「またきます!」の関係
「またきます」
イタリアンで働いているとき、よく言われた言葉だ。
仲良くなったお客さまが、会計を済ませてお店の外に出る。
ぼくは、その人の背中を追う。
「ありがとうございました」
背中にお辞儀をする。
お客さまは振り返り、「またきますね」と満面の笑みで応える。
食事とぼくの接客に満足したのだろうか。
新人の時は、その言葉がうれしかった。
自分が認められたような感覚だったからだ。
4年も働いていると、ある疑問が湧いてくる。
お店に「またくる」お客さまは、少ないのでは?
そう考えたら
「またきます」という言葉を信頼することができなかった。
「うれしさ」は消えた。
ローカル×ローカルにきて1週間が経った頃だ。
cakesで連載を持つイッテツさんのマンガを1話目から読んだ。
マンガの内容は、東京で編集者として働き、地方にネガティブな印象を持っていたイッテツさんが南伊豆へ移住するまでの話である。
特に印象的だったのは、4話の「地方を救う「またきます」の関係」である。
そこでは、「関係人口」について取り上げられている。
(cakes第4話『地方を救う「またきます」の関係』より引用)
続きは、イッテツさんのマンガを読んでほしい。
関係人口を「『またきます』の関係」と言い換えたこと。
堅苦しい言葉が、一気に身近に感じる言葉になった。
心に残った。
マンガを読んでから数日が経った。
7月が終わりかけていた。
いつも通り夜になると、ローカル×ローカルのバーカウンターに立っていた。
カウンターには、30代くらいの男女とイッテツさんが話をしている。
2人は、きっと夫婦だろう。
イッテツさんの横にスッと立つ。
話を聞いていると、奥さんがイッテツさんの知り合いである。
新宿から会いに来たのだ。
楽しそうに会話をしている3人。
その輪の中に、ぼくは入ることができなかった。
イッテツさんは、ほかのゲストに呼ばれてテーブルへと話に行った。
バーカウンターには、ぼくとその夫婦だけが残った。
夫婦は、ぼくに背中を向けてイッテツさんを見ている。
きっとまだイッテツさんとしゃべりたいのかな。
そんなことを思っていた。
「南伊豆はどうですか?」
と2人に声をかけた。
旦那さんは
「自然が豊かで、人もあったかく東京のように、せかせかしていないのが心地良いよね」
奥さんは
「だけど東京のバリバリ仕事をしている感じも好きなの」といった。
田舎と都会、どちらも良いところがあるという。
奥さんも旦那さんも、出身は地方らしい。
都会の時間に追われている自分、地方でゆっくりしている自分、
どちらの自分も好きだと2人は語る。
現在、2人は都会に住んでいるが
将来、都会に住みながら地方にも住みたいという。
旦那さんは「まさにローカル×ローカル!」と、言葉を残し2人は、部屋に行った。
つまり、都会と地方に拠点を置くことで
2拠点を行き来できるってことなんだろうか。
マンガでいうところの、「2拠点生活をする人」なのかな?
今までの僕は、都会か地方どちらかを選ばないといけないと思い込んでいた。
どちらかを選ぶ必要はないのか。
そう感じた夜だった。
次の日の朝、チェックアウトの時間がきた。
玄関前でぼくと夫婦とイッテツさんとで写真を撮る。
昨日の、都会と地方の話が自分の中で新鮮だった。
まだ聞きたいことがある、話足りない。
そう思い、ぼくは2人を誘った。
「新宿で飲みましょう!」
「新宿も良いけど、ローカル×ローカルにまたくるね」。
そうして2人は都会に戻った。
またきますの関係
あの2人と、ローカル×ローカルでもう一度会えたら
「うれしさ」は戻るだろうか。
なんの確証もないが、きっと再会するだろう。
何より、ぼくがあの2人と会いたい。
ぼくが南伊豆に「またくる」理由ができた。
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