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文学作品を読んで感じたこと書いています。少しでもその作品に興味を持っていただけたら嬉し…

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文学作品を読んで感じたこと書いています。少しでもその作品に興味を持っていただけたら嬉しいです。

最近の記事

「トム•ソーヤーの冒険」 マーク・トウェイン 感想文

あのトム・ソーヤーだからきっと速く読めるだろうと高をくくっていた。しかし大人が読む小説でもあった。全三十五章と「結び」、思いの外時間がかかってしまい、一日空いていた昨日、130ページ以上を一気に読めたのは、すごく面白かったからだ。 灯(あかり)がまだ蝋燭の頃、1840年代ミズーリ州のセント・ピーターズバーグの小さな村の悪戯小僧たちの冒険小説。 スマホのない時代、全てが彼らには謎、自力でその意味を見つけ探り答えを出そうとする姿がとてもいい。 ゲームもおもちゃもない世界、自分で

    • 「書記バートルビー」  メルヴィル  感想文

      「今のは空耳だったんだ」(光文社古典新訳文庫 p.31) 以前、問題ある後輩に「なぜそんな嘘をつくの?」と聞いたことがあった。 そして彼女は、「私は気にしませんから」と答えた。 一瞬これは夢なのかと、今立っている場所がどこなのかわからなくなるような、思いもよらない言葉に茫然自失したことがあった。 1850年代、法律事務所で書類を写す仕事、法律筆耕人バートルビーという男を、弁護士であり雇い主「私」の目線で語っている。 そして期待していた書記バートルビーに仕事で頼み事をすると

      • 「ヴェニスに死す」 トーマス・マン   感想文

        「神に近い美しさ」を持つ十四歳の少年を追い回す初老の男。 小説を読む前に見た映画では、その印象ばかりが目についた。 そして小説を読んで、もう一度見た映画では、主人公アッシェンバッハの求めていたものが、細かく見えたような気がした。 威厳ある作家となり名誉も与えられているアッシェンバッハでも、執筆に行き詰まる。 完璧を求めるようなその性格は、祖先たちのつつましい生き方、規律を守る気質を受け継ぐという束縛の中で、「こらえとおせ」、という言葉が響くのだろう。 更にボヘミアの官能的

        • 「ヒロシマ・ノート」 大江健三郎  感想文

          「平和運動」に参加し演説している大江健三郎の姿は、その運動の真の意味を知らない私のような者にとって政治的な偏りを感じさせるものだった。 今回「ヒロシマ・ノート」を読み、その偏りが払拭された。広島、原爆、被爆者について、最も根源的なものを追求しいるその姿を、このルポルタージュで読みとった。 彼は被曝された一人ひとりを根気よく見つめ、深く心の内を考え、被爆してない人間に何が出来るのかを必死に踠きながら探し続けているようだった。 引用はじめ 「自分が他人の自殺を静止する資格

        「トム•ソーヤーの冒険」 マーク・トウェイン 感想文

        • 「書記バートルビー」  メルヴィル  感想文

        • 「ヴェニスに死す」 トーマス・マン   感想文

        • 「ヒロシマ・ノート」 大江健三郎  感想文

          「肉体の悪魔」 ラディゲ  感想文

          二十歳で亡くなったラディゲは、その短い生涯に、喜びも悲しみも一生分の経験をして、そして逝ってしまったのだと読み終えて思った。 もし彼が五十を越えるまで生きたとしたら、この体験が自らのものであれば、その悔いはどのようなものだったのだろう。あくまでも、この作品は自叙伝ではないと明言する必要があったのかもしれない。 大人になっていたら、きっと書けなかっただろう剥き出しの文章は、率直で正直で、世間を意識しない自由な目線がとても新鮮だったが、あまりのお戯に読んでいて少々疲弊した。

