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ニーチェ「永劫回帰」の数学的誤謬(あるいは円周率と乱数の関係)


昔、ニーチェをよく読んだ

先日、ベンサム「功利主義(最大多数の最大幸福)」について、数学的誤謬を示したので、今度はニーチェいこ、ニーチェ
ニーチェって誰やねん、って人も多いと思うので、簡単に説明する……のが面倒くさいので、以下だけ抑えておこう。

・「キリスト教すげえ!」と大勢が信じている時代のドイツの人(1844年産まれ)
・まさかの「キリスト教はクソだわ」と言い始めた
・代表作とされる(私は嫌いだが)『ツァラトゥストラはこう言った』において、「神は死んだ!」と宣言した
・学者としては異端で、当時の評判は悪かった
・1900年に死亡、つまり「19世紀の人」だが、あまりにも思想内容が現代的であるため、「20世紀の哲学者」とも言われる
・現代では「ニーチェ『権力への意志』くらい理解していないと、思想家としてお話にならない」とされるくらいの偉人

ちなみにニーチェを読んでみたいという人は、以下におススメを挙げる。
一番やってはいけないのは「ニーチェの解説書を読むこと」。
相当読み込んでる私からして、「はぁ?」ってのがけっこうな頻度である。
ニーチェはわかりやすいので普通に読むべし。

なお、それぞれ訳者が違っていて、私が一番のおすすめを書いている。
『善悪の彼岸』(岩波文庫)
『道徳の系譜』(岩波文庫)
『権力への意志(上)』(ちくま学芸文庫)
『権力への意志(下)』(ちくま学芸文庫)

閑話休題。

面白いのは、「現世」の不快や苦痛から目を逸らし、今頑張れば「来世」では報われるのだ、というキリスト教的な教え「何現実から目逸らしとんねん、それはお前が目の前の苦痛から逃げて、信じたいだけやろ」「お前みたいな奴隷どもの貧弱な願望はその程度だわクソが。貴族はもっと優れてるわ」といった挑発的な思想をしたところ。
ニーチェは、こういう「本来の価値(健康であること、神の世界ではなく現実の世界であること、自分で物事の価値を決められる強者であること)」に対する怨念のことを「ルサンチマン」と呼び、「自分は信心深いから、強者であるあいつよりも来世では成功するんだ」みたいな「理想」を持っている人を徹底的にたたいた。

私がニーチェ好きなのは、同じように現代日本の道徳がクソみたいに矛盾していて、弱者が強者にたてつくための武器として醜く使われている場面を取り上げ、本にまとめているから。ニーチェと通ずる部分がある。

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また、同じく麻雀戦術については、過去には「場の運を読む」「ツキの奪い合いのゲームだ」「攻撃するかどうかは、流れを読んで判断する」といった愚かしい思考が21世紀になっても蔓延していたところ、私が『科学する麻雀』という本で、「そんなん全部ウソやん」「ていうか頭大丈夫?」と統計データで示し、シミュレーション等を駆使して麻雀の「科学的研究」をしたのもちょっと似ている(その後、その研究成果で東京大学の講師等もした)。

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置いといて、永劫回帰

系譜学的な分析に基づき、「キリスト教から目を覚ませ!」と言ったニーチェだったが、その理屈を補強するために、だんだん怪しい方向に走っていく。
「超人」とか「永劫回帰」とかそういう概念に。
今回はそのうち「永劫回帰」が「数学的に間違っている」ことを実際の数字(数学というほど高度じゃない)で示してみたい。
それも、単に示すのではなく、「円周率(の小数部分)と、乱数で発生させる数字列の違い」みたいな、ちょっとパズルチックな話とからめて、いい具合にな!

はい、永劫回帰の考え方。
「世の中の今の状態は、時間が無限に続くうちに、何度も何度も繰り返される。」
意味わかる?
今あなたほら、こうPCかスマホかでこのnoteを見てますよね。
場所は……島根県と見た!
あってる!? ねえ当たってる!?(うざい)
ともかく、日本が令和になって、こうやって私が文章書いて、その結果を何気なく電車の中で見てるその状態、それと全く同じ状態が、無限回繰り返される、という考えです。

なんやねんその宗教(実はちょっと物理学的)

何いうとんねん、というのは少し待って欲しい。
実は意外にも説得力がある。
ニーチェ『権力への意志』には、次のような一文がある。

物理学におけるエネルギー保存の法則は、永劫回帰を要請する。

この一文を初めて見た時、私は膝を打ったが、知らない人はまだわからんよな(´ω`*)
その当時といえば、ニュートン力学の時代で、世の中の全ての物質の状態やエネルギーがわかっていて、ちゃんと計算すれば、次の瞬間や未来の状態が全部確実に予想できる、と信じられていた時代なのよ。それで、時間というのは一方向に無限に進むと思われていた。

