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ゲーム機の恐怖

これだけは言わせてくれ。ゲーム機だってよ、やるときゃやるんだよ。

ムズムズ


埃っぽい場所



おいおいおい!誰かいねぇのか?おーい、聞こえているか?

こんな暗いところに閉じ込めやがって。

鼻のあたりがムズムズするぜ。ふざけんなよ。

だいたい俺が何したっつんだよ。


ぶへぇ…何でぇいここは。ほこりっぽいぜ。

弦すら張ってねぇネックの反ったギターに、これは…カビくせぇアルバム。捨てとけよったく。


ん?なんだよ。今日も誰も遊んでくれねぇのかぃ?良くないねぇ。良くない良くない。俺はゲーム機だぞ?え?電源点けてくれよぉぉぉ。いやぁ、寒くてかなわねぇ。


誰かいねぇのか?おーい。

か、勝手にリセットボタンを押すなってんだ、この野郎!誰だ!?

んだよ、アルバムかよ。お前はあれだな。いつもカビくせぇな。寄りかかってくんなよ。


あぁあん?なんだよこれ。

え?懐かしいね、これは。裕哉ひろやじゃねぇかよ。あぁぁ、いいね。この笑顔。懐かしいな。

おいおい、もうちょっと見せてくれよ?寄りかかって良いから。な?頼むよ。
あぁぁ、いいねぇ、懐かしいよ、この笑顔。あいつはよ、いつも真剣に俺を見てくれんだよ。そりゃよ、イライラしている時もあったよ?だけど、真剣に俺と向き合ってくれてたんだ。

すとりーとふぁいたー?だっけか?なんで街路戦士ストリートファイターなんだろうな。まぁいいや、それをやってる時に相手に負けたらよ、コントローラーぶん投げてたな。あはは。スパーンってな。あはは。コントローラーの野郎、死んだふりしてよ。んで、裕哉が壊れちゃったから直すとか言って中身バラバラにされたら、コントローラーの野郎くすぐったくて起きちゃって。ゲーム再開。んで結局、またぶん投げられてやがんの。世話ねぇよなったく。


良かったなぁ、あの頃は。裕哉、笑顔だった。
ただいまって帰ってきたら、真っ先に俺んとこきてよ。撫でてくれる。んで、ニコニコしながらソフトって言われる薄っぺらいやつ入れてよ。この電源ボタンをコツンって押すんだ。
今じゃ点くかどうかも分かんねぇ、このランプが燃えるように赤く染まってよ。
な。

あいつは俺を笑顔で見てくれんだ。あの顔は忘れれねぇな。

いつからだろうな。

あいつ学校ってやつ行かなくなって。

最初は俺と遊んでてくれたんだけどよ。ある日、あいつの親がいきなり俺の背中の線をブチブチって引っこ抜いて。ほら、見えるだろ?あの色のついた線だよ。
あいつ、俺のほうチラってみて。悲しそうな顔してた。

あんな顔、見たことねぇよ。

俺の前ではあんな一度も顔したことねぇんだよ。

裕哉のあんな悲しい顔、見たことねぇよ。

んでよ、もう、俺は見られなかったんだよ。チクショー。

あ?違う違う。電源コードも引っこ抜かれたからな。見たくても見れねぇんだよ!ったく。気付けよ、お前はよ。アホだな。ったく。


んで、気づいたらここにいるっつぅわけ。ここで何日も何日もお前にリセットボタンをツンツンされてるっつぅわけ。触んなって。だから。


裕哉の好きなゲーム


ある日よ、今日はなんのゲームすんのかねぇって言ってたらよ、コントローラーの野郎が言うんだよ、俺に。
「やぃ、本体!お前は良いよ。優しく触られてよ。代わってみろってんだ。こっちはグリグリ回され連打され。挙句の果てには投げられてよ。たまったもんじゃねぇよ。やぃ、本体!聞いてんのか!」って。
俺は言ってやったよ。
「うるせぇ!こっちだって、お前の訳わかんない△だ〇だの信号をCPUだかDQNだか知らねぇけど、そいつらに伝えなきゃいけねぇんだよ。頭固ぇんだよ、あいつらは」
そしたらよ。コントローラーの野郎、言い返してきやがった。
「それがお前の仕事だろ!」ってな。俺もよ、接続端子(頭)にきたから言い返してやったよ。「連打されんのもお前の仕事だろ!」ってよ。あはは。もうおかしくってよ。

そしたらよぉCPUが言うんだよ。

「まぁまぁ、そんなに熱くなりなさるな」ってよ。

おぃおぃおぃ。お前が一番熱くなんだよ!!!って思わず俺がコントローラーぶん投げてやろうかと思ったよ。あはは。


コントローラーの野郎はそれでも裕哉と遊べるのが嬉しいって言ってたよ。
特に裕哉がRPG(アールピージー/ドラクエとかFFとか)やる時とかSLG(シミュレーション/シムシティとか信長の野望とか)の時とかはよ、そりゃあ真剣な顔するんだってよ。宿題の時より真剣な顔すんだってよ。

すげぇ考えてな、考えて考えて考えてボタンをヒョイと押すって言ってたな。んで上手くいったら喜んで、失敗した時は考え込んで。たまに電卓っつうの?それで計算しながらゲームしてやがんだよ。あいつは利口になるよ。うん。

すとりーとふぁいたーってやつより、信長の野望とかそういうのが好きみてぇだな、裕哉は。でもよ、信長の野望はソフトを読み取るのが大変でよ。あはは。CPUだっけか?あいつ熱くなりながら仕事してたよ。あはは。

裕哉が信長の野望好きって誰も知らねぇだろうな。自分で考えて、自分で歴史調べて、自分の国作ってよ。ほら、小学生の頃はシムシテー?シチーだかなんだかで家建ててただろ。ああ?家じゃねぇ?町?そんなん知らねぇよ。どっちも一緒だろ。るせぇな。それで町とか、あとほら、遊園地とか作ってただろ?あの時もワクワクしながら作ってやがったな。

あの顔、嬉しかったな。

俺も必死に裕哉を笑顔にしてやろうって。な。

懐かしいよ。


なぁ、ギター。ギターさんよぉ。聞いてんのかい?え?

おめぇは弦がなかったら無口な野郎だなったく。
弦張ってた頃はジャーンとかギャーとか騒いでたのによ。喋ると都会ぶりやがってよ。「騒がしくして申し訳ありません」ってな。あはは。

年寄りの集まりだなここは。あはは。俺もか…


あの顔、もういっぺん見せてくれねぇかな。


不登校


涙の理由



中学ん時だったかなぁ、裕哉が。おぃ、アルバム?覚えてるか?
見せてくれ。おぅそうだよ、そうそうそう!その頃の顔だよ。良い顔してやがんな、やっぱり。

お前は良いな。写真があるからいつでも思い出せる。俺なんかあれだよ?記憶力ねぇからすぐ忘れちまう。秘書メモリーカード頼みだよったく、こっちはよ。

それまで普通に楽しそうに学校に行ってたんだけどよ。そうそう、友達とか連れてきて俺と遊んだもんよ。

だけどよ、ある日よ、中学時分。学校から帰ってくるってぇと急に布団に入って出てこねぇ。そしたら泣いてやがんだよ。”雨は天から、涙は目から”って言うけどよ。あんなに静かに泣けるもんなんだな。

俺はなんか廃熱パネルがよ(下っ腹)がキューってなっちまって。こっちもどうして良いか分からねんだよ。

よぉーく耳を澄まして聞いたらよ。裕哉が「分かんないよ」「分かんないよ」って。よっぽど理不尽な目に遭ったのかね。こっちもてんで分かんねぇから、やっぱり声かけれなくてよ。

そしたら母親が入ってきて言うんだ。どした?って。

裕哉の野郎、なんも言わねぇ。

母親がまた言うんだ。泣いてんのかい?って。

裕哉は、泣いてねぇって。眠いだけって。

そうかいって母親は部屋から出てっちまった。俺はそれをただ見てるだけだった。今思うとよ、一言伝えれたらなって思うよ。しっかり看てくれって。


不登校


その後からよ、学校に行かなくなったの。そりゃあ、たまによ父親がガーってやってきて無理矢理連れて行ってたけどよ。多分、裕哉、学校に行くフリしてすぐ帰ってきてたな。
あああ、俺は分かんだよ。匂いで!学校の匂いがすぐに分かんだよ!なんで?って聞くなよ、バカ野郎。だからお前はいつまでも過去にすがってんだよ。
なんだよ、そりゃ仕方ねぇだろ、俺だってソフト次第なんだからよ!あああ悪かったよ、言い過ぎたよ。俺が悪かったよ。なぁアルバムすまねぇって。言い過ぎたよ。痛ぇとこついてきやがんなったく。

お前と話してると、話が前に進まねぇよ、もう。

んでよ、ある日学校行くフリして出てったけど、ちょいとしたら誰もいない家に帰ってきてよ。あらあら、今日もまた泣いちまうのかぃと思ったら、その日はよ、久しぶりに俺んとこにきてよ。嬉しかったなぁ、あれは。えぇ?嬉しい。あぁ、嬉しい。またあの笑顔見れるんだよ、俺はよ!

なにやるか楽しみに口開けて(ディスクトレー)待ってたらよ。なんにも入ってこない。うっすら目を開けてチラっと見たら、裕哉の野郎、ボーッとしててよ、なんにも写ってないTV画面観てんだよ。

おーい、早く入れてくれ!

