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高卒就職問題の改善は人口減少社会への対応

 高卒就職問題研究のtransactorlabです。高卒就職市場が何かおかしなことになっていることに気づき、調査研究と改善の提言を続けております。前回の前回の記事では「高卒就職問題を語る際の共通認識」とのタイトルで、高卒就職問題は高卒就職に限った問題ではなく、国全体の課題として捉えるべきだという主旨で書きました。このことについてもう少し詳しく述べたいと思います。

 最後は、高卒就職情報WEB提供サービスを改善せよ、といういつもの結論に着地するわけですが、少しおつきあいください。

人口減少時代の雇用 イス取りゲームは終わった

 我が国の生産年齢人口の減少は極めて速いスピードで進行しています。私は1970年生まれの51歳です。私が高校生のころの同学年世代は200万人ぐらいいましたが、三十数年後の今日、今の高校生一学年は100万人を割り込もうとしています。

 単純に国内だけ考えると、現在の我が国の経済規模を維持しようとすると、これからの若者たちには一人あたり今のアラフィフ世代の2倍の生産と消費をしてもらわないといけないわけです。経済のグローバル化が進みますので、2倍とまでは行かずとも相当頑張ってもらわないといけないことは間違いありません。

 現在、私たちが立っている日本という国の社会システムは人口が増え続ける中で形成されてきたものです。雇用や労働のルールや価値観、文化もそうです。

 人口が増え続ける社会での雇用は、競争率が高いイス取りゲームに例えられます。イスの持ち主は座る人を選んだり、交代させることができた。しかし、人口減少社会ではイス取りゲームは成立しなくなります。高卒就職市場をウォッチしていると既にそういう状況が始まっていることがよく分かります。同時に、このことについての認識が広がらないと日本の人口減少社会への対応がどんどん遅れる、そんな危機感を感じます。

高卒の月給≒最低賃金×175×1.2という現実

 私は全国の高卒求人を調査分析をしています。全ての公開高卒求人の月給はだいたい当該地域の最低賃金(時給)×175時間×1.2ぐらいで、年間休日数は週休2日と同等の105日付近。

 応募があって充足したと思われる求人群と、ずっと公開継続(売れ残りと言っては失礼でしょうか)の求人群とを比較すると、月給面では大きな差はありませんが、休日数では年間5から10日程度の差が見られます。

 高卒賃金が上がっていないわけではありません。ただ、その上がりかたは最低賃金の上昇にほぼ沿っています。最低賃金は今年2021年10月から全国平均で30円上がりました。この30円に175時間(月あたり平均的な労働時間)をかけると5250円となります。案の定、9月ごろから高校にはハローワークから「求人票番号○○○○の給与の改定について」というタイトルのファックスが毎日届くようになりました。だいたいが5000円から5500円のアップの知らせです

 そういった求人票は、ほとんどの高校では生徒には紹介しないほうに仕分けいると思います。そこに5000円アップのファックスが送られてきても「最賃ギリギリの計算で給料を設定しているんだな」ということが読み取れるため、あまりいいイメージはもたないですね。

 さて、また話を元に戻します。高卒求人を調べていて私がヘンだなあと思うのは、高卒給与の上がり方が最賃の上がり方とほぼ同じで、求人倍率の影響がほとんど見えないという点です。

 下のグラフはある県の高卒初任給と最低賃金および求人倍率の推移をプロットしたものです。(当該地域の労働局のデータを使っています)

高卒初任給 最賃 求人倍率

 黄色い縦棒が高卒月給、緑の跳ね上がっている折れ線が求人倍率、赤い折れ線が最賃月給ライン(最賃×175時間)、その上の青い折れ線が最賃月給×1.2の額(最賃月給ライン2割増し)を示します。初任給の上がり方が最低賃金と見事にマッチしていますが、反対に求人倍率の急上昇とはほとんど関係がないことがわかります。

  生徒数が減り、進学率が上がり、就職希望者数も減っている。しかし求人数は倍増している。需要が跳ね上がり、人を欲しくてもなかなか採れない状態が何年も続いているのに初任給は上がっていない。つまり、高卒就職市場には需要と供給という経済の原理が機能していない。

 これまで何度も言及してきましたが、高卒賃金は全ての世代の賃金体系のベースであると同時に最低賃金算出の重要指標でもあります。高卒賃金が不自然に上がりにくいことは全ての労働者賃金上昇の足を引っ張ります。

やっぱり相場情報がないから

 需要が高いのに給料が上がりにくい。どうしてそうなのか、いろいろ考えていますが、やっぱり相場が分かる情報が求人事業者に流れていない問題に行き着きます。そのせいでイス取りゲーム時代の感覚でいる求人事業者が多いのではないかと。

 高卒求人情報は厚生労働省が所管の「高卒就職情報WEB提供サービス」から出てきます。その出所の問題は流れの先で様々な不具合を起こします。

 高卒就職問題の改善は、実は日本という国の必須課題なのです。


高卒求人待遇相場情報をホームページで提供しています。都道府県ごと、業種ごとの給与や年間休日数などの相場が分かるグラフとデータをダウンロードできます。求人事業者や学校関係の方、どうぞご利用ください。


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