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文学作品を読んで感じたこと書いています。少しでもその作品に興味を持っていただけたら嬉し…

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文学作品を読んで感じたこと書いています。少しでもその作品に興味を持っていただけたら嬉しいです。

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「戦争と平和」5️⃣ 第四部 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文

引用はじめ 「あの恐ろしい殺人を見たときから、ピエールの心のなかで、すべてを支え、命あるもののように見せていたバネが、まるで急に引き抜かれすべてがくずれ落ちて、無意味なゴミの山になってしまったようだった」(岩波文庫 五巻p.365) 引用終わり 自分の命すらどうにもならず、その行方を握っているのはフランス軍、そんな彼らすら望んでいなかった恐ろしい捕虜の処刑が目の前で行われたのだ。 捕虜となったピエールが、この緊張の一刹那に体験し、目撃した現実は、彼のあらゆる信仰を消し去

    • 「戦争と平和」5️⃣ 第三部  第三篇 トルストイ 感想文

      今しなければならないこと、今自分が出来ることは何か。 戦争という最大の窮地に追い込まれた時、果たして自分は感情的にならずに、必要なことを瞬時に判断し行動できる人間でいられるのだろうかと考えさせられた。 ボロジノ戦の後、戦わずして軍がモスクワを退却するということは、ロシア人だったら父祖の中にも潜んでいた感覚をもとに予言できた、と書かれてあった。 「一番苦しい時にしなければならないことを発見する力が自分の中にあるのを感じながら、落ち着き払って運命を待ち受けていた」(岩波文庫

      • 「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第二篇 トルストイ 感想文

        苦しみ抜いた挙句、見えてくるものがあるのだと思う。 この篇の登場人物達の苦しみの先にあった深い気づきと理解を感じた。 1812年、ナポレオンがモスクワに侵攻してくる8月(旧暦)、ボロジノの戦いは26日に迫った。 死を目前に予感しなから、その戦争の苦しみと、更に個々の人間の内面には幾つもの悲しみを抱えていた。 今、この時点でも多くの人がそうであるように。 マリアは、父、ボルコンスキー老公爵の死の深い悲しみと、領地の農民の反動に苦しみ道を閉ざされていた。 運命のようなニコライ

        • 「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第一篇 トルストイ 感想文

          「だれでも人間のなかには二面の生がある。その利害が抽象的であればあるほど、自由が多くなる個人的な生と、人間があらかじめ定められた法則を必然的に果たしている、不可抗力的な、群衆的な生である」(岩波文庫 四巻 p.24) 1812年、6月12日、ナポレオンの大軍がロシアに侵入し、いよいよ戦火を交える日も近い。 クレムリンにアレクサンドル皇帝を迎えた時のロシアの人々の熱狂ぶりが、不可抗力的に戦争に呑み込まれていく群集の凄まじい恐ろしい姿として想像させられた。 ナポレオンが、自ら

        「戦争と平和」5️⃣ 第四部 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文

        • 「戦争と平和」5️⃣ 第三部  第三篇 トルストイ 感想文

        • 「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第二篇 トルストイ 感想文

        • 「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第一篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第五篇 トルストイ 感想文

          生きるのに夢中で、とても綺麗なのにそれに気づいていない人がいる。そんな人がとても魅力的に見える瞬間がある。 若い頃、「自分の容姿を髪型に頼りたくない」と言って丸坊主にしてきた会社の同期の男性がいた。「なるほど潔し!」と思ったことを思い出した。 第五篇では、社交界を舞台に己の美しさに酔い、それを手段に人を騙していく、クラーギン家の兄(アナトール)と妹(ピエールの妻、エレン)の作り込んだ美しさに胸が閊(つか)えた。 アンドレイの求婚と、言い寄ってきたアナトールへの、「愛」らし

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第五篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第三篇 第四篇 トルストイ 感想文