おぃ、無反応だよ。早く始めてくれよぉってもんだよ。

そしたらそのまま、ごろーんって布団に入っちまったよ。
俺はどうしようもねぇからよ、それでも口開けて待ってた。うん、待ってた。

学校で何があったのか分かんねぇけどよ、よっぽどひでぇ目にあったに違いないね。泣いてるかどうかは聞き取れなかったけどよ。

そっからよ、家にいるのはよ。


消える


まぁ、それでも良いかってなもんでよ。俺も必死にアピールして遊んだんだよ。RPGだっけか?そうそれ!たまにそのソフトを入れて遊んでたよ。

裕哉のやつも小学生ん時とはえらい違うな。迷いがなくなるっていうのか、バシってやること決めてよ。冒険をするんだよ。あれが勇者様ってやつかね。俺ぁ、あんなに志高くねぇから分かんねぇけどよ。勇者様ってそういうもんなんだろうな。

どんどんうまくなって、勇者も成長するんだよ。裕哉だって成長するんだよなって思ってチラっと裕哉の奴を見たらよ。

な。

あの時の笑顔じゃねぇんだよ。

な?

ボーッとしてやがる。
なんでぇ、チクショー。そいでよ、ちょっと意地悪してやろうって”読み取れません”ってしたら電源ボタン押してどっか行きやがった。

昔だったらよ、困った顔してよ、俺の体(本体)触って拭いたり、背中撫でたりしてくれたけどよ。そん時ゃ叩くように電源ボタンを押してどっか行きやがった。

悲しかったね。

なに、叩かれたのが悲しいわけじゃねぇよ。俺ぁ、そんなヤワじゃねぇんだよ。見ろこの鍛えられたサイドパネルを!な?違うんだよ。違うんだよ。

あの頃の笑顔が消えてんだよ。それが一番こたえたね。

あの頃の顔、見せてくれねぇんだよ。

あぁ、そうだよ、一番悲しかったね。


巨人チチオヤー


笑顔にするためには



そんなんでも週に2,3回は遊んでくれてよ。少しずつだけど笑顔っつぅか、真剣な顔っつぅか表情が出てきてよ。分かんのか、お前に。表情ねぇくせにってうるせぇよったくよ。いちいち茶々入れてくんな。だからカビくせぇんだよ、お前はよ。

まぁ、聞けよ。



分かんだよ。裕哉が少しずつ自分の世界っつぅか、自分の感覚を取り戻してんのかなって。あいつ0から1を作るのも好きだろ?多分よ自分の心を上手に鎧う方法が見えてきたんだよ。そう、見えてきたんだよ。

あいつが頭で描いた理想を、ゲームの中で作る。そいでよ、それをさらに発展させんだよ。すげぇんだよ、あいつはよ。


ほら覚えてるかぃ?あいつの作った町をよ。

あいつ、自分の家(市長)の周りだけ公園作りやがってな。あはは。詳しくねぇから分かんねぇけど、”チカ”ってやつが上がって住民が引っ越してくるんだってよ。面白いよな。人口が増えたら税収が上がるからって難しいこと言ってた。

俺にはサッパリ分かんねぇ。分かんねぇけど、嬉しかったね。それで裕哉が笑顔になんだからな。おぅ。俺は市長だとか竜騎士とかよく分かんねぇけど、裕哉が笑顔になるんだったら何でも読み取る(受け入れる)覚悟ができたね。

そいでよ、人間様ってのはエガオになるために気分転換が大事だっとか言うけどよ、なかなか上手くいかない時あるだろ?嫌なことばっかり思い出しちゃったりよ。
そういう時は俺みたいなやつが役に立つわけよ。

自分の世界に没入出来てよ。

限度っちゅーもんはあるかも知れねぇけどよ。

多分だけどよ、気分が滅入るってときはよ、やっぱり現実世界で自分の世界が壊れてんのよ。

だからそれを繋ぎとめなきゃいけねぇの。

俺たちはそれができんだよ。
お前もそうだろ?たまにかも知れないけどよ、みんながお前を見て笑顔になるだよ。そりゃよ、泣くときもあるかも知れないけどよ、幸せにできるんだよ。笑顔にできるんだよ、俺たちは。

な。

な。


出現


あれからどれだけ経ったかなぁ。

その日も勇者様やってたんだよ。そしたらチチオヤーってデカい奴が急に入ってきて裕哉に何か言ってんだよ。
俺?俺は読み取ってる最中だからなんもできやしねぇよ。

そのチチオヤーが俺のところにドスドス歩いてくるんだよ。
バスク大佐かクッパだね、あの顔は。体型は魔人ブウだけどよ。あはは。

そしたらチチオヤーが俺を掴んでブンブン振り回してよ。

そいで、プツンよ。


真っ暗。


あれーってな。


最後に見たのが、裕哉の悲しそうな顔。

そんで気付いたら、ここにいるんだよ。
裕哉の野郎、元気にしてるかな。
それが心配でならねぇよ。


効果


ところでよ?俺を隠す意味あるのかね。
いやね、聞いたことあんのよ。不登校になったからってよ、親がゲーム機を隠すっていう話をよ。俺ぁそれがどうも腑に落ちねぇんだよ。

さっきも言ったけど、ほら、どっちかっていうとよ?俺たちは笑顔にするのが仕事じゃねぇか。アルバムは泣かすのもある意味一つの仕事かも知れねぇけど。まぁ細けぇことは無しにしてよ。

どんだけ考えてみても、やっっっっぱり笑顔にするのが仕事なんだよ、俺たちは。

裕哉が学校に行かねぇからって俺を取り上げたって何にも変わらねぇ。

裕哉がますます孤独になるだけなんだ。誰も話を聞いてくれねぇ。誰も笑顔にしてくれねぇんだよ、今は。

だからよ俺だけはと思ってよ、あいつの目をガーっと見て真剣にあいつと向き合うんだ。
俺にたくさん話しかけてくれてんだよ。俺は聞き役だからなんも言わねぇぜ。だからこそ、あいつは少しずつ話しかけてくれんだよ。言葉じゃねぇぞ、心でな。



俺を隠す意味あんのかねぇ。

誰があいつの言葉を拾ってくれてんのかねぇ。

誰があいつの真剣な顔を見てくれてんのかねぇ。

誰があいつと本気で向き合ってんのかねぇ。

誰があいつの心を読み取ってんのかねぇ。




ガタン!!!




ガタンっじゃねぇよ、ギターさんよ!
今、俺が良い話してんの!音出すならジャーンだろ、お前はよ。何が”ガタン”だよ、間抜けな音出しやがってよ。弦張ってねぇガキは黙ってろてんだ、この野郎。


んあ?何の話だっけ?ほらみろ!てめぇのせいで良い話が台無しじゃねぇか。

あぁ。そうそう。

俺を隠したところで、あいつが学校へ行くと思うか?

まぁ俺が魅力的なことは分かる。面白いし、かっこいいし、容姿だっていいし、声(音)も良い。また会いたいわ~なんてよく言われるよ?
あとあとあと…え?もういい?ぅるせーなったく。


俺を隠したってよ、何にも始まらねぇんだよ。その前の問題を片付けなきゃいけねぇ。え?そうだろ?


腹が減ったら食いもん探すだろ?先に箸だけ構えるようなやつはいねぇ。

眠くなったら布団を敷くだろ?先に電気を消して眼鏡を取るやつはいねぇ。

じゃあ、なにか?学校へ行かなくなったなら、学校が来ればいいじゃねぇか。え?違ぇだろ?そう!そういうことじゃねえだろ?

問題はもっと別のところにあるんだよ。

裕哉もそうだけどよ、心がざわついてる時はよ、俺がいるじゃねぇか。少しくらい笑顔にさせることできるし、心の充電の足しにできるぜ?

アルバムもよ。お前の場合は今すぐにはできねぇかも知れねぇ。だけどよ、いつか俺の後輩が来る時にはよ、裕哉にこの”今”起きていることを見せることはできんだよ。目でよ。んで、今は。今は涙がこぼれて仕方ねぇけど、未来のあいつを笑顔にできんだよ。
そう!そういうこと。俺たちは笑顔にできんだよ。うん。お前にも役割があんだよ。あはは。ダテにカビ臭くねぇな、お前はよ。あはは。


眩しい


外の灯り



しかしよぉ、いつまでここにいるんだろうなぁ俺は。アルバムは盆正月くらいには出番あるしよぉ。ギターは弦次第ってとこか…
俺は後輩来たらしめぇだってんだ。先代もそう言ってた。仕方ねぇってな。仕方ねぇけどな。え?そりゃそうだろうよ、お前はいつまでも見られるだろ?だけど俺たちの世界ではよ、次の世代はもう別モノなんだよ。先代と俺とではガタイも頭も違ぇんだよ。知ってるだろ?
俺もよ先代よりビシッとしてて優越感に浸ってたけどよ、なんつぅか、先代はドッシリしてたね。俺より小せぇなりしてんのに、俺よりでかく見えたね。ああぁぁ、いつまで俺はここにいれるんだろうなぁ。

なによりよ、このまま裕哉の寂しい顔が最後で終わりってんじゃぁ情けねぇ。後輩に合わせる顔がねぇ。それこそ恥ずかしくて読み取りレンズが曇るってもんだ。

とはいえ、どうしようもねぇな、この状況。


よしっ!そうだ!裕哉に見つけてもらおう!そうしよう。

ギターさんよ、おめぇはさっきみたいにガタガタと音鳴らすことできるかい?お?いいね。できるってよ。

アルバムよぉ、ここにある俺の Openボタン 押せるかい?今じゃねぇぞ。おぃ、今じゃねぇって。やめ・・・



はからひっはほえぇか、いははへぇっへ!(だから言ったじゃねぇか、今じゃねぇって!)
はやふひへへくへ(早く閉めてくれ)



ったくよぉ、せっかちなんだからよぉ。歯車(アゴ)いてぇよ。機械の話は最後まで聞けってんだよ。まぁいいや。開けれることは分かったからよ。

よし。作戦会議だ。いいか?次に裕哉が近づいてきたらギターさんよ、おめぇさんができる限り大きな音を立ててこの扉ってやつを開けさせるんだ。
ほいでよ、開いたらアルバム、てめぇの番だ。俺と一緒に下まで崩れ落ちるんだよ。なんで俺もってつらすんじゃねぇよ。分かるだろ?俺がそのまま落ちたら壊れちまうだろうがよ!え?だからおめぇが先に落ちて、その後、俺がその上に落ちる。そうしたら俺は壊れない。そういうことだよ。え?痛ぇとか情けねぇ事言ってんじゃねぇぞ、この野郎。裕哉のためだと思って我慢してくれ。
落ちたらすぐにこの Openボタン を押してくれ。俺の力を振り絞ってレンズ動かすから。
コントローラー、俺を引っ張んな、この野郎。コントローラーてめぇは運命共同体だからな。俺と一緒に落ちる。あはは。諦めな。それにおめぇは痛ぇの慣れてるだろ。あはは。

っし。これで行こう。



しっ!聞こえてきたぞ。裕哉の足音だ。


しっ!

