時接種を選択したHCWとCOVID-19のみの接種を受けたHCWの両方で評価・比較することを目的とした。さらに、両グループには接種後の結果について聞き、両ワクチンを接種したグループに相対して、この経験に対する個人的な意見も聞いた。

2.材料と方法

2-1参加者の募集

 本研究は、イタリア、メッシーナ大学病院(University Hospital "G. Martino")の病院衛生外科(Operative Unit of Hospital Hygiene)によって実施された。この病院衛生外科のワクチン接種センターでは、すべてのHCWにCOVID-19とインフルエンザワクチンの同時接種または分割接種が可能である。具体的には、有効性と安全性の観点から同時接種の効果を検討するために、2つのHCWグループを対象とした後ろ向き解析を行った。両グループはCOVID-19ワクチンの初回接種と初回ブースター接種を行った64名からなり、うち一方のグループは初回ブースター接種と同時にインフルエンザワクチンも接種した。自然免疫反応に起因するバイアスを排除するため、COVID-19の陽性判定歴があることを唯一の除外基準として参加者を選択した。

2-2投与計画

 COVID-19ワクチンの初回ブースター接種は、初回接種から4~6カ月後に両群に投与された。COVID-19は、両群ともBNT162b2 COVID-19 mRNA(Pfizer/Biontech 社製)を接種した。同時投与の対象となった集団には,2種類のインフルエンザワクチン、従来の卵由来の4価ワクチン(VAXIGRIP TETRA,Sanofi S.r.l. )か、革新的な細胞培養由来の4価ワクチン(FLUCELVAX TETRA,Seqirus S.r.l. )が接種された。使用したインフルエンザワクチンは、いずれも2021-2022年シーズンの組成に更新されている。

2-3免疫応答評価

 両群とも、COVID-19ワクチン接種の有効性と、免疫反応におけるインフルエンザワクチンとの同時投与が果たしうる役割を評価するために、初回ブースター接種から1ヶ月後にスパイクタンパク質に対する抗体を検出した。この目的のため、参加者から試験参加へのインフォームドコンセントを得た後、その血液を採取し、4,000rpm、10分間遠心分離し,SARS-CoV-2のS1/S2抗原に対するIgG抗体を検出するための定量分析を行うCLIA(ChemiLuminescence ImmunoAssay)試験(LIAISON SARS-CoV-2 S1/S2 IgG-DIASORIN S.p.A., Saluggia, Italia)のために使用した。本研究では、0.8 B.A.U./mL未満の値を陰性とした。

2-4個人的意見評価

 また、両ワクチンの同時接種による反応原性の影響や、両ワクチン接種者の個人的な意見を調査するため、積極的に電話をかけ、副作用の発現状況や一般的な意見について具体的に質問した。

2-5統計解析

 得られたデータはすべてPrism 4.0ソフトで集計・分析した。記述統計は、パーセンテージ、平均値、標準偏差を求めるために使用した。研究グループ間の比較は、相関検定、カイ二乗検定、Student's t-testによって行われた。有意性は p < 0.05 の水準で評価した。

3.結果

 インフルエンザワクチンとCOVID-19ワクチンの同時接種を受けた参加HCWは6名で、内訳は男性53.1%、女性46.9%、平均年齢44.1±13.4歳(最小値25、最大値67)であった。インフルエンザワクチンについては、65.6%が卵由来ワクチンを、34.4%が細胞培養由来ワクチンを接種していた。COVID-19ワクチンの初回ブースター接種のみを行ったグループは64名で、性別は同時接種グループと同じ構成であり、平均年齢は44.2±12.9歳(最小27歳、最大67歳)であった。図1に両群のCOVID-19抗体価の幾何平均値を示す。
【図1. COVID-19+インフルエンザワクチン同時接種群およびCOVID-19ワクチン単一接種群の初回ブースター投与に対する免疫反応の違い。両群のサイズサンプル:64人のHCW。統計学的有意差の評価にはStudent's t-testを使用した。】
 図より、両群の免疫反応に統計学的に有意な差は無く、どちらも高い幾何平均の抗体値を示すなど良好な反応が認められた。さらに、性・年齢別に分けると、図2のようになった。
【図2. COVID-19+インフルエンザワクチン同時接種群とCOVID-19ワクチン単一接種群の初回ブースター接種時の免疫反応における性差と年齢差。両群のサイズサンプル:HCW64人。統計学的な有意差の評価にはStudent's t-testを使用した。】
 性別では、両群とも男女間に有意な差は見られなかった。具体的には、男性では両群ともほぼ同じ抗体価であったが、女性では統計学的に有意ではないが、COVID-19初回ブースター接種のみを行った群に比べ、同時接種を行った群でより低い抗体価となり、一定の差が見られた。また、年齢別では、50歳以上では差がなく、50歳未満では一定の差はでたものの統計的に有意な差は認められませんでした。
 副反応の発現については、両群とも重篤な副反応は発現せず、軽度の症状のみであった。その結果を図3に示す。
【図3. 両群間の副作用の発現状況比較 両群のサンプル数:各HCW64名】
 図より、COVID-19のみを単一接種した群と2種類のワクチンを同時接種した群とで差はないことがわかった。さらに、性別や使用したインフルエンザワクチンの種類によって、同時接種群内で副作用の発現に何らかの違いがあるかどうかを検討した。その結果を表1に示す。
 最後に、両方のワクチンを同時接種した人に、同時接種とその効果についての個人的な意見について質問した。その結果を表2に示す。
 この表から、多くの人が同時接種に満足し、また行いたいと考えていることがわかった。さらに、約8/10の人がインフルエンザとCOVID-19の混合ワクチンに好意的であると述べている。男女別では、女性より男性の方が同時接種に対して「後悔した」割合が高く(8.9%対4.5%)、有意差は無いが若干の違いが見られた。さらに、女性は男性よりも「もう一度やりたい」(95.5%対84%)、「勧めたい」(88.6%対82.7%)と思っていることがわかった。