          「有為転変(ういてんぺん)」p.64 「世の中のものが絶えず変化して、しばらくの間も同じ状態にとどまることがない」、という意味であることを知った。 ピエールの心の指針となっているバズデーエフ老人が語った「自分自身の完成」の三つの目的を伝えたえた言葉の中にあった。 「有為転変こそが人生のはかなさを教える」p.64 三、四篇を読み終えて、つくづくこの言葉を感じてしまった。 それぞれの登場人物に、流動的に変化していく苦難。 幸福を見つけても隙間なく難題が押し寄せてきて留まる

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第三篇 第四篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 2️⃣ 第二部 第一篇 第二篇 トルストイ感想文

          「自分の立場からすれば正しかった」(岩波文庫 2巻 p.312) 人はその時の立場でしか判断する術を持たず、思いもかけない感情の爆発を止められないまま、人生をも揺るがす行動を起こしてしまう瞬間があるのだ。それが若気の過ちであっても。 主人公のピエール・べズーホフが妻エレンの不貞の相手、ドーロホフに決闘を突きつけ、結果、相手を傷つけ、自分も人生最大の心の傷を負ってしまった。何の確信もないままに。性格の弱い受け身で人のいいピエールが、予想通り爆発してしまった瞬間を思った。

          「戦争と平和」 2️⃣ 第二部 第一篇 第二篇 トルストイ感想文

          「戦争と平和」 2️⃣ 第一部 第三篇  トルストイ 感想文

          べズーホフ老公爵からの莫大な財産相続により、何処の馬の骨とも知れない男と思われていたピエールが、突然社交界の主役のような存在になる。 一変した周りの人間の愚かさは恐るべきものだ。その人達の褒め言葉に、自分が優れていて頭が良いと本気で信じ込むピエールの姿がとても哀れに思われた。 自分の意思とは別に、抜け出せない運命を背負ってしまう。 「その恐ろしい一歩を踏み出すことを考えただけで、彼は何かわけのわからない恐怖にとらえられるのであった」 岩波文庫(p.38) もはやこれは運命

          「戦争と平和」 2️⃣ 第一部 第三篇  トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 1️⃣ 第一部 第二篇 トルストイ 感想文

          第二篇を読み終えて、まず軍隊の組織、連隊の見分け方、立場、階級に戸惑った。 印象に残った人物がどんな階級と立場だったのか、どんな戦略の中にいたのか、その行動と流れを何度か読み返してみて理解出来てくると作品がますます厚みを増して来た。 重要な人物、魅力ある人の配置がバランスよく描かれていて、考え抜かれた作品であると感じた。 ナポレオンの侵攻に、シェングラーベンの戦闘で総司令官クトゥーゾフの副官として功績を上げるアンドレイであるが、その勝利も、迫って来るナポレオンの前に薄れてい

          「戦争と平和」 1️⃣ 第一部 第二篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 1️⃣ 第一部 第一篇 トルストイ 感想文

          世界文学史に残るような偉大な長編をを果たして通読できるものか。 不安をよそに読んでみるとても読みやすく面白い。なんとか全六巻行けるかもしれないと今は思っている。 ナポレオンがフランスの皇帝になり、ロシアもナポレオンと戦う少し前、既にペテルブルグに宣戦布告の詔勅が出ていた1805年、刹那の平和を楽しむような名門の集まるパーティーから始まる。 体裁と利得を求める下心と、虚飾に満ちた上流階級の人々中にも、誰かの役に立ちたいという思いや良心も見えてくる。その人間の心の動きを細かく

          「戦争と平和」 1️⃣ 第一部 第一篇 トルストイ 感想文

          「毛眼鏡の歌」 川端康成  感想文

          艶のある女の黒髪、その美しさも一たび身体から離れると、何となく気持ちの悪い不衛生なものに感じてしまうのはなぜだろう。 愛しい人、「きみ子」の黒髪をくずかごから取り出し、その内の「八本の黒髪」を、その地できみ子が触れ、そして生きていた証しのような八箇所の場所に結びつけて行くという少々不気味な、そして切ないような男の姿が描かれていた。 髪を頬につけたり、匂いを嗅いだり、女性から見たら居た堪れな行いが少々気色悪く感じられたが。 幻想と実在とが交錯するような不思議な世界に最初は

