原書感想文2 「비온 뒤 맑음」(雨過天青)
タイトル::"비온 뒤 맑음"
原題:「雨過天青:2016-2019有你一起走的婚姻平權攝影故事書」
”台湾に3週間留学する”という決定には複数の要素と偶然性が組み合わせがあった。しかし、その要素の中に台湾がアジアで初めて同性婚の法案が通過した国であることが含まれていることは疑いようがない。
台湾で同性婚法制化の流れ
台湾で同性婚の立法が本格的に水面上に出てきたのは2016年のことだ。同性婚支持を表明していた民進党の蔡英文が2016年1月に総統に就任した。それと時期を同じくして同性婚の法案を通過させるために5つのフェミニズム運動団体、性少数者権利団体が集まって「彩虹平權大平台」が作られる。この団体は以後同性婚法案を通過させるための社会運動の中心的役割を果たす。そしてこの本の著者でもある。
そんな中2016年10月16日、フランス国籍で台北居住、台湾大学の教授の畢安生が自殺するという事件が起きる。35年の年月一緒だった配偶者、曾敬超が癌で闘病する間治療を決定する権利が奪われ、配偶者の家族に最終的に家から追い出されるという背景があった。その事件を契機に同性婚法制化を求める声が高くなる。
そして2017年5月24日。大法官は、既存の民法は憲法第22条が保証する婚姻の自由、第7条の平等の原則に違反するという判決を下した。そして2年内に民法を改正する必要があると命じた。
しかし保守系の団体はこの判決を無効化するために2018年11月地方選と同時に同性婚、性的少数者の人権に反対する3つの案を発意し、国民投票されることになった。結果、保守系団体が提示した3つの案が賛成多数で通過した。
国民投票後、彩虹平權大平台を中心として憲法に違反する法律は不可能であるということを示し続けた。そして熾烈な闘争の末、2019年5月17日に特別法案が立法院を通過した。これにより台湾はアジアで初めて同性婚が法制化された国となった。
本書の内容
本書は特に2016年から2019年の運動・争いに焦点を当てて、台湾が同性婚を合法化した道筋について以下の3部にわけてまとめられている。
①写真、年表を中心にした2016年〜2019年の社会運動、動きについての記録
②この社会運動を推進してきた人物のインタビュー
(国会議員、行政委員長の秘書、同性愛者であり教会の牧師、同志父母愛心協會の設立者、俳優、婚姻平權大平台台南支部の代表の計7名)
③6つの団体の代表による座談会
以下、感想
「彼氏(彼女)いる?」もしくは「理想の異性のタイプは?」
生まれて以降、この異性愛に基づく質問を受け、自分も質問を投げかけてきた。そして、何千回とドラマやテレビで繰り返し繰り返し露出してきた。その環境下で性的少数者(またはLGBTQ)という単語の「少」という文字を必要以上に意識してきたように思えた。
一つ仮定の話をするならば、幼馴染が性的少数者で私(異性愛者、多分)にカミングアウトした場合、私は性の”多”数派として「どう受け止めてあげればいいか」という考えが最初に来るだろう。
この考え方は多数派が少数派を受け止めるというある種多数派、少数派という上下構造が存在する。もう少し乱暴に言うならば多数派という意識の中には自分が「普通」「正常」という意識が内面化されている状態だったと思う。
この正常というキーワードは本書の2部のインタビューで登場する。
各インタビュイー共通の質問をする。その一つに「正常というのは何か?」という質問がある。
法案立法の発端者となった許毓仁の答えが印象的だった。
この読書体験を通して、その内面化されていた「正常」「普通」という意識を外に出して認識した。そして「同性婚が法で保障されていない」という状態の暴力性、不平等さについての重み、深刻性が読了前に比べて格段と深く重く認識するようになった。
同性婚の権利自体が時代の変化によって"獲得"していくだと思っていた。けれど権利というもの自体が先にあって今の社会が不当にそれを奪っている。同性婚を求める運動(社会運動、人権運動というもの全般)はその権利を"取り戻す"ものなのだ。
台湾に滞在しているこの期間で"性的少数者の人権が保障されている"、"差別が少ない"等法制化や運動の影響を特別実感した経験をしたかと言われるとそうではない。それを知るための時間も知識も、意志も足りなかっ思う。この本を基点にしてこれからも継続して学んでいきたい。