とっとっとっ。

まだ待てよ。

とっとっとっ。


今だ!!!


ガターーーーン!!!!!


おぉ良いね、その暴れっぷり!

ガチャ。

開いたぞ!行くぞアルバム!!!



意外と高ぇじゃねぇか。おいおいおいおいおいおいおい。


ドスドスン。


・・・。


・・・。


大丈夫か?おぃ、アルバム。


・・・。


眩しくてかなわねぇな。


・・・。


おい、アルバム!

ダメだ。目ぇ回してやがる。

しまったな。おめぇが俺の下にいるってことは誰も Openボタン 押せねぇじゃねぇか。自力でなんとかするか。


よいしょ。よいしょーーーーーーっと。



パカッ。



なんとも情けねぇ音だね、頑張った割りにはよ。
ずっと暗い中いたから眩しくてかなわねぇ。

次はレンズっと。良いかぁ、裕哉、気づいてくれよ。
この動き、メタルギアのディスク2の交換の時みてぇだろ。覚えてるか?え?


よしっ!気付いたぞ、手が伸びてきた。しめたしめたしめた。
作戦成功じゃねぇか。

コントローラー、大丈夫か?なにニヤニヤしてんだよ、この野郎。なに?バンジージャンプみてぇだと?馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ、大事な時によ。
アルバム見てみろよ。真ん中のページからおっぴろげで伸びてやがる。大丈夫かね。

そんなことよりもだ。作戦せぃ…。



おいおいおいおいおいおいおい。
どうしてまたしまうんだよ!


おいおいおいおいおいおいおいおい。


再び埃っぽい場所


ふりだしだよ。いつつつつ。廃熱パネルしこたま打った。いや大丈夫だ。大丈夫大丈夫。てめぇみてぇにヤワじゃねぇんだよ。

アルバム、悪かったな。大丈夫か?久しぶりにチチオヤーに見てもらえたから嬉しい?呑気なこと言ってん・・・。もいっぺん言ってみろ。チチオヤー?あれ、チチオヤーだったのか?

なんだよなんだよ、何でもっと早く言ってくれねぇんだよ。完全に早とちりじゃねぇかよったく。俺のせいだってのか?あぁあぁあぁ、悪かったよ。チチオヤーの足音を裕哉のそれと勘違いしたよ、悪かったよ。るせぇな。



あいつは過去のことグチグチうるせぇんだよな。だからいつまで経っても過去の写真しか飾れねぇんだよ。たまには未来の写真を飾ってみろってんだ。



ギターさんよ。おめぇにも悪いことしたな。弦もないのに音出せって無理させちまった。すまなかった。なぁ。


ギター?相変わらず無口だねぇって、おい。


おいおいおいおいおい、ギターの奴、いなくなっちまったぞ?どこ行きやがった?

ついにお払い箱になっちまったな、あいつ。仕方ねぇ。音の出ないギターって必要ねぇもんな。怒りのねぇ”サイヤ人”みてぇなもんだ。お払い箱でも仕方ねぇ。いい奴だったよ。おぼっちゃんみたいな喋り方だったけど、意外と反った性格してやがったな。ロケンローなやつだ。今までありがとよ。

ギターさんよ、おめぇの仇は必ず討ってやっからな!
”窓風吹かば 匂ひおこせよ 闇の中 ギターなしとて 静けさ変わらず”
ってなもんよ。おめぇのことは忘れねぇからよ。きちっと成仏してくれよ


でもよ、アルバムの上に落ちれば壊れねぇってことは分かった。したらば次はどうしたものか…。


未来を語るアルバム


え?何言ってるか聞こえねぇよ。

なに?俺に任せろ?初めてだね、良いねその意気。えぇ?アルバム、あの後ろ向きのてめぇからそんな前向きな言葉出るなんて知らなかった。恐れ入ったよ。そいでよ、どんな作戦なんだ?ちょいと聞かせてくれぃ。

おう。今度はてめぇだけ落ちると。よし、俺は押すだけだな。そういう仕事、得意だぜ。また足音が聞こえたら押せってことだな。

おぅおぅなるほどな。ダテに年取ってねぇな。

つまりはだ。

足音が聞こえたら俺が自力で Openボタン でディスクトレーを開くと。ほいで、その開いた勢いでてめぇが押されて落ちる。良いじゃねぇか。

アルバムがドーンと落ちて気付いてもらう。扉が開く。てめぇが拾われる。そこにはゲームをして笑う裕哉の写真があると。

良いじゃねぇか、良いじゃねぇか。ニヤついてんじゃねぇよ。褒めてんだよ、こっちはよ。
写真で思い出してもらって、ゲームをしてもらえるって寸法だな。よし分かった。ククッ。てめぇを押すのは心苦しいが…ククク。俺?笑ってねぇよ。なんだな?アルバムを落とすのがこんなにワクワクすることあんだな。てめぇもニヤついてんじゃねぇかよ。

ああぁ、楽しみで仕方ねぇ。大丈夫だって。分かってる分かってる。ゲーム一族に恥ねぇ押しっぷり見せてやっからよ。

てめぇは見れねぇか。あはは。

おめぇも過去ばかり引きずってるやつかと思ったら、未来を語れるんじゃねぇか。なぁにまだニヤニヤしてやがんだよ、おめぇも。しかしやるもんだねぇ。感心した。ああぁ感心した。

そうと決まったらやっちまおぅ。


アルバムの本気


おめぇは俺の前に立っててくれ。もうちょっと奥だな。おうおう。おぅ、それでいい。

よっしゃ、後は裕哉の足音がぁぁぁって。
聞こえる。足音が聞こえるよ。まるで漫画みてぇな展開じゃねぇか、この野郎。

しっ。

とっとっとっ。

次はチチオヤーじゃねぇだろうな。

とっとっとっ。


まだ引き付けるからな。急かすんじゃねぇぞ。俺ぁ、緊張すると接続不良を起こすからな。急かすんじゃねぇぞ。


とっとっとっ。


もう少しだ。


とっとっとっ。


・・・。


今だ!!!

バターン!!!

良いねぇ。押す感じ。えぇ?いつも押されてばっかりだから知らなかったけどよ。押すのも悪くねぇ。って言ってる場合じゃねぇな。

おーーーーーい。

アルバム、生きてるかぁ?

おーーーーーい。


・・・。返事がねぇよ。あいつも伸びちまったか?

おーーーーーい。

あっ。こっち向きやがった。しめた!生きてやがる。運の強ぇやろうだよ


扉が開くぞ!構えろよぉ!!!


今度こそ


眩しいね、外は。いけねぇ、こうしちゃいらんねぇな。しっかり目を据えてと。
あの顔は…裕哉じゃねぇか。久方振りだねったく。懐かしいよ。

よしよし。見てるぞ見てるぞ。裕哉のやつアルバムをしっかり見てやがる。それにしてもアルバムの野郎、良い開きっぷりだねぇこりゃ。すっからかんのガマ口財布みてぇな姿だな。

よしよし。見てるぞ。この調子で…。


・・・。


・・・。


おぃ。どこへ行くんだよ。

アルバム!裕哉!

