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自由律俳句と俳句の中間点を探る(1)

 この記事では、自作の句を元に、句そのものについての考えを深めます。

 先日、このような句を作りました。

 寝聡い(ねざとい):すぐ目をさますさま
 (引用:goo辞書

 ※この記事を書くことで『寝聡』の言葉についてを改めて調べたところ、読み方は(ざとい)ではなく(ざとい)の方が主流であることが分かりました。まだまだ勉強が足りません、気づいてよかったです。とほほ。


 そんな使い慣れていない言葉を敢えて使おうと思った背景には、『自由律俳句と俳句の中間点を探ってみたい』という好奇心がありました。

 私は普段Twitterで自由律俳句をよくつぶやいていますが、実は俳句もひっそりと作っています。関屋 ( @sportypoppa) さんが主催されている夏雲システムを使ったWeb句会にてぽつぽつと自句を投稿し、たまに祖母からも句の感想をもらっています。割合でいうと自由律俳句:俳句=3:1といったところです。少しずつですが、俳句を詠むことにも慣れてきました。

 自由律俳句を自由律俳句たらしめているもの、俳句を俳句たらしめているものとは何ぞや。自分で句を試行錯誤して詠んだり、他の方の句を拝読していると、ふとそんなことを考えます。自由律俳句として作っていたけれども、ふと気づけば五七五のリズムで、季語のある句が出来たり。反対に、俳句として作ったけれども、大きく字余りしていて見た目が自由律俳句であったり。次第にそういう「完全にそのカテゴリに当てはまらない句」や「どちらも包括している句」に惹かれるようになりました。

 『自由律俳句と俳句の中間点を探る』と言うのは、境界線をきっちり線引きすることが目的ではありません。「完全にそのカテゴリに当てはまらない句」や「どちらも包括している句」を中間の句として掬い上げ、スポットライトを当ててみたいのです。

中間の句を知るために

 手始めに、私の考える中間句とはどのようなものか知るために、ある一つの情景で、『散文』、『自由律俳句』、『俳句』、そして『自由律俳句と俳句の中間句』の4つを作ってみます。

 今回題材として選んだのはこの情景です。

2020年6月3日 曇り
 
早い時間から布団に入り寝ようとしたが、なかなか寝付けない。何度目を覚ましただろう。カーテンの隙間からは青白い光がこぼれている。スマホで時刻を確認し、午前5時36分であることを知る。もう朝だ。カーテンを少し開け、窓の外を見る。空一面を低く覆っているのはたっぷりと雨を含んでいそうな灰色の雲。今すぐにでも降り出しそうだ。でもまだ梅雨入りはしていないと気象予報で言っていたっけ。もう6月だけど、いつ梅雨入りするのだろう。カーテンを閉めようとした時、烏の鳴き声が聞こえた。外の電柱に目を遣ると、真っ黒な烏が2、3羽止まっていた。烏は知らない。私が眠れないまま朝を迎えたことを。でも烏はきっと知っている。まだ梅雨が来ていないことを。

 誰かに話すほどの内容でもなく、無理やり会話にするとしても「昨日全然眠れなかったんですよ」で終わらせてしまう情景。でも、こういう心の動きは句として残しておくのにぴったりです。

 ここから、特に残しておきたいワードを抜き出し、簡単な散文(定型や韻律を持たない普通の文章)を作ります。

眠れなかった。烏が鳴いていた。

 この散文を元に次に俳句を作ってみます(ここからは私流の作句方法となりますことをご了承ください)。

 季語の入った五七五(十七音)に整えるために、まずは言いたいことの中に季語が既に入っているかどうかを調べます。「眠れなかった。烏が鳴いていた。」の中で季語かどうか怪しいのは『烏』。調べてみると『烏』単体では季語ではないことが分かりました。

 カラスは年中いる鳥なのでそれだけでは季語にならないのですが、季節を感じさせる言葉と合わせて、いくつかの季語として存在しています。 またカラスは「烏」と表記するのが一般的ですが、俳句の世界では「鴉」の語を用いています。
 例えば春は「鴉の巣」、夏は「鴉の子」、冬は「寒烏」、新年は「初鴉」といった具合です。        