          「毛眼鏡の歌」 川端康成  感想文

          「文鳥」 夏目漱石 感想文

          「その日は一日淋しいペンの音を聞いて暮した」(青空文庫) 部屋の中に音がない、読みながら所々に淋しげな悲しさを感じたのは何故だろう。 小説家とは、日がな一日書き続けなければならないという苦しくも孤独な労の上に成り立っているのだと思った。 「伽藍のような書斎 」という響きが寒寒としていて、ひっそり広々と何もなさそうなその部屋に、いつか文鳥がやってきた。 最初に、「鳥を御飼いなさい」という三重吉に渡した五円札は、きっとその時、三重吉が気になっていた文鳥のような女への一時凌

          「文鳥」 夏目漱石 感想文

          「怒りの葡萄」 下巻    スタインベック 感想文

          此れ程辛いことに人は耐えていかねばならなかったのか。大きな力とはいえ、人が人を無闇に苦しめることは許されないのではないか。 下巻にはそれら過酷な状態の解決はなかったが、心の救いがあちこちから感じ取れたのだ。 荷物の重さと心の傷の重荷を抱えた人たちを乗せて、ジョード家族の車は仕事を探しながら彷徨っていた。 「疲れるまで力仕事をすることだけが望みなんだ」p,27と元伝道師のケイシーは、人の為に動ける機会を静かに窺(うかが)っていた。 野営地の飢えた子に、お母の最後のシチュ

          「怒りの葡萄」 下巻    スタインベック 感想文

          「橡の花」 梶井基次郎   感想文

          梶井基次郎の作品を読むと、健康であればそれに寄りかかって見逃してしまうような人間の繊細な機微を、よく見つけ出し観察し表現していて、とても気付かされることが多い。 疲労や頭痛、また天候のせいで体調が悪くなったりすると、確かにテレビで見たくない顔の芸人がいたりする。元気な時は何でも無いのに。 その不愉快さと憂鬱さが際限なく押し寄せてくる苦しさから逃れるために、自然や人を観察し、何かを発見していくことで精神が転換されていくような、無意識の能力が身についているのだと思う。 そして

          「橡の花」 梶井基次郎   感想文

          「風の便り」 太宰治 感想文

          引用はじめ 「君の二通の手紙は、君の作品に較べて、ひどく劣っています。自分がもし君のあの手紙だけを読んで君の作品に接していなかったら自分は君に返事を書かなかったろうと思います」(p.260 新潮文庫) 引用終わり それほど失礼な手紙がだったのだ。 しかし、その手紙の主が書いた小説の底に流れるしっかりした思想を読み取って期待していたのも、手紙を受け取った作家であった。 「自分に根強い思想があるのに自覚していない」と彼はのちに指摘した。 全集を三種類も出している作家「井

          「風の便り」 太宰治 感想文

          「杯」 森鷗外 感想文

          夏の朝、「清冽な泉」のそばで起こった出来事を、ちょっとだけ離れたところから、そっと語り手が眺めているというお話である。 朝靄と湧き出る泉、「万斛(ばんこく)の玉を転ばすような音」(p.8)、と谷川の豊かな水量を思わせる表現が美しく、涼やかな夏の朝の空気が伝わるようでとても気持ちがいい。 お揃いの真っ赤なリボンをした七人の娘たち。 「この七顆の珊瑚の珠を貫くのはなんの緒か」(p.9) 連なる赤い珠がどこから来たのか、文章の美しさがとても際立っていた。 澄みきった泉の水はき

          「杯」 森鷗外 感想文