どうしたってんだよ。どこへ行くんだよ。俺を置いて行かないでくれよ。


・・・。


行っちまった。


アルバムの奴、笑顔でどっか行きやがった。

あいつ、そういえば作戦思いついたときから二ヤついてやがったもんな。チキショー。そこで気付けばよかった。んのやろう、はかりやがって。なぁにが「俺に任せろ」ってんだ。あいつてめぇだけ助かろうと…。かーっ悔しい。

それにしても俺はマヌケだな。ギターは捨てられちまうし、アルバムには裏切られる。悔しいねぇ。

どうしたもんだねぇ、この状況。
ったく情けねぇ。先代に顔向けできねぇ。


自力


やるしかねぇ



こうなったら自力でやるしかねぇ。

俺だって機械だ。やるときゃやるぜ。裕哉を笑顔にするのが俺の仕事だからな。ここで眠って腐ってたんじゃあ意味がねぇ。ハードオフに行った方がマシだ。

どれどれ、誰かいねぇのかよ。ギターもアルバムもみんないっちまったからな。空の靴箱と着てねぇ服。使わねぇのに大事にしまってある紙袋。どれもこれも役に立たねぇなったく。


いけねぇいけねぇ。はなっから誰かに何とかしてもらおうなんて考えてたんじゃあいけねぇな。自力でやってこそ、ゲームたましいってもんだ。っしゃ、いっちょやるか。


道具集め


まずは、道具だな。細い紐みてぇなものあると助かんだけどな。都合よく落ちてるわけねぇか。


そうだな、さっきの紙袋、結わいて紐にしてみるか。破れたら落ちてしまうな。廃熱パネルしこたま打ち付けたばっかりだからな、体に障る。やめよう。

着てねぇ服を先に落として、そのあと俺が落ちてみるか。俺が服に埋もれちまったら気付いてもらえねぇ。音出しても仕方ねぇ。それに廃熱パネル埋まっちまったら息ができねぇ。やめよう。

掃除機の野郎に手伝ってもらおうか。だめだ、あいつは鼻息荒くてかなわねぇ。それに吸い込まれたらここより埃っぽい場所に連れていかれるらしい。やめよう。

奥の方にある本に知恵借りてみるか。あいつら賢いからな。しかしな、オベベ(服)も上手く着れねぇ女に艶っぽい言葉もじであーだこーだ言われてもな。丸っきり頭に入ってこねぇ。『ア~ら、ご主人、何してらしたの~ん』って言われても調子が出ねぇしな。それにこの本はチチオヤーが怪人マザーに見つかったらいけねぇと本気の顔してたからよ。なんとなくだけどよ、手をつけたらいけねぇ気がすんだよ、俺は。

まいったな。やっぱりあれだな。自分の力で何とかしねぇといけねぇな。


決断


よし、やると決めたからにはやるしかねぇ。


おぉ、高ぇなチクショー。まぁアルバムの野郎でも生きてたんだ。俺だって機械の端くれ、これぐれぇでくたばったりはしねぇよ。そうだ、ディスクトレー目一杯開けてゆっくり降りてみるか。パラシュート降下ってやつだな。なんかのゲームで空から人間が落ちる時にバサってやってたからよ。俺のディスクトレーでも大丈夫だろ。

もういっぺん覗いてみるか…。

高けぇな、やっぱりよ。俺の四機身くらいあんじゃねぇか。

もし壊れちまったらどうなんのかな。そのまま捨てられちまうんじゃねぇかな。ディスクトレーが壊れるくらいだったら良いけどよ、中のレンズが割れちまったらよ、何にも見えやしねぇ。真っ暗闇だ。そうなっちまったらよ、裕哉の顔も見れねぇままになっちまうな。
ほかに手立てがありゃあよ、なんとかなるけどよ。やっぱり何かで結わいてゆっくり降りたほうが良いんじゃねぇか。何かねぇのか?

おっ!?良いところにコードがあるじゃねぇか。

ちょいと前すいません。通りますよ。はいはいっと。あいあい、通りますよ。そこのコードをお借りするだけですからね。なんも怪しいモノじゃありませんので・・・。

これ使おう。

ん?これは?


黒いコード


これは先代の電源コードじゃねぇか。それじゃなにか?先代はまだいらっしゃるってぇのか?

おい、みんな薄汚ねぇ白色とあずき色した小さい箱みませんでしたか?

おい。誰か…。先代…。

居るわけねぇよな。俺が来たら早々にどっか連れてかれたからな。居るわけねぇか。なんだよ、チクショー。しけちまったな。

先代からの置き土産っつぅことで、これ使って下に降りてみるか。

懐かしいね、このコードもよ。俺が来たばっかの頃、もう画面に映すのも精一杯だったけどそれでも裕哉を笑顔にするためになんとかCPUだかなんだかに指令を送ってたからな。かっこよかった。あぁ、かっこよかった。

限界点なんてとっくに超えていたけど、あの姿見たら感動するわな。一生懸命の姿ってなんで良いんだろうな。ゲームだってよ、一生懸命にやってたら頭使うし、場合によっちゃてめぇの体動かすことにもなるだろ?
裕哉だってそうだ。勇者様やってる時はそりゃぁ真面目な顔してやるんだ。頭だって使う。そういう姿、チチオヤーにも見せてやりてぇな。

あぁ、いけねぇ。年取るとよ、同じ話を何度も何度もしちまう。あはは。悪ぃ癖だな。おぅ、気を付ける。

よいしょっと。これぐれぇグルグル巻きにしちまえば落ちねぇだろう。

あぁ、なんだか緊張してきたな。次は俺一人だもんな。


出陣じゃ


降下か落下か


っしゃ、行くぞ。行くぞったら行くぞ。誰も押してくんねぇから自分の力で行くぞ。分かってる。急かすなって。飛ばなきゃ何も変わらねぇ。飛んでも変わらないとしても飛ぶしかねぇ。”蒔かぬ種は生えぬ”っつぅだろ?


ちょちょちょちょちょちょっと待て。分かってるって。


もういっぺんよ、コード確認するから。


ふぅ。

にしてもあれだな。これで壊れたら、本当にお終ぇだな。

怖くねぇよ、別によ。強がってねぇ。おぅ、強がってねぇ。強がってねぇが心が丈夫じゃねぇんだよ、チクショー。なんつぅか、ハーネスがガタガタ震えてらぁ。俺が震えてんじゃねぇ、CPUの奴が震えててよ、その振動がハーネス伝ってこっちまで震わせてくるんだよ。俺は怖くねぇよ。おぅ、怖くねぇ。

アア、みなさん?もしだよ?もし俺が落ちて壊れちまってもよ、勇敢に戦って散っていったと後輩に伝えてくれねぇか?コードが緩いとか、アルバムの野郎に裏切られたとかはいらねぇ。そうじゃなくて、孤高の機械マシンだったと、そう伝承してくれよ。もう少し盛って話してくれても構わねぇからよ。
なに?今?時間稼ぎ?俺が?
ちちちちち違ぇよ、バカ。怖くねぇって!分かんねぇかねぇ。俺はちゃんと伝言を残してるんだっての、バカ。壊れるのも怖くねぇよ。先代だって立派に務め上げたんだよ。俺だって最後は綺麗な花咲かせてやっからよ。

っしゃ、じゃぁ行くからよ。くれぐれも後輩に伝えてくれよ。


運命


縁に立ってと…。

行くぞっ。畜生、コントローラーの野郎、ウッキウキじゃねぇか。
あいつ投げられ続けて中のセンサーいかれちまったんはねぇのか、ったく。あはは。おめぇは面白いやつだよ。ありがとよ。

さぁ、行くぞ。




いち!

に!!

さん!!!




ダァァァ…って、言おうとしてんのに、おいおいおいおい、眩しいぞ、この野郎。
いきなり扉開けてんじゃねぇよってんだ。どしたどした?


かーーーっ!眩しいって。


なんだなんだ?誰だよ。振り回すなよ。振り回すんじゃないよ。てめぇ、笑ってんじゃねぇよ。おめぇさんは振り回され慣れてるけどよ、俺はこういうの慣れてねぇんだよ。


おいおいおいおい。


もしかしてよ、これが走馬燈ってやつじゃねぇのか?世界がぐるぐる回ってんだよ。ちょっとつねってみてくれ。いてててて、いてぇなこの野郎。加減を知らねぇのかったく。

まぁ、死んでねぇことは確かだ。


しめた!目は慣れてきたけどもよ、まぁだ地球がグルグル回ってら。


ここはどこだよ。あ?BOOKOFF?セカスト?縁起でもねぇこと言うんじゃないよ。コントローラーの野郎は呑気で良いよなったく。



裕哉の部屋?確かに見覚えある。おぅ、間違いねぇ。


再会


おおおおおおお。裕哉じゃねぇか。

元気だったかぃ?おうおうおう、変わってねぇな。いや、少しでかくなったんじゃねぇかぃ?どうしてやがんだよ、最近よ。ちゃんと飯食ってんのかぃ?怖いことねぇかぃ?ちゃんと眠れてんのかぃ?

いやな、コントローラーの野郎がよ、いっつもおめぇのこと心配してんだよ。俺ぁよ…その、あれだよ。裕哉の野郎がこれぐれぇで散るようなやつじゃねぇ、心配してねぇでてめぇは自分のことだけ心配してろって言ったんだけどよ。いつまでフワフワしてんだよって。
そりゃぁ心配みてぇでよ。こうも言ってた。もしかして僕たち忘れられちまったんじゃねぇかなって、いっつもボヤいてやがったよ。

そりゃおめぇだろって。あ?なんだよ、今裕哉と会話してる最中だよ!うるせぇなったく。黙ってろ。

まぁ、その。元気そうでよかった。

うん。そうだそうだ。元気があればなんでもできるって言ってたもんな。誰かがよ。


時間


電源ボタンに灯る


いいね、いいね、いいね!
こりゃいいね!いいねったらないね。ないって言ったって”いいね”があるんだよ。

全身にビリビリする運命みたいなものを感じるな。よしよしよし。電源ついたな?CPUはどうだ?まだ寒いか、そうか。あはは。そのうち熱くなるからよ、今のうちに凍えとけってんだ。あはは。
コントローラーはどうだ?相変わらずユラユラしてやがる。ったく脳天気だな。それがてめぇの良いところだな。はは。
廃熱パネルも順調。レンズも…動くねぇ。たまらないねぇ、この感覚。ビリビリしてくらぁ。

っしゃ。気合入れて奉仕するからな。ところで今日は何するんだい?


