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『800 TWO LAP RUNNERS(川島誠/角川文庫)』、読了。

 中沢と、広瀬。対照的な二人が、走り、恋をする。
その競技は、陸上の800m走。

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 全力で走り切れば良い、というほど短くはなく、
ペース配分を考えて脱落せずに乗り切れば良い、というほど長くはない。
 一周400mのトラック、二本の直線と二本の半円。
 そんな800m走という種目は、性格も家庭環境も、好きになる相手も異なる二人の象徴として、観客が見守る”すり鉢”型の競技場のように、ドラマの舞台となっていました。

 >ぼくが、今日は学校サボっちゃおうかな、と言ったら、簡単に山口は賛成した。

 『本の雑誌』で、馳星周が評していたように、中3から始まる話にしては、セックスの話題が多くて、ちょっと笑っちゃうんですが(※女性の性欲を否定するほど、年寄りでもミソジニーでもありませんが、「とにかく、君ら、むちゃくちゃ決断早いな!」とは思いましたw)、それは、この話には必要な要素で、走る話だけれど、走るシーンばかりでは、嘘くさくなってしまう高校生らしさを保つ、そんな役割を果たしていました。

 環境も性格も違っても、二人は高校生なので、
太った奴、ダサい奴、大人、自分以外の子供、を、バカにしていて、
その癖、自分自身のことすら、もう中学生(ガキ)じゃないと、
枠の中に収めて、”わかってるぼく/俺”を気取っています。
 けれど、そんな彼らが、お互いや、
女の子たち(もちろん!)によって、時には、
見下していた、他人たちすら、背景があることに気が付き、見直し、
少しずつ、世界が広がり、それに連れ、
思っていなかった自身の側面にも、気が付いていく。
 ええ、これは、やっぱり、青春小説でした。

 余談:
 形容詞に一つすらこだわって、作品(というよりは、作者)を、掲揚/形容しておきながら、最後の一文で、見事に突き落とす、
江國香織の解説も、なかなかの、名文でしたので、
そちらも、忘れずに、ご一読ください。

 終わり。

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