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『ザ・会社改造』組織改造の理想と現実

プロ経営者である三枝匡による、ミスミでの成功体験を描いた小説『ザ・会社改造』についての感想をまとめる。

『ザ・会社改造』 三枝匡 著

前回の記事では舞台となるミスミと、いくつかのキーワードについてをまとめた。今回は僕自身が学んだ経営フレームワークと本書内で描かれている内容のすり合わせを行う。

復習:Greatな組織になるために必要なもの

僕自身は経営者になったこともなければ、それに近い体験をしたこともない。そのため組織運営については素人であることは自覚している。

自分自身の経験からフレームワークを生み出すことができないので、これまでに読んできた本の中で最も感銘を受けた経営論を持論としている。それが『Good to Great』(邦題:ビジョナリー・カンパニー②飛躍の法則)だ。

『Good to Great』によると、Greatな会社になるための条件として以下の3つが挙げられている。

①規律のとれた「正しい」人を配置すること
②核となる価値観を共有すること
③愚直に実行し続けること

これをもとに本書の内容に触れていく。

①会社改造の人材

『Good to Great』の著者Jim Colinsの研究によると、Greatな組織を目指すうえで必要となるのは滅私の覚悟を持ったリーダーと自律した社員たち。リーダーは生え抜きの経営者が推奨されている。生え抜きのリーダーは、既存の企業文化やリソースを知り尽くしている。つまり「地の利」があるといえる。

Greatなリーダーは「何を」するかよりも「誰と」するかを先に決める。いわゆる「誰バス理論」だ。自律したメンバーは自ら議論を重ねて方向を決めることができる。リーダーはそのガイド役に徹し、ボトムアップでの改革を促す。

一方で『ザ・会社改造』の主人公である三枝は、ミスミ再生のために外部から現れた「プロ経営者」。《切断力》を発揮して業務改革に切り込んでいきトップダウンの改革を進めた。

ここにColinsの研究結果による「理想」と会社改造の「現実」の乖離があるように思う。生え抜きの中に優れたリーダーが存在しメンバーの自律性が高ければ、そもそも経営者を招聘する必要も会社改造もする必要がない。「プロ経営者」が必要なのは自然治癒では回復が見込めず、緊急手術を要する場合であると考えれば納得がいく。

②会社改造時における価値観の見直し

三枝自身は数多くの組織改造を成し遂げ、多くのフレームワークを既に持っていた。

しかし彼は組織改造プロジェクトメンバーに対して「答え」を与えることを極力避けた。可能な限りメンバー自身に「考えさせる」ことを選んだのだ。

「ミスミの強さとは何か?」

「なぜお客様はミスミから買ってくれるのか?」

そうした基礎的な疑問を繰り返し投げかけることで、プロジェクトメンバーたちの考える力を出させようとした。このようなやり方の有効性は『Good to Great』でも触れられている。

逆にリーダーが答えを出してしまうと、リーダーが不在になれば改革前に戻ってしまう恐れがある。カリスマリーダーや外部コンサルに依存した時に陥りがちな失敗だ。三枝自身がそれをよく理解していたからこその判断だったのだろう。

結果としてメンバーたちがミスミQCTモデルの強みに気づき、改革のための事業立案に進んでいく。

③会社改造時の実行

本書では「業務プロセス」「ビジネスプロセス」という言葉も頻繁に登場する。戦略をオペレーションにまで落とし込むためには、既存業務プロセスを図示してシンプルに見つめなおす必要があった。そして、現状と理想を洗い出すことで、やるべきことが見えてくるようになる。

ここは非常に泥臭い部分であり、気が滅入るような気概が必要な作業だ。だからこそ愚直な実行が必要だし、本書でもそれが描かれている。ミスミにおけるカスタマー・センターのオペレーション改革などはまさにその代表例だろう。(これについてまとめた章は特に印象に残ったので、別記事にしてまとめたい。)

ただし特に伝統と歴史ある企業において、愚直な実行を妨げる要因が存在する。それが「抵抗勢力」の存在だ。

既存の成功体験に固執し、「これまでのやり方が優れている」「そんな改善には意味がない」と主張する勢力だ。本書のなかでは「野党」と表現されている。

三枝はこうした場面において改革をすすめるために「トップダウン」の重要性を説いている。批判を繰り返し、一方で責任を取らない「野党」を抑え込むためには、力量あるリーダーが必要なのだという。

力量あるリーダーは毅然とした態度を貫き、人々と向き合い、正論を貫く。迫力と真剣さを持ち、覚悟をもって《切断力》を発揮する。抵抗勢力を払拭するためには、確かにそうするしかないのかもしれない。

まとめ

『ザ・会社改造』と『Good to Great』。この両者で説明されている内容に、思いのほか共通点が多かったことに驚いた。これは僕が信じるJim Colinsの教えが現場でも使われている証であると感じた。

一方で、すべてが理想通りにいかないということも覚悟しなければならないと思った。特に伝統ある大企業では過去の成功体験にすがる「抵抗勢力」に必ずと言ってよいほど出会うことになるだろう。その時に毅然とした態度で《切断力》を発揮すること。同時に、人々と向き合いながら論理を説くこと。その際にはボトムアップではなく、トップダウン型で改革を主導する必要があることを心得ておかないといけないと思った。

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