そうかいそうかい。お!?いいねいいね。信長公な。任せときなよ。え?孫の代まで語り継がれるような速さで読み取るからよ。

おう、おめぇら。ちゃんとついてこいよ!CPUもよ、ゾクゾクしてるかもしんねぇけどよ、すぐに熱くなるからな、安心しろぃ。


始める


久しぶりに信長の野望っつぅのも悪くねぇ。うん。良い選択をしてんな。どこの武将で開始するんだぃ?珍しいね、島津家ときたもんだ。良いね。端っこから制覇するっつぅのも粋だね。いやいやいや、別に腐してるつもりはねぇ。
おぅ、端っから仕切り直しして全国統一してくれよ。

そうだよ、ゲームはやり直すことができんだよ。どこの国から始めても良いしどの状態でもいんだよ。でもよ、人間様はこうはいかねぇ。神様仏様工場様でも元に戻すことはできねぇんだよ。だからよ、ゲームだけでもやり直ししようぜ。な?

新鮮な気持ちでよ、統一しようぜ。な?



良く観たらよ、目の下、クマ作ってやがらぁ。寝てねぇのか。眠れねぇのか。そうか。まぁ、そういう時もあらぁ。無理に寝ようとしても目が覚めちまう。しかもよ、眠ったからって全回復するわけじゃねぇよな。特に心はいけねぇや。眠って忘れれるもんじゃねぇ。その辺はゲームのほうが楽で良いやな。

まぁ、そんな難しい事考えててもいけねぇ。思う存分、楽しみな。


変化


しかしよぉ、裕哉の部屋も大人になったもんだな、おい。

もっと小せぇ時分にはドラえもんとかゾロリさんとかばっかだったけど、今じゃ見てみろ。難しい本読んでやがる。
大モテ運?良いね。なんか重いモノが持てるようになるんだろうな。
ブジジット…なんちゃらの日記?ほえぇ、今じゃ他人の日記まで読めるのかい。
遺書?こいつはいけねぇ。いいか、裕哉。生きろ。
ドラクエの世界の歩き方?歩けるようになるのか。へぇ。

面白ぇ世の中になってきやがったな。うん。

お?

おお?

おおお?


おぃ、見ろよ。アルバムのやつ、あんな所に居やがる。呑気なもんだよったく。てめぇが裏切らなければ俺がヒヤヒヤしなくて済んだってのによ。問題だよ、あぁ大問題だよあいつはよ。少し懲らしめてやろうか。


再会


アルバム


やい!

てめぇ!聞いてんのか!


てめぇだよてめぇ!そこの口を半開きのままボーっと突っ立ってるでくの坊みてぇなアホ面したおめぇだよ!

なぁにすっとぼけた顔してやがんだよ。てめぇだよてめぇ!

この野郎、裏切りやがって。なにが”俺に任せろ”だ、この野郎。

おかげでこっちはな、危うくディスクトレー開いて飛ぶところだったんだよ。大ケガしたらどうしてくれんだよ、この野郎。


なにニヤついてやがるんだ。こっちはよ、腹の虫が収まらねぇんだよ。ちょっとこっち来い!目ぇ覚まさせてやる。

なに?

無理ですねじゃねぇ!こっちに来いってんだ、やろう。



まぁ、そうだな。裕哉がこっち見てるしな。

よし、分かった。後できっちり落とし前付けてもらおうか。え?

あの野郎”後で行くから、待ってて~”だってよ。ちょっと先に出れたからって調子に乗りやがって。

あぁ、俺ぁ穏やかじゃねぇよ。



それにしても何でてめぇだけ逃げたんだ。あ?

ちゃんと言えば許してやるから。俺ぁ嘘つかねぇよ。そこいらの先生とは違ぇんだよ。

あ?なに?裕哉が真剣にアルバムを観ていたから?あぁ、それで?
それで嬉しくなっちまったって?

なんでぇ、チクショー。怒りたくても怒れねぇ。思いはみんな一緒ってわけかぃ。いや、勘違いしねぇでくれ。てめぇの言い分を完全に信じたわけじゃねぇ。信じたわけじゃねぇが、言ってることは分かる。

ちゃんとお天道様に正面から堂々と言えるってわけだな?無理ってなんだよ。なに?紫外線には当たりたくない?なんだよ、てめぇ。急に人間みてぇなこと言うんだな。色褪せてしまう?笑わせてくれるねぇ。思い出の塊みたいなてめぇが色褪せるのが怖いってのか?変わったやつだな、てめぇは。

まぁいいや。つまりは俺たちは結局は同じ気持ちってことで間違えねぇな?てめぇは裕哉のこと大好きだし、俺は裕哉の笑顔が見たい。そうだな?

よし。信じた。あぁ、てめぇを信じた。それじゃぁ今回のことは水に流してやろう。は?流さねぇでくれ?水に濡れたらふやけちまう?知らねぇよ、バカ。やっぱりてめぇと話してると前に進まねぇ。

俺もよ過去に縛られてちゃいけねぇな。未来を見なきゃならねぇよ。


やるぜ


一つ。目標を立てること。


あれだな。同じ気持ちってことだからな。ちょいと目標を立ててみねぇか?いや、そんな難しいことじゃねぇ。そうだな、前みたいに裕哉に笑ってもらうっていう目標なんてどうだ?

学校ってとこで何があったか分かんねぇけどよ、何かそこで問題が発生したっていうのは事実だ。かと言って、チチオヤーみたいに強制的に行かせようったって無理だ。何より俺たちは車も金もねぇ。学校って場所も分からねぇ。

俺が思うにはよ、あいつはずーっと頑張ってきたんだ。学校ってとこも、ここ家でもよ。ほら神経質なとこあるじゃねぇか、コントローラーと違って。だから今は心が丈夫じゃねぇと思うんだよ。

だからよ、俺たちができるのはその心の充電を手伝うことだ。おめぇは楽しかった記憶を思い出させるし、俺はこの瞬間を笑顔にできる。

まずはこの目標からやってみようじゃねぇか。


一つ。未来を見せること。


アルバムさんよ、裕哉が笑顔になったらどうなると思う?

そうだよ、俺たちも笑顔になんだよ。おめぇにしちゃ、立派な答えじゃねぇか。

んで、その後は?

なに?その後は額縁に入って?飾ってもらえる?コラてめぇ、俺はどうなるってんだよ。どうしておめぇってやつは目先のことに夢中になるかね。裕哉が笑顔になるってことは、家の中、チチオヤーもマザーも笑顔になるってことなんだよ。分かるか?

ってなるとどうなる?

そうだよ!新しい写真を挟んでもらえるんだよ!てめぇも段々分かってきたじゃねぇか、鳩より利口だな。あはは。

おぅ、その後は?

さすがじゃねぇか。家の中が明るくなるってことはだよ、俺たちも明るくなるんだよ!


一つ。因数分解


なに?そのためにはどうしたらいいかって?バカ野郎、それを考えるんじゃねぇかよ。

俺たちの目標は裕哉を笑顔にすることだ。笑顔ってことは”楽しい”っていうことだ。”面白い”ってことじゃねぇ。面白ぇっていうのは…おぃ、寝てんじゃねぇよ、この野郎。

まぁ、ジジィだから話が長くなっちまうな。すまねぇ。とにかくだ。

俺たちは裕哉が楽しいっていう場所を作るんだよ。そりゃ簡単じゃねぇ。でもな、大きな問題は細かくしろって聞いたことねぇか?

例えばよ、アルバムがたくさん開いてもらえるようになるのはどうしたらいいかって考えるのは大変だけどよ、一週間に一回開いてもらえるにはどうしたらいいかって考えると色んな考えがでるだろ?
ほら、いつも開いてもらいやすい場所に置いてもらうとか、楽しい時間を増やすだな。じゃあな、開いてもらいやすい場所に置いてもらうためにはどうしたらいいんだ?そうだな、そのカビくせぇ体を磨いたらチャンスは増えるだろうよ。

つまりはだ、たくさん開いてもらうためにはよ、そのカビくせぇ体を磨くってことから始めてみろってことなんだ。

・・・。

・・・。

また、寝てやがる。

・・・。

起きろ!

・・・。

起きろっつってんだろ!

・・・。

ダメか。昏々と寝てやがる。無理ねぇやな。こいつもこいつなりに頑張ったしな。

でもよ、アルバムが前向きになってるからよ、俺ぁ嬉しんだ。



・・・。
俺だってよ、裕哉に笑ってほしいっていうのはあるけどよ。あるけど、本当はな、裕哉とかアルバムに忘れられちまうのが怖くってな。

てめぇは良いよ。なんだかんだ言ってもちゃんと思い出してもらえる。まぁそれがこいつの仕事だけどよ。少なく見積もっても年に一度は引っ張り出される。
だけどよ、俺ぁ次のやつがきたら良くてあの場所、上手くいきゃぁBOOKOFF。悪けりゃフネンゴミってやつだ。

俺はよ、いつか必ず裕哉にもアルバムにもギターにも忘れられちまうんだ。おめぇらと違って”世代交代”ってやつがあるからよ。


本当はよ



それが怖くて仕方ねぇ。


投獄


監視


!?

おい、起きろ!

コラっ!アルバム!!!

起きろって!



誰か部屋に入ってきた。


おはよじゃねぇよ、寝坊助が!


しっ!静かにしろぃ。誰かが入ってきやがった。


あの足音はチチオヤーか?


おめぇが邪魔で見えやしねぇ。
なんで俺に寄りかかって眠るかねぇ。ったく。


でもよてめぇのおかげで向こうからも見えねぇ。やるじゃねぇか。
偶然だろうけど助かったぜ。


いいからいいから。動くな!バカ野郎。


そのままジーっとしとけ。心臓の音も止めとけってんだ。


行ったか?


行ったか?


行ったな?


はぁぁぁぁ。助かった。見つかってたらよ、またあの場所へ逆戻りになるところだったぜ。

今回ばかりはアルバムのおかげだな。ありがとよ。


継続


いやぁ、あぶねぇなったく。あれだな。裕哉も賢いって言って良いのか分かんねぇけど、お前さんを使って俺を隠すすべを見つけたな。

おぅ、しばらくは逃げきれそうだ。


おい、裕哉!