4.結論と考察

 ワクチンの同時接種には、公衆衛生コスト削減の可能性や、何よりも接種率の向上など、潜在的なプラス面もあると思われる。特にCOVID-19とインフルエンザについてはそれが非常に重要である。COVID-19とインフルエンザワクチンの同時接種は、実現可能で賢明な選択である。第IV相ランダム化プラセボ対照試験では,ChAdOx1およびBNT162b2 COVID-19ワクチンの両方が、MF59アジュバントまたは細胞培養由来のインフルエンザワクチンと安全に同時投与でき、有害事象や免疫干渉の有意な増加はないことが立証された[21]。WHOと米国疾病管理予防センター(CDC)の両方で、COVID-19ワクチンはインフルエンザを含む他のワクチンと同時に投与できると定めている[14,22]。イタリアでは,2021/2022年のインフルエンザ予防接種施策開始時に、保健省がインフルエンザワクチンと他のワクチンとの同時接種を承認した[23]。
 本研究の結果、COVID-19初回ブースターのみの単一接種者は,同時接種者に比べて高い免疫応答を示したが、両群間に統計的有意差はなく、COVID-19に対する良好な免疫原性が確認された。この結果は、インフルエンザワクチンとの同時接種者とCOVID-19単一接種者のSARS-CoV-2に対する抗体応答が同程度であったという過去の文献のデータと一致している[21,24]。また、性・年齢による統計学的有意差は認められなかった。
 また、初回COVID-19ブースター単一接種者と比較して、同時接種者では大きな副作用は認められませんでした。副反応はいずれも局所的で軽度のものであり、単一接種群とほぼ同様の割合でした。一般に、COVID-19ワクチンでは被接種者の10%に痛み、紅斑、腫脹に代表される局所的な副反応が生じる。まれに、COVID-19ワクチンの接種と同時に生じる非典型的な形態的外観を有する初期の局所反応からなる副反応も報告されている[25]。副反応については、両群間に統計学的に有意な差は認められなかったが、同時接種群では、局所の痛みや脱力感について男女間で統計学的に有意な差が認められ、女性の方が男性よりも影響が大きいことが判明した。
 さらに、同時接種者の個人的な意見も非常に興味深く、刺激的なものだった。特に強調したいのは、参加者のほぼ全員が、同時接種をしたことを後悔しておらず、またやりたいと考えていることである。これらの知見は非常に重要である。というのも、実は、ワクチンの同時接種に関する人々の知識、態度、実践については、ほとんど知られていないからである。Stefanizziら[26]は、最近の論文で、HCWの間でCOVID-19初回ブースターとインフルエンザワクチンの同時接種が非常に高い頻度(60%)で行われていることを報告している。このような高い同時接種率は、適切かつ効果的な情報提供を受けたHCWという特殊な研究集団によるものであると思われる。
 今回の結果は、より多くのワクチンを同時に接種することで得られる多くの利点、特に注射の回数を減らすことができ、その結果医療施設にかかる負担を軽減できることを考慮すると、同時接種に全面的に賛成できるものであった。さらに、昨年度シーズンのCOVID-19の接種スケジュールは、インフルエンザワクチン接種キャンペーンに悪影響を与える可能性があったことが示されているため、2つのワクチンの同時接種はこの問題を回避することができる。2020/2021年の南半球のインフルエンザシーズンでは,COVID-19接種プログラムがインフルエンザワクチン接種率に悪い影響を与えた。例えば,オーストラリアでは、過去2シーズンと比較して,すべての年齢層でインフルエンザワクチン接種率が著しく低下したことが報告された[27]。しかし,2020/2021年シーズンとは異なり、2021/2022年シーズンは、上記のCOVID-19/インフルエンザワクチン同時接種に関する臨床ガイドラインがWHOとCDCの双方から出された。この事実は、COVID-19/インフルエンザワクチン同時接種を受け入れ、ひいては接種率を向上させるための重要な行動の1つは、公衆衛生当局による両ワクチン接種の重要性に関する明確で、一貫した、適切かつ頻繁なコミュニケーションをとることであると示唆されているため、極めて重要である[27]。イタリアでは、最近の調査により、一般成人人口のごく一部(23%)が同時接種を受け入れたいと考えており、17%が完全に反対していることが明らかになった。残りの成人人口(約60%)は、ある程度躊躇しているという結果であった[20]。同時接種に関する一般市民の主な懸念は、副反応の増強に対する恐れ、すなわち、多すぎるワクチンが免疫系に負荷を与え、単一ワクチンよりも低い効果を発揮する可能性があるのではないかということである[17]。この信頼と知識の欠如は様々な方法によって改善することが出来る。例えば、実験、観察、ファーマコビジランス(医薬品安全性監視)に関するデータがさらに利用可能になり普及することや、科学協会が発行する公式ガイドラインの作成は、おそらく一般市民の受け入れとワクチン同時接種の普及に強い推進力を与えるだろう。
 また、COVID-19のパンデミックとその予防接種政策の将来はまだ不明であり、この感染症がインフルエンザと同様に季節的な問題となる可能性も排除できないことを強調しておく必要がある。実際、この可能性がますます高まっていることを示す証拠もある[28]。このような観点から、同時接種は医療施設の負担を軽減するための基本的な手段となり得る。そのため、今回のような結果は、次のシーズンのワクチン接種施策を計画する際に有用であると考えられる。

 

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