引用:まつだ松林堂

 漢字は『鴉』を使うとのことなので、「眠れなかった。鴉が鳴いていた。」に書きかえます。

 引用によると『鴉の子』にすれば夏の季語になるとのことですが、今回はこれを使わず、情景の中から季語を探すことにしました。

 でもまだ梅雨入りはしていないと気象予報で言っていたっけ。もう6月だけど、いつ梅雨入りするのだろう

 先ほどの文章の中に、梅雨入りを気にする一文がありました。梅雨入りは季語として存在します。

入梅 にゅうばい/にふばい
仲夏
梅雨の入り/梅雨に入る/梅雨入/梅雨始まる/梅雨めく
 
梅雨に入ること。古い暦によれば立春から百二十七日目の六月十一日頃にあたる。以後三十日間ほどが梅雨である。気象庁により 梅雨入り宣言が出される。湿度と共に温度が上がり不快感を覚える。

(引用:きごさい歳時記

 『眠れなかった。鴉が鳴いていた』に、『梅雨入り』の季語。これらの材料をつかって五七五(十七音)に整えます。この時私は、切り取った情景になるべく近づけるように意識はしますが、情景と少し異なっているけれども自分の中で気に入った表現を作句中に見つけた場合、それはそのままにしています。つまり句の中に少しばかり非現実が混ざっていてもよいかなと私は考えています。
 材料を全部使って一旦五七五に当てはめ、その句を検証して、自分の納得のゆく表現に言い換える。またその句を検証して、言い換える、ということを繰り返します。

 今回の場合だと、私の頭の中はこんな様子でした。

眠れずに梅雨入り鴉が鳴いていた
 「鴉が鳴いていた」が少し説明的になっている気がする・・・別の表現にしてみよう。
 ↓
眠れずに梅雨入り鴉の遠い声
 「眠れずに梅雨入り」となっているけれども、まだ梅雨入りしていないなあ。どちらかというと梅雨を待っている気がする。『待つ』をいれてみようかな。
 ↓
眠れずに梅雨入りを待つ鴉の遠い声
 五七九になってしまった。『遠い』を省いても五七六だ。そもそも「眠れずに」よりも、もっとぴったりの表現はないものか・・・色々調べると「寝聡い」という表現があるようだ。こちらの方がぴったりかもしれない。上五で「寝聡しや」として一旦切ってみよう。
 ↓
寝聡しや梅雨入りを待つ鴉の声
 上五はこれで良い気がする。次に気になるのは中七。「入りを待つ」となっているけど、動詞が近づきすぎていてごちゃごちゃしている気がするな。季語を見直そう。「梅雨入り」ではなく「入梅」にしてみたらどうだろう。
 ↓
寝聡しや入梅を待つ鴉の声
 中七も良い気がする。最後に下五。五文字に収めたい。『鴉声』はどうだろう。むりやり助詞を抜いてしまって変だ。もういっそ『声』を省略してみてはどうだろう。情景で印象に残っていたのは、声の他だと烏の色。はっきりとした黒い色だった。造語になってしまうけれど、『黒鴉』にして敢えて強調してみようか。
 ↓
寝聡しや入梅を待つ黒鴉
 今はこれ以上良い表現が思いつかないので、これで完成としよう。

 6回ほど推敲してようやく「寝聡しや入梅を待つ黒鴉」にたどり着きました(今から思うと、もっとシンプルに「寝聡しや入梅を待ち鴉鳴く」で良かったなと思いましたが、つぶやき直しはしないことにします)。

 ここまでで、同じ一つの情景から、散文と俳句が出来上がりました。

 散文:眠れなかった。烏が鳴いていた。
 俳句:寝聡しや入梅を待つ黒鴉

 今度は同じ情景からさらに自由律俳句を作ってみます。かなり長くなってしまったので、続きは次の記事にて。




   

 





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