寝たふりしてんじゃねぇぞ。俺には分かってんだ、おめぇは寝坊なんてしねぇってことくらいはよ。

もうチチオヤーいねぇぞ。シゴトってとこに行った。

ほら見ろ、モゾモゾしてきやがった。


よしよし、起きてきたな。さっさと顔洗って飯食ってこい。



今日は何するのかねぇ。最近はもっぱら信長公にはまってやがる。CPUも熱くなって良いやな。あいつ少し冷てぇとこあるからよ。具合良いな。俺も読み取りレンズ動かしとくよ。

戻ってきたぞ!コントローラー!ぶらぶらして遊んでねぇで節々動かしとけよ!ったく目を離すとすぐサボりだすからな、あいつも。やるときゃやるんだけどよ。裕哉と同じじゃねぇか。あはは。


熱中


どうよ。最近はよ。え?アワロマモリ?違う?淡路守あわじのかみだってよ。読み方分かんねぇ。おぃ、CPU!なんでこれでカミなんだよ。
それにしても日本ってのは広いんだねぇ。こんなにいくさしねぇといけねぇなんてよ。隣に住んでるやつ、みんな知り合いじゃねぇのかよ。その隣に住んでるやつの隣だって知り合いってことだろ?その隣の隣に住んでるやつの隣だって知り合いのはずだろ?よく分かんねぇな、人間様のやることは。勇者様もそうだけどよ、戦うってのが好きなんだろうな。

ほら、裕哉!ボケーっとしてると東のほうで魚屋さんみつうろこみてぇな旗掲げたやつが暴れてんぞ。あら、この時代では信長公はもういねぇのかい。主役がいねぇ世の中ってのも不気味なものだな。大将いなくても、他に大将が出てきちまう。こりゃぁ難儀だね。まるでトカゲの尻尾みてぇだな。


なぁ、一度は休憩してお天道様に挨拶してきたらどうだい?


そういや、裕哉のやつ、16時間で勇者様クリアしたって狂喜乱舞してたからな。両津勘吉には敵わなかったみてぇだ。誰を目指してんだよ。アホだな。あはは。


おぃ、もう日が暮れてきちまったよ。


あいつそういうとこあんだよな。熱中するともう止まんねぇ。見ろ!腰から根が張ってやらぁ。こっちは朝までやるんじゃねぇかってヒヤヒヤしちまう。CPUはアツアツだな。あはは。


ほら、お天道様、沈んじまったよ。


第六天魔王


帰ってきちまったよ。おいおいおい。どうすんだよ、これ。
帰ってきちまったよ。裕哉よぉ。


もう遅いぜ遅いぜ。今から記録セーブしたって間に合わねぇよ。俺はまた真っ暗な世界に逆戻りじゃねぇかよ。ここからじゃアルバムが走ってくるのも間に合わねぇよ。

帰ってきちまったよ。


なぁ今、


ドア


開いたよな?


あぁ、確かに開いた。開く音がしっかり聞こえた。


どうすんだよ、どうすんだよ。

おぃおぃおぃ、第六天魔王?あれはドラキュラ伯爵じゃねぇかよ、あの顔はよ。目が光ってら。グランドクロスなんて打てねぇぞ、俺ぁ。

あんな色、俺たちには表現できねぇよ。こっち見てるよ、おい。
おぃ、コンちゃん。コンちゃんさんよ、ガタガタ震えるなよ。こっちまで震えてくるじゃねぇかよ。そういう仕様?知らねぇよ、そこまではよ。早く向こう行けよ。いや待て、行くな。おめぇが動くと俺まで引っ張られちまう。

いいか、動くなよ…。

見てるよ見てるよ。画面と裕哉・・・。固まってるよ。


変化


アンパンチ


はぁぁぁ助かった。アンパンチしてくるかと思ったぜ。

あはは。なんでぇ、あの野郎。俺の左コントローラー、ロー電源コードで伸してやろうと思ったのによ。俺にビビってやがったな。うん。

おぃコンちゃん!コントローラー!もう震えなくていいぞ。

俺が守ってやったからな!おぅ。


アルバム!てめぇは余計なこと言うなよ。留め具、外してやるぞ、この野郎。あはは。


それにしてもよ、チチオヤーはなんで何にも言わずに扉を閉めたのかね。確かに裕哉と目が合ってた。うん。だけどよ、何も言わずに向こうの世界に行っちまった。フシギダネぇ。


記録


裕哉、もう記録《セーブ》しておきな。秘書|メモリーカードには頼んどくからよ。

そう、そうだ。それでいい。

いやぁ、危なかった。今日は危なかった。危うくフネンゴミに行くところだった。

あれだな、記録|《セーブ》って便利だな。ほら、先代の頃はカセットっつぅのか?あれの中で記録してたからよ、よくその記録がぶっ飛ぶわけよ。そうなるとなんでか知らねぇがそのカセットっつぅのもぶっ飛ぶわけ。裕哉がぶん投げるんだけどよ。あはは。ありゃあ痛そうだったね。俺ぁ優秀な秘書がたくさんいるからよ、気楽で良いやな。


そうそう。ちゃんと電源消してアルバムを置いてな...。


まぁ今さらアルバム置いても仕方ねぇけどな。

近ぇよ、アルバム。それからな、反対向け!近ぇんだよ、湿っぽい顔でジーっと見られて眠れやしねぇんだ。俺ぁ繊細だからよ。な。


会話


ん?どした?昼前からチチオヤーが来てるぞ。なんでぇ、休みか?学校へ行けって言われてんのか。

んぁ?珍しく普通に話してやがる。


なんか雰囲気違くねぇか?


いや、ダメじゃねぇ。むしろ吉報だ。

・・・。

なんだよこの手は。え?またブチブチする気じゃねぇだろうな。

ん?違ぇな。電源スイッチ押したぞ。おぃ、コンちゃん、CPU!仕事だぞ!起きろ!


おぃ、見ろよアルバム。

あの、裕哉の顔!!!

あの、チチオヤーの顔!!!


えぇ?そっくりじゃねぇか。瓜二つとは言わねぇけどよ、そっくりじゃねぇか。笑ってるよ。笑ってるよ!笑ってやがるよ!!!

嬉しいね。盆と正月が一緒に来たようだとは言うけどよ。これはドラクエとポケモン同時発売みてぇなもんだな、チクショー。あぁ、やるぜ。俺はやるぜ。
おぃ、CPU!固まんなよ!コントローラー!てめぇ、投げられても寝たふりすんなよ!俺たちもまだまだ捨てたもんじゃねぇな、チクショー。


前向き


時代はまわる


いやぁ。久しぶりに働いたな。みんなご苦労さん!いやぁ、働いた。まだCPU熱くてかなわねぇ。コンちゃん、汗かいてんな。大丈夫かぃ?え?俺のじゃねぇ?裕哉の手汗!?なんか・・・すまねぇ・・・。野暮なこと聞いちまったな、すまねぇ。

ま、とりあえずだ。切り抜けることができたな。

それにしてもなんだな。どういう風の吹き回しだろうな。チチオヤーと裕哉がゲームするなんてな。いや、良いんだ。こうやって笑顔の時間を増やすことが俺たちの目標だからな。だよな?


こうやって一つ一つ目標を達成していこうぜ、な?


良い一日だった。こうやってみんなで働くのも悪くねぇな。それにしてもよぉコンちゃんさん、あれは〇ボタン押してただろ!そう、あの時。え?バツだった?俺には〇に見えたけどな!CPU、おめぇはどう思う?ダメだ、こいつは。もう疲れ果てて眠ってら。まだ少し熱いな。
一番、働いたのはてめぇかも知れねぇもんな。ま、ゆっくり寝てくれ。


俺たちも疲れたからな。少し寝ようとするか・・・。


・・・。


・・・。


・・・。


音が聴こえるよ。


・・・。


・・・。


・・・。


懐かしい音が聴こえるよ。


・・・。


・・・。


・・・。


ギターだよ!おぃ、みんなギターの音だよ!いや、間違えねぇ。あの音は間違えなくギターの野郎だ。生きてやがったよ!

しっ!


・・・。


ほら。聴こえるだろ?あの無口だった野郎が、奏でてるよ!なんの曲か知らねぇけどよ。音鳴らしてるよ。


・・・。


今日は最高だな!ドラクエとポケモンとみんゴルが3タイトル同時発売みてぇな日じゃねぇか。
いやぁ良かった。ギターの野郎、生きてやがったよ。ガタガタ言ってた頃が嘘みてぇだな。あいつも新しい弦張ってもらって、嬉しいだろうな。うん。

いやぁ、最高だ。え?俺も新しいケーブルに替えてもらえたりな。あはは。こりゃめでてぇや。

めでてぇけどよ、おいらも疲れた。ふわぁぁあぁぁ。寝るか。

おぅ、もう寝るぞ。


って、みんな寝てやがらぁ。


最高の時代


あんなこともあるんだな。ほら、魚屋さんミツウロコ攻めてきただろ、東の方から。ホウジョウケ?ホウオウジャクだかタイワンチマキだかなんだか知らねぇけどよ。あの軍団、見事にチチオヤーが追っ払ってたな。裕哉もビックリしてたな。年の功だよ、ありゃ。そうだよ?歴が違ぇんだよ。

知らなかったか?チチオヤーはな、昔っから”信長の野望”が大好きなんだよ。特に武田家で天下布武するんだとよ。あぁ、先代から聞いた。よくもまぁ日本列島ど真ん中から開始してぇと思うもんだよな。四面楚歌だよ、あれは。

チチオヤーも裕哉も好きだと見ると、あれだな。親子だな。あはは。



やっぱりよ、親子で一緒に何かやるってのがいいのかも知んねぇな。それがたまたま今回はゲームだったってだけでよ。一緒に絵を描いたりよ、唄うたったりよ。あとは料理作ったりプラモデル作ったり。まぁとにかく何かを一緒にやってよ、同じ時間を過ごすってのが大事だと思ったね。うん。
さすがに一回で上手くいくとは思わねぇけどよ、あの気まぐれ裕哉も堅物チチオヤーも笑顔になってたしよ。


では参りましょうか。CPUさん、コンさん。かーっかっかっか。


倖せ


足される思い出、引かれる後ろ髪


アルバム、最近どうなのよ?え?なんか太ったんじゃねぇのか?

