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Concierge Story [54歳で東京のスタートアップに就職できたことは、奇跡に近い。]<前編>


その日も、私はいつものようにキッチンで夕食の支度をしながら、NHKの夕方の情報番組「シブ5時」をつけていた。見るともなく、聞くともなく。
すると、

「仕事と子育て、仕事と介護。
 その両立に悩んでいらっしゃる方、必見です。」

力を込めるキャスターの声が耳に入ってきた。

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「職場にコンシェルジュ!」
折しも、翌年2019年4月から働き方改革が実施されようとしていて、
2018年の後半は「働き方」について世間の注目が集まっていた。
(ふ〜ん・・何をするんだろう)
包丁を握る手を止めて、テレビへ向かう。そこから5分、画面を見続けた。

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東京の会社が、最新の福利厚生を取り入れた。
福利厚生の充実は、今や新入社員が会社選びの際に最も気にしているポイントだとか。
そこで、母親の介護をしながら多忙な仕事をこなす女性が登場。

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介護のために仕事を辞めようと思ったこともあったとか。

私は、40才からずっと同居していた義父母を介護してきた経験があるので
この女性の言っていることが、よく理解できた。

(デイサービスの送り迎えとかケアマネや施設の職員との担当者会議とか、微熱が出たから帰宅させますとか。平日も忙しいからな〜。分かる・・)

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そこで、女性は職場に週3日来ているコンシェルジュに相談。

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訪問美容、頼みたいけど、どうしたらいいか。

(え?それ、自分で探したりしなくていいんだ・・)

数日後。コンシェルジュが手配した訪問理美容が日曜日に自宅にやってきて

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(・・・!!これ、もし私がコンシェルジュなら、ご自宅を聞いて、訪問理美容サービスをしているお店を探して日曜に来られるかを確認してお客さんに教えて、よければお店に手配する・・・すぐできる。)

頼んだ女性は、すごく満足そう。
従来の会社の福利厚生制度だったら、こんな相談はできなかったとか。

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そう。介護の悩みや愚痴は、友達に共有しようと思ってもできないことは、よく分かる。
介護は、経験した人でないと分からない世界だから。
関係ない人には介護なんて、制度も用語も知らないことだらけ。

「デイサービスやショートへ行くときに、お薬を全部一包化しなきゃならなくて、それを薬局に頼むと時間がかかって待ち時間長いのよ〜。」

なんてことを友達に愚痴ってみたとしても「?」である。
介護の苛立ちやストレスを第3者が親身に聞いてくれて、
励ましてくれて、楽になった経験が私にはあるので、
「全然違う価値がある」とテレビの中の女性が言ったフレーズが
心に響いた。

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この頃、私は仕事探しで疲れていた。

54歳。パート勤務で介護老人保健施設の医事課に勤務していたが、
これから先の長い老後を考えた時、
家族の事情でもっと収入を望まざるを得ない状況の今、
もう一度20代の頃のように東京でガッツリ働いてもいいんじゃないか。
家から近いところで日中だけ短時間のパートをすることを
考え直してもいいんじゃないか。
そう考え始めていた。
それを阻む理由が50を過ぎた今どこにもない。
子育ては終わった。10年越しの介護も終わった。
(最後に残った認知症の義母も他界)

けれど、中高年にとって採用は壁は高い。

書類選考で、即落ちる。
最新式の高難度適性検査で落ちる。
(限られた時間で素早く四則計算や展開図や読解問題を解くなんて!
 モタつく私を見て娘に「こりゃダメだ」と呆れられ、完全に凹む。)

大学卒業後、バブル絶頂期を新入社員として過ごした30年前。
私はラジオCM制作会社のコピーライターだった。

J-WAVE開局とともに、仕事は急増。
クライアントの大半は、当時築地に本社があった日本一の広告代理店。
毎日何十本もコピーを書きまくり、
スタジオでディレクター業務にも挑戦させてもらい、
広告業界にどっぷり5年。

結婚して子どもができて。当時は当たり前のように退職して。
その後2年は同じ会社の仕事を外注で受ける在宅コピーライターをし、
それから幼い娘への読み聞かせに熱中。
もっと深く学びたくなり、通信で図書館司書の国家資格を取って
図書館や公立学校の学校司書として勤務を数年。
介護と子育てをしながらの併走だった。

パートもいろいろ経験した。
レストラン、カフェ、ガラス美術館、古美術店、保育園、介護施設。

地域での活動も引き受けた。
娘が通うシュタイナー幼稚園の母の会、小学校PTAの役員に、
自主的な読み聞かせの「お話し会」活動。
ボランティアで小児病棟にも行った。

そんな私の、退職してから25年余りの半生を、
人事は「キャリア」として見てくれない。

50代をすぐに採用する職種は決まっている。
コンビニ店員、土休日祝日勤務のサービス業。
歯医者助手か歯科医受付。(なぜかやたらに多い求人!年齢不問)
そして、介護施設のドライバーか資格の要らない臨時介護職員に、
保育園の時間外スタッフ。

20代の頃のキャリアを活かし、
東京でコピーライター時代と同じようにフルタイムで働いて、
もう一度仕事でどんどん自分が進化していく喜び、
刺激溢れる楽しさ、働きに見合う給料と、
したいことが自分のお金でできる、その自由を手に入れたい。
一度きりの人生だ。
私の経験とスキルと才能をフルに動かして
誰かの、社会の役に立ってみたい!

採用試験に落ちて落ちて落ちまくって、
あ〜あ、希望はやっぱり私の妄想だったのかも・・と
諦めかけていた、まさにその時。
NHKの「シブ5時」が降臨した。
TPOという会社を知り、
「コーポレート・コンシェルジュ」なるものの存在を知った。

すぐに、「TPO」をスマホでググる。
いくつものタスクを常に同時にこなしてきた主婦人生、
「善は急げ」を知っている。行動は素早い。
料理をしながら公式HPの「問い合わせ」からメールを打った。
2018年、もうすぐ冬の足音が聞こえ始める頃だった。

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そこから、年末に「お題のレポート」提出1回。
面接3回。
初めて、私の経験を、年齢を「キャリア」として認めてくれて
必要としてくれる人たちに出会った。
2月18日入社。
私の新たな人生の幕が開いた。

(文:コーポレートコンシェルジュ田中水美)

後編に続く。


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