例えば世の中に、2つだけ天体があって、各々が「万有引力」で引っ張り合いつつ、グルグルと回っているとする。

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※ごめん、図が汚いのは、皆さまのせいです。

これだと、当時の物理学的な知見で言えば、(摩擦とかがない限り)「永久に同じ動きをする」というわけだね。ちょうど、太陽の周りを、地球や惑星がずーーっと回っているように。
ふむふむ。
これを、宇宙中の全てのモノに当てはめたら、結局、「今の状態」が出現したということは、その後無限に時間が過ぎていくうちに、(上の図がそうであるように)またいつかは、「今の状態と完全に同じ状態」が出現するよね、と考えたのですね。そして、「2度あることは(その考えなら厳密に)3度ある」し、なんなら無限にあるだろうがよ、とニーチェさんは思ったんです。

だからこれを「永劫回帰」と呼ぶんや! ワイは呼ぶんや!と言った。
これだけだと、ほう、と思うかもしれないけど、実はさっき説明した「来世が来て幸せになる」と信じているお花畑たちに、「いやいや、お前らの今の苦しみは永久に何度も来るから。来世とかないから。頑張れよ。目を逸らすのではなく、今を生きろよカス」と突きつけたというわけだ。
ひどい……。゚(゚´Д`゚)゚。

循環する宇宙、循環小数

この永劫回帰を、小数に置き換えて考えてみよう。
例えば、

1234÷555=2.2234234234234……

となり、小数部分の「234」が永久に続く
一度出てきた数字の組み合わせが、何度も何度も、永久に出てくるということだ。宇宙の状態と対応させると、今は「3」にいて、少しすると「4」になるが、結局「2」を経由して、また「3」という状態に戻ってくるイメージだ。
Oh、永劫回帰!
ニーチェさんはこんな感じのイメージを持っていたのかもしれない。

だが待てよ、私の数学の記憶によると、循環小数で表せるものは、有理数に限られていたはずだぞ。有理数が何かとかはググったりしてほしいわksがってなるけど、有理数でない数、無理数は、循環小数に表せないんだよ。

例えば「π(円周率)」。
π=3.141592653589793238462643383279……
と続いていくのだけど、「循環しない(かつ、無限に続く)ことが証明されている」。
あ、はいはーい! 私円周率、50桁くらいまで覚えてまーす!
この自慢、合コンでやるとこっちが引くくらいドン引きされるから注意な!

ということは、もしかして、宇宙が「循環小数」なのだとすれば、永劫回帰は成り立つとしても、「循環しない小数=無理数」なら、永劫回帰はしないということになる。
先ほどの説明だと、小数点の1桁だけの数字で、宇宙の状態を表していたから、確かに「πの中に『1』は何度も出てくるじゃない」と思うかもしれないけど、実際には宇宙の状態はもっとたくさんの数字の組み合わせになるはずで、それがどんな数字であるにせよ、「π」の小数部分の中に何回現れるのかは「わからない」のだ。

ん、でも「無限に桁が続くなら、いつかは同じ数字列が混ざってくるのじゃないか」と思った?

そうはいかんざき!(どんだけ古いねん。てか、誰がこのネタわかるねん)

例えば、円周率の中に「9999999999」が出てくることは、既に発見されている。円周率の「任意の1桁の数字」は、幸いに計算する方法があるので、ずーっとコンピュータ計算で調べていけば、時々そういう「珍しい(ように見える)」数字の列が現れる
だけど、この数字の列が「無限回現れる」とは、全然言い切れない
ひょっとしたら円周率が、途中のある桁から、0と1と2の組み合わせのみで(循環せずに)表せるような状況に突入かもしれないし、しないかもしれない。無限に桁が続くから、無限時間計算してみないと、そうなるかどうか、わからない。そして時間は有限だから、わからないということがわかる。

結局、永劫回帰(宇宙が今と全く同じ状態を繰り返し)するのか

まず、結論だけ書こう。
きっと、しない。

仮にするとしても、することを確かめる方法がないことを数学的に示せる。
それについての、割とパズルチックなお話と、ついでに「乱数」と「定数(円周率)」との関係などに触れていきたい。
もし宇宙の移り変わりが「乱数」だとすれば、(無限時間というものがあるとしたら)永劫回帰する。
「定数」だとすれば、なかなかわからない。

そのあたりについて、以下は有料記事で。「乱数」を作成するためにサイコロを買ってくる必要があるため(必要経費)、有料としております!
お読みいただき、ありがとうございました!(=´∀`)人(´∀`=)