おぅ、教えてくれよ。え?なに。新しい写真が増えた?素晴らしいことじゃねぇかよ。おい、この野郎!え?写真が増えたせいで体重も増えた?自慢話じゃねぇかよ、この野郎!あはは。いいよいいよ。てめぇだって苦労してんだ。笑ったってバチ当たんねぇよな。

コンちゃんさんはご機嫌如何いかが?〇ボタンが痛くってねぇってジジィかその言い方。あはは。最近ずっと酷使してるから仕方ねぇやな。一度工場様ってとこでのんびりしてみてぇものだな。”お医者さんでも、草津の湯でも。腫れた〇×、直りゃせぬよ。直せる所は、工場だけよ”ってなもんだなチクショー。あはは。

俺か?俺ぁ、あれだ。必死に動く。それだけだ。あはは。だってよ、それ以外動きようがねぇじゃねぇかよ。あはは。でもよ、俺もレンズの動きが鈍ってきてよ。老眼っていうのかぃ?読み取りに時間が掛かって仕方ねぇ。こないだなんてよ、合戦画面にするのに息切れしちまってよ。ぶっ飛びそうになったよ。コントローラーがよ!あはは。俺のせいで投げられてちゃやってらんねぇな、おい。あはは。老眼鏡みてぇなもんないもんかね。

読み取りが遅いって言われたらそりゃあ傷つくからよ。老眼鏡レンズクリーナーとか湿布外部拡張で何とかしねぇとな。このままではいけねぇな。うん。よくねぇ。


そう、ギターの野郎も元気みてぇだよ。たまに向こうの世界から声が聞こえる。今の音、素敵ですねとかなんとか言っちゃってるよ。あはは。いけ好かねぇ野郎がますますいけ好かねぇ野郎になってたよ。でもよ、あいつもあれでいい年齢だろ。そろそろ引退の時期じゃねぇかな。なに?酒と一緒で古くなればなるほど甘くなる?スルメイカみてぇな野郎だな。ギターの世界にはそういうことがあんのか。そうか。


そうか。


ん?

いや、何でもねぇ。何でもねぇよ。あはは。



古くなればなるほど甘くなる。か。


夢 幻の如く


いやぁ、今日も疲れたな。一晩休んだだけじゃ疲れが取れなくなっちまってよ。おいらも歳だなって感じる。でもよ、満足してんだ、これで。だってよ、裕哉もアルバムも前向きになってきやがったからよ。

裕哉はよ、その学校ってやつには行ってないけどよ。けどよ、前よりずーっと人間らしい生活してるぜ?目の下のクマも消えてきたし、何よりチチオヤーとの変な空気も少し減ってきた気がすんだよ。だってよ、一人で”ふたりでぷよぷよ”してるような雰囲気だっただろ?分かりにくい?うるせーよ、てめぇは。

とにかくよ、辛い時はあるけどよ、何がきっかけで前に進むか分かんねぇよな。人間様の人生を変えてやろうなんて高ぇ志はねぇ。ねぇけど、心の充電の足しになったかなと思う。思ってる。だろ?おぅ、俺もそう信じてんだよ。

そりゃよ、俺なんて裕哉のこと3,4年?かそれぐれぇしか見てねぇけど情ってもんがあるんだよ。こいつを前みてぇな笑顔にしてやりてぇって。ほんの少しでもよ、裕哉の糧になれたと思うとよ。嬉しくってよ…。


突然の風に吹かれて


いやぁ、今日も今日とて疲れましたな。あはは。あそこで固まったのは俺のせいだ。面目ねぇ。どうしても眠かったんだ。ちゃんと寝てんのによ。あはは。悪い。この通りだ。堪忍してくれ。

裕哉も大人になったよな。今までだったらよ、コントローラーぶん投げてたのによ。蓋開けてソフト磨き直して、また入れて。それでも俺が目ぇ覚まさねぇって分かるとスッと諦めてどっか行っちまった。怒られなかったからな。良かったよ。え?飽きられた?そんなことねぇだろ。まだ全国制覇してねぇんだよ、俺たちはよ。まだまだ、伊達様がいるんだからよ。

いや、悪い。今日は早く横になるとするよ。明日も固まってたんじゃあ情けねぇ。



ごちゃごちゃうるせぇなったく。引っ越しか?それも悪くねぇな。環境を変えるっつぅのが人生変える上で大事なことだからよ。な。どっかの頭良いやつが言ってたよ。あぁ。

んだよ、もう少し左?いいよいいよ、どこでもよ。眠いんだよ、こっちは。ただあんまり激しくぶつけねぇでくれよ。体が痛くてかなわねぇ。もっと左?良いけどよ。ゲームし辛くならねぇか?大丈夫か?

いや、俺ぁ構わねぇ。たかがゲーム機だからよ。添え物みてぇなものだよ。あぁ。



もう少し寝させてもらうよ。



あいあい、おやすみ。


異変


容姿端麗、華奢だけど背が高く頭脳明晰。


なんだよ、こいつは。

おぃ、なんだよ。


アルバム!おぃ、アルバム!


なんだよ、このでけぇやつは。

てめぇよりでけぇじゃねぇか。あらぁ、まるでブオーンだね。山よりでけぇや。


おぃ!

おぃ!新入り!

その黒いやつだよ!

そう!てめぇだよ。これまたでけぇなてめぇは。なに?高いところから失礼します?良いんだよ良いんだよ、そんなことは。おめぇは何をする機械だ?プリンターか?それとも俺の外部拡張さんかぃ?

最近、物忘れも老眼も酷くてよ、ちょいと教えてくれねぇかぃ?

なんだよ、てめぇはよ?

なに?ゲーム機?

ちょちょちょ、家紋ロゴ見せてくれ。ZONY...。

お、おう、立派だなおぃ。


・・・俺と一緒の家紋してやがる・・・。


どこから来たんだ、てめぇは。アマゾン?そんな遠くから!?遠路はるばるだね、こりゃ。と、ところでその家紋は?

俺の弟分…。俺の…?弟分…?
ってぇと何かい?俺は兄ぃってことか?

それも違う?やめろやめろ。先代なんて呼ぶなよ、縁起でもねぇ。俺は裕哉の城代家老だ。なに?おもてを?上げてるよ。失礼なやつだね、自分が背が高ぇからって。なに?いや良いんだよ、そういうつもりじゃねぇならよ。俺もちょいと口が悪いとこがあるからな、気にしねぇでくれ。な。

ところでよ、何しに来たんだ?ここによ。ここの裕哉守ひろやのかみは俺一人で良いんだぞ。取り立てて困ってることもねぇし。な。ほかの場所行ってくれ。

なに?

てめぇが家老になる?ちょちょちょちょちょちょっとまて。俺がいるんだ。ここに家老は二機もいらねぇよ、な?アルバム?
なんでぇ、いつもならうなずくなりなんなりするのによ、聞こえないフリしやがる。まぁいいや。結局のところ実力よ。どうだい、自信あんのかい?
ある?そ、そうか。ちょっと見せてくれ。


・・・。


・・・。


すげぇな、おぃ!写真みてぇだよ。どうやったんだよ、今の。

おぃなんだよ今の、とんでもねぇ速さで動きやがった。

・・・。

・・・。

完璧じゃねぇかよ、記憶力もよ。さっきやったこと再現してやがる。どうなってやがんだよ。

俺なんか太刀打ちできねぇじゃねぇかよ。すげぇな、おい。


負け戦


おっ!裕哉が来やがったぞ。いくら綺麗で早くてもよ”信長の野望”の続きは俺にしかできねぇからな。おぃ、秘書メモリーカード、コントローラー!用意しろぃ。

なに?

電源、入らねぇ?


ぶわぁ!なんだよこのぬるい風は。


こいつ…動くぞ!


・・・。

裕哉のやつ、嬉しそうじゃねぇかよ。

・・・。

ちょいと、アルバムさん。裕哉のやつなにやってんだよ。え?
そうかぃ、”信長の野望”か。新しいやつみてぇだな。信長公、生きてやがる。

まぁ、仕方ねぇやな。あいつは腕も立つし頭も良い。それに背が高ぇ。平べったい俺が言うのもなんだけどよ、カッコいいんだよ。

あれだな、不思議と悔しくねぇもんだな。悲しくもねぇ。なんつぅか誇らしい気持ちだ。

アルバム!どうだ、裕哉のやつ。笑ってるか?

