ファームノートグループとして牧場経営に取り組むワケ〜生産者というポジショニング〜②UXを牛飼い人生として理解する
さてさて、今回は前回に引き続きファームノート(以下、FN)が自ら酪農生産を行う二つ目の理由について書いていきます。
それは、「生産者や業界が抱える課題の根本を理解・体験できていないから、自ら酪農経営をやってそれを骨の髄まで味わい尽くして、より良い製品とサービスにつなげるため」です。
(以上です。あとは、長い説明が続きます。)
それができることこそが、生産者により良いプロダクト、より良いサービスを通じて真の価値を提供することにつながると考えているからです。
ただし、FNの顧客は「牛を飼って生計を立てている個人事業主や企業」です。
みなさん、牛を飼ったことあります?ないですよね。普通は。
FNだけでなく、牛業界の生産者を支える「業界関係者」と呼ばれる人たちも同じです。
基本的には、
自分では牛を飼ったことはないけど、学術的な知識・経験や生産者の方との付き合いの中で得た情報を元に「こうすれば生産者の方に喜んで貰えるかな」という仮説を元に製品やサービスを提供しているわけです。(もちろん自社牧場を持っている関係企業もありますよ。)
この業界は歴史のある団体や会社が多いので、時間をかけてノウハウを蓄積し製品/サービスの価値を高め、生産者の発展に貢献してきています。素晴らしい!
しかし!牛を飼うという営みを生産者と同じレベルで経験することは、普通はとっても困難です。
生産者の方が「牛を飼う」という日々の生業のなかで、
どんな経験をし、
その時に何を思い、
その積み重ねの結果としてどのような経営になるのか、
を本当に理解することはできないのです。(牛を飼うという仕事についての個人的な考えは別記事にします。奥の深い仕事です。)
その結果、機能やスペックがめちゃくちゃ優れていても、痒いところに手が届かない製品になったり、表面的な課題解決にとどまるサービスを提供したり、といったピントがズレた製品/サービスを提供することになっちゃいます。
1. FNはUXをデザインする企業
FNはFarmnoteというクラウド型牛群管理ソフトウェアをSaas提供するIT企業です。
そして、ソフトウェア開発において重要な概念としてユーザー体験(User Experience:以下UX)という考え方があります。
そして、FNはそのUXをデザインすることに注力しています。
「UXをデザインする」ことについてざっくりいうと、
とある個人や組織について、その日常にあるお金を払ってでも解決したい顕在化した/潜在的な課題を特定し、
その課題の解決策を考え、
その解決策を製品/サービスにするとどんなものになるかを考え、
その製品/サービスを利用する前の「体験」
利用している最中の「体験」
利用し終わった後の「体験」
継続して利用したときの「体験」
と言った「体験」を設計することです。
優れた製品やサービスは機能的に優れているだけではなく、その機能によって実現されるUXが優れています。
例えば、AmazonはUXを追求している企業の代表格です。
Amazonは消費体験の向上のための要素として、「豊富な品揃え」「低価格」「迅速な配達」を掲げています。小売としては至ってシンプル。
ただし、Amazonが提供する消費体験における、これら3つの要素は圧倒的です。
数億点という豊富な品揃え
その時の最安業者から仕入れることによる低価格
Primeでの即日発送・翌日配達
これによって、探していたものが確実に見つかり、安く買えて、次の日には手元に来るという、消費体験として最高の体験をすることができます。
一度利用するともう他のサービス利用では物足りなくなります。
この素晴らしいサービスを構築できる根本的な理由は、「Amazon自らが顧客体験をすることができる」からじゃないでしょうか。
店頭に足を運んでも欲しい商品が欠品していて、どの店が最安かわからず、取り寄せると1週間かかると言われる、、、という消費体験における「お困りごと」を実際に経験することができます。感情とセットで。
しかも、ほとんどの人は子供の頃にお小遣いを握り締めて駄菓子を買いにいった時から何十年と様々なバリエーションの消費経験をし尽くしてきています。「もっとアレがこうなればいいのに!」というご意見の一つや二つ、誰でも語れると思います。(だからと言って誰でもAmazonになれるわけじゃないですが。)
2. でも牛を飼ったことないよね
でも、「牛を飼う」経験って、生まれてこのかた一度たりともしたことがない人の方が大多数です。FNのメンバーもそうです。
その場合、生産者さんにどれだけ丁寧にインタビューしようと、1週間やそこら牧場研修しようと、ちょっとやそっとでそのお困りごとを理解して、生産者さんと同じ視点では自分ごととして語れるようにはなりません。
その結果、「あー、惜しい!」という製品/サービスの提供につながりやすくなります。機能が良かったとしても、あー、惜しい!
じゃあ、牛飼になって同じ視点を手に入れよう!というワケです。
3. 牛を飼うことを「人生レベル」で理解する
現在のところ、実際に牧場事業を担当しているのは(株)ファームノートデーリィプラットフォーム(以下、FDP)という会社のメンバーだけなので、「牛飼視点」を製品/サービスに反映するところまでは、もう少し時間がかかりそうです。
それでも、FDPで牧場運営をする中で得た気づきはめちゃくちゃ深く、たくさんあります。
端的にいうと、牛を飼うということは「仕事」というだけではなく「生活」そのものだということに気づきました。
近年、「ワーク・ライフバランスの実現!」が謳われており、仕事とプライベート、オンとオフの区別の重要性について語られています。
しかし、現状、ほとんどの牛飼いにとって、牛を飼うことは仕事であり、かつ、生活そのものなんです。というか、人生そのものです。
つまり、「牛飼いを生業としている生産者に優れたUXを提供するために酪農経営を骨の髄まで味わい尽くす」ということは表面的な作業や仕事を理解するということだけでは全然不十分で、その生活や、果てはその人生まで理解・経験・体現できるようになることとイコールだということです。(いやぁ、この業界でプライベートまでズブズブのどぶ板が今も有効な理由の本質もここにありそうな気がします。)
普通そこまで理解するのは無理っす。他人の人生までは。(牛飼い=人生ということも別記事に。)
でも、FNひいてはFDPはそこまでやるんです。
牛を飼う人生の中で価値を提供できる製品/サービスとは何か?それの問いに答えることが、牧場経営をやる理由です。果てしない。
以上、おわり!
次回は、FDPが牧場事業を通じて解決していきたいことについて書きます。
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