「乱数」だったら、永劫回帰するのか

「乱数」だと、話は変わってくる。
例えば10面あるサイコロで、0~9のいずれかがランダムに出るサイコロを用意する。

サイコロを振って、小数点以下の任意の場所を適当に決めてやると、例えばだけど、
999999になる(9が6回連続する)確率は、(1/10)^6だ。
百万分の1でしか起きない珍しいことだけど、逆に言えば無限回やっていれば、「必ず999999は、何度も無限回現れる」わけだな!
どんなに長い、小さな確率のものでも、これは同じだ。
9がn回連続する確率は、(1/10)^nと書ける。

数式アレルギーの人は読み飛ばすか、借金を踏み倒すか、落ち着くためにお茶でも用意して床にぶちまけてそれでも落ち着くくらいの気持ちでいてくれ。

とにかく、(1/10)^nで起きる確率の事象が、無限回サイコロを振る中で、1度でも出る確率は、次のように計算できる。

lim(k→∞)[1-{1-(1/10)^n}^k]
見にくいので、p=(1/10)^nを(0,1]の任意の数字(0ではないが小さい確率で起きるという意味)として、
lim(k→∞)[1-{1-p}^k]
ここで、pは0より大きく1以下の数字であるから、{1-p}は0以上1未満の数字である。
すると、
lim(k→∞)[1-{1-p}^k]において、kが無限大において、{1-p}^k=0となる。
つまり、結論として、最初の式の答えは、
1
である。

(1/10)^n
でしか起きない、nがすごくでかい数字の場合滅多に起きないことでも、サイコロを無限に振っていれば、1度は必ず出るのである。もうちょっと言うと、無限回出るのである(その計算式は省略)。

つまり、「乱数」だと、確かに、永劫回帰するのだ。

「乱数」と「定数」について

当たり前のことを今さらだが、π(円周率)は、「定数」だ。
正円の、直径の長さに対する円周の長さの比的なやつ(どうでもいいので各自で考えて。「円周の長さ=2π×(半径の長さ)」から)だ。

そうすると、それが適当な「乱数」であるわけがないのはわかるよね。
決まった値でしょう。
だから、適当にサイコロを振って、円周率の桁が決まるのではない。
3.1415926……までは、もう確定しているわけで、サイコロの振りようがない。
これは円周率だけに限らない。
循環するものも、しないものも、ある決定論的な計算式によって作られる数字の列は、その作り方が同じである限り、「乱数」とは違う。
ルート2とかもそう。eとかもそう。
なんなら1という整数も、1.00000000……という無限小数で表せるけど、この中に「9」とか急に出てきたりしないよね。
定数は定数、乱数は乱数。

ひるがえって、今われわれの宇宙の状態は、果たして「循環小数の中の1状態」なのか、「乱数の中の1状態」なのか、はたまた「循環しない定数の中の1状態」なのかにより、永劫回帰するか否かが決まる(古典的な認識では)ということになる。

では、今の宇宙がそのうちどれなのかを、観測等によって把握できるだろうか。具体的に、小数点以下で「12334567890」というのが、「今の宇宙の状態」をちょうど表しているとしよう。

まず、循環小数の場合で、何かの計算で「1234567890が何度も出てくる」ような式を作れれば、永劫回帰するぅぅぅ!
もちろん、サイコロを振りまくる場合だって、永劫回帰だ!!
だが、π(円周率)の中だと、これが何回登場するかわからないので、「永劫回帰絶対するよ」とは言えない。

永劫回帰しないユニークな宇宙を創る

もっと操作的に、「循環しない無限小数であるが、1度だけ『1234567890』が登場する小数」を創り出すこともできる。
それは次の方法による。
特定の数字列を、以下の方法によって作成する。

STEP1:ベース数字列を作る
 整数部分は1とする。
 小数点第1位~2位の2桁を01とする。
 続く3桁を001とする。
 同様に、特定の桁からn桁続いた次のn+1桁は、「0をn個並べたあと、1を1つ加えた数字列」とする
 これにより、1. 01 001 0001 00001 000001 ……
という、循環しない数字列を無限に作成できる

STEP2:ベース数字列の小数部の任意の1の後ろに、「1234567890」を挿入する
 1. 01 001 0001 00001 1234567890 000001……
 これは別にどこでも良い。

以上で作られた数字列を単なる無限小数と見なした時、
・作成手順の定義から、これは「循環しない」
・循環しないが、「現在の宇宙の状態」である「1234567890」は登場する
・「1234567890」の宇宙にいるわれわれが、宇宙の作成方法がこの手順であったのか、それとも例えばただの循環小数だったのか乱数で決まったのかを判別することは、作成方法自体を知っている以外の場合で、原理的にできない

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