そうか。そうか。いや、良いんだ。笑っているならよ。


対話


新入りさんよ、俺ぁおめぇのこと嫌いでも好きでもねぇ。だからこそ言っとくことがあんだよ。いや、妬み嫉みじゃねぇよ、バカ野郎。なんとなくよ、伝えるべきだって気がしてよ。もう疲れて大きい声でねぇからよ、ちょっと近くまで来てくれよ。な。

そう、それでいい。悪かったな。呼び出しちまって。いや、本当に文句を言う訳じゃねぇから安心しな。大丈夫だよ、殴ったりしねぇからよ。

そりゃあおめぇが来た時よ、正直よ、正直ムカっ腹が立ったよ。コントローラーぶん投げて倒してやろうかと思った。おう、思った。だけどよ、裕哉の顔見てたらどうでも良くなったんだよそんなこと。あ、関係ねぇけど、おめぇのコントローラーはコードっつぅのねぇんだな。すげぇな。ほらうちのは四六時中こいつが付いて回るんだよ。使えねぇ野郎でよ。あはは。


違ぇんだ、俺が言いたいことは。

あのな。裕哉はほんの少し怒りっぽい。結構怒りっぽい。すごく怒りっぽい。めちゃくちゃ怒りっぽい。短気で少し難しい性格をしてる。だから正直叩かれたりする。けどよ、あいつも悪気があってしてるわけじゃねぇんだ。ほら、学校ってとこでよ、色々面倒くせぇことがあったらしくてよ、裕哉のやつ少し疲れてんだ。だからよ、もしそういうことがあったらよ、俺に免じて少しだけ許してやってくれねぇか?この通り。頼む。
ほいでよ、疲れてるからよ俺たちには馴染みのねぇ言葉だけどよ”心”っていう場所の充電が必要みてぇなんだよ。だからよ。さっきも言ったけど、少しだけ許してやってくれねぇか?ほいでよ、その心の充電をさせてやってくれねぇか?

分かってくれるか。そりゃよかった。いや、それだけだよ。俺が言いたいことはよ。ちょいと疲れちまった。久しぶりに喋ったからな。あはは。

悪ぃ。人のために動いてもねぇけど、先に休ませてもらうよ。

悪ぃな。


押入れにて


埃っぽくない場所


ぶへぇ。真っ暗だ。

誰かいねぇのか?

弦の切れたギター…。は、いねぇ。
カビくせぇアルバム…。も、いねぇ。

なんだかんだ言ってもよ、良い奴ばっかりだったな。


寄りかかってくんな!ってな怒ったけどよ、少し嬉しかったな。

今じゃ、真っ暗だ。もう目も見えねぇらしい。

年寄りだからな。仕方ねぇ。


ギターのやつ、嬉しそうに音鳴らしてたな。
アルバムの野郎、まん丸に太ってやがったな。
裕哉のやつ、大人っぽくなってやがったな。
後輩のやつ、かっこよかったな。


おーーーーーい。誰かいねぇのか?


ガサガサしてるやつで包まれて身動き一つ取れねぇ。
コントローラー!聞こえてるか?

あいつも疲れてたからな。〇が効かねぇって嘆いてた。

おめぇもお疲れ様だな。あはは。

一緒に冒険できて幸せだったよ。でっけぇ町作ったり、全国統一したり、レースしたり。な。ありがとよ。

秘書|《メモリーカード》がねぇってのも幸せだな。もう断片しか思い出せねぇ。それもほんの少しだ。もし全部覚えていたら、今もまだ待ってくれって叫んでたかも知れねぇな。あはは。



ありがとよ。

先代


やれること


後輩さんよ、俺の声、届いてるか?そうか。聞き取りにくいかも知れねぇが、ちょっとよ湿っぽいついでに聴いてくれよ。

あの豪鬼みてぇな顔の裕哉の父ちゃんな。あぁ、これは俺の一つだか二つ前だかの先代の頃の話なんだけどよ。

ありゃぁ、裕哉がまだ5つぐれぇの子ども時分かな。あの父ちゃんな、仕事から帰ってきて無言でご飯食ったらよ、多分、虫の居所が悪かったんだろうねぇ。バシっと先代の電源つけて、やっぱり”信長の野望”をやってたわけよ。ありゃぁ、血筋だね。あはは。
んでよ、いつもだったら1時間くらいで終わるけど、そっからいつまでやったと思う?なぁ。




ガタガタッ!!!



そう!正解!


明け方!


おいおい、隣の隣の部屋から返事しやがったよ、ギターの野郎。耳が良いんだな、あいつ。知らなかったぜ。

ギターの野郎は知ってるかも知れねぇけどよ、俺は後輩に話してんだよ。答え言うなってんだよ。タイミング良く音立てやがって。なにが”アケガタッ”だよ。近しい音を立てんじゃねぇって。打楽器かてめぇは。弦楽器だったら弦鳴らせってんだ、この野郎。


正解!じゃねぇよ、俺もよ。



また話が脱線しちまったよ。



そう、明け方までずーーーーーーーーーっとやってたんだよ。あの顔で?そう、あの顔で。あはは。チクるぞ、お前。って、コントローラー起きてたのか。あはは。まぁいいや。


明け方までずーーーーーーーーーっとゲーム。


先代もその時ばかりは熱い熱いってボヤいてたみてぇだ。


あの怖ぇ顔した父ちゃんもよ、仕事でヤなこととか、くだらねぇことあった時には先代で遊んでたんだとよ。


先代が言ってた。「俺たちは、たかがゲーム機なんだ。忘れんじゃねぇ。今を笑顔にすることしかできねぇ。何かの拍子で思い出したとしても”懐かしいね”で終わっちまう。だからこそ今を最高の笑顔にすんだよ。たかがゲーム機なんだよ、俺たちは。それ以上にはなれねぇ」ってな。


だけどよ、小さい頃から裕哉をみてるからよ、俺にも”情”ってもんが湧いてくんだよ。そりゃあ人間様の未来をどうこうなんてできやしねぇ。裕哉を学校に行かせることも、父ちゃんと完全に仲直りさせることもできやしねぇよ。人生観を変えてやるなんて大げさなことは言わねぇ。
だけどよ、この瞬間、この瞬間だけでも裕哉を笑顔にさせることはできんだよ。

なに、俺も言わねぇよ。たかがゲーム機だからよ。ほんの少し裕哉の役に立てただけで嬉しいぜ。だから俺も言わねぇ。

”されどゲーム機”なんて安っぽい偉そうなことはよ。

たかがゲーム機だからこそできることがあんだよ。

この瞬間だけでも笑顔にできんだよ。




例え忘れられちまってもよ。

俺ぁ、裕哉の笑顔が見れて、俺は幸せだ。

あぁ、幸せ者だ。


秘密


そうそう。

あの父ちゃんな、明け方まで”信長の野望”やって、ようやく終演(エンディング)したみてぇでよ。どうすっかなって思ったら裕哉のマザーに言ったみてぇだ。「みんなに見せるんだ」って。あはは。子どもらが起きてくるまで眠らず、ずぅぅぅっと待ってたみてぇだよ。んで結局眠らず出社。アホだねったく。

これにはさすがにマザーも呆れたみてぇだよ。「子どもね」ってマザーが先代に呟いたみてぇだ。



っでよ、まだ続きがあんだよ。子どもねって毒吐いたそのマザーも夕飯作るのそっちのけで”ドクターマリオ”やってたようだぜ。

子どもたちにご飯は?って言われて、「うわぁ!!!」慌てて先代の中のバイキンそのままで電源切ってたってよ、あはは。

ったく、裕哉怒ったり、俺を隠すんだったらよ、我がフリ直せってなもんよ。あはは。


充電


される者、尽きる者


結局よ。誰でもボーっとしたい時、ヤな時、くだらねぇ時、いろいろあるけどよ、そいつに合った心の充電方法があんじゃねぇかって思うわけよ。

それが俺みたいなゲーム機の場合もあるだろうし、ギターをつま弾くのも良いだろうし。おぅおぅ、もちろん写真を撮るんだっていい。なんだって良いんだよ。



そいつのやり方で充電できればよ。



親ってのは、まぁ親に限らずだけどよ。時間が経つとてめぇのことを忘れてくんだよ。あの時こうだったとか断片的には覚えてやがんのによ。こまけぇとこまでは覚えてねぇんだよ。
てめぇのことすら忘れてんのに、子どものことを知った気でいる。こんなおかしいことないね。子どもより立場が上だとよ。

思い出してほしいね。てめぇたちがよ、辛かった時、悔しかった時どうやって心の充電したんだよって。昔はゲーム機なんてなかっただろうから理解できねぇかも知れねぇ。その親の親の頃はTVすらなかったかも知れねぇ。その親の親の親の頃はラジオすらなかったかも知れねぇ。
時代は流れるんだよ。だからこそ思い出してほしいね、てめぇはどうやって乗り切ったのかをよ。それを”今”に置き換えて考えてほしいね。

辛気臭くなっちまうなったく。俺も年取ったってもんだ。

聞こえてるか、アルバム。お前の役割は将来の笑顔を作る事なんだよ。今すぐには裕哉を笑顔にできねぇ。それが悪いって言ってんじゃねぇよ。事実だ。だけど、裕哉が親になった時に裕哉のガキに伝えるんだよ。お前の父ちゃんな…って。

後輩、てめぇもよ、周りのみんな良い奴ばっかりだ。困った事あったら相談しなよ。俺ぁ、多分だけど、もうここにはいねぇよ。十中八九そうだ。

でも安心しな、てめぇの周りにも同じ気持ちのやつがいるからよ。


なんでかな。なんつぅか。悲しくねぇ。忘れられるのはちょいとチクチクくるけどよ。上手く言えねぇけど。俺ぁ、笑顔だ。



な。

終演


おぃ。


前が見えねぇよ、ここはよ。





また長ぇこと喋っちまったな。



年寄りは仕方ねぇやな。あはは。



まぁいいや。



少し眠るよ、俺はよ。




あいあい。




おやすみ。





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