          「肉体の悪魔」 ラディゲ  感想文

          「海の沈黙」  ヴェルコール 感想文

          愛する祖国を破壊している敵が、自らの生活圏に入り込んで来ることなど、到底想像もつかないことだ。 この小説はそんな予想外の出来事から始まる。 1940年にナチス・ドイツがフランスを占領した。 1941年11月、「接収」というのではなく、ただ、二階にドイツ軍の将校が六ヶ月滞在するという、これはもう驚くべき事件である。 ノルマンディー上陸作戦までのフランス国の苦悩を思った。 「沈黙」によって、緊張と拒否と抵抗を表していたこの家の住民であるフランス人の老人とその姪。 彼らの心が

          「海の沈黙」  ヴェルコール 感想文

          「壁」 安部公房 感想文

          あれ、これって何だろう⁉️ 初めて「千と千尋の神隠し」を見た時と同じ感じだった。最初、全く入り込めなくて、子供の心を忘れてしまったのかと思った。 先入観と思い込みで出来ている 私の頭の中では、読み始めから全くわからない、頭のどこかを解放しなければと焦った。 始めの印象は、カフカの「変身」にかなり似た感覚があった。 しかし読むうちに違っていた。明るいのに暗い。「変身」より更に奇妙! 何とか理解しようと意味を考えると、ますますわからなくなって行く。「意味」から少し離れよう

          「壁」 安部公房 感想文

          「戦争と平和」 6️⃣ エピローグ 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」六巻 エピローグ 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文 今こうしているに時にも、爆撃されている国で、苦しむ人々がいるという現実に心痛む日々が続いている。 まさに撃ち込むその瞬間、「これは何のためなのか?」と問い続ける人々が必ずいるはずだ。 「行為が私だけにかかわるものなら、すぐにその行為を行うことも、行わないこともできる」 (岩波文庫、六巻 p.475.476) 前線に立った時、連隊の動きに従わずにはいられない、みんなが逃げると逃げずにはいられない、と作

          「戦争と平和」 6️⃣ エピローグ 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 6️⃣ 第四部 第三篇 第四篇 トルストイ 感想文

          心配していた五百人以上の登場人物達は、それぞれが印象的で個性豊かで、その細やかな表現や描写にとても助けられ、私の記憶のどこかにかろうじて留まっていて、その都度何とか思い出しながら読むことが出来た。 主要な人物は限定されていて、想像よりも理解しやすかった。 主人公ピエールが、農民的、民衆的気質のプラトン・カラターエフによって、抑圧されていた心、精神が解放されていく経緯がとても心に刻まれた。 字も読めない男(後にナターシャにそう言う)、素朴で純粋なプラトンがピエールを再生させ

          「戦争と平和」 6️⃣ 第四部 第三篇 第四篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」5️⃣ 第四部 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文

          引用はじめ 「あの恐ろしい殺人を見たときから、ピエールの心のなかで、すべてを支え、命あるもののように見せていたバネが、まるで急に引き抜かれすべてがくずれ落ちて、無意味なゴミの山になってしまったようだった」(岩波文庫 五巻p.365) 引用終わり 自分の命すらどうにもならず、その行方を握っているのはフランス軍、そんな彼らすら望んでいなかった恐ろしい捕虜の処刑が目の前で行われたのだ。 捕虜となったピエールが、この緊張の一刹那に体験し、目撃した現実は、彼のあらゆる信仰を消し去

          「戦争と平和」5️⃣ 第四部 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」5️⃣ 第三部  第三篇 トルストイ 感想文

          今しなければならないこと、今自分が出来ることは何か。 戦争という最大の窮地に追い込まれた時、果たして自分は感情的にならずに、必要なことを瞬時に判断し行動できる人間でいられるのだろうかと考えさせられた。 ボロジノ戦の後、戦わずして軍がモスクワを退却するということは、ロシア人だったら父祖の中にも潜んでいた感覚をもとに予言できた、と書かれてあった。 「一番苦しい時にしなければならないことを発見する力が自分の中にあるのを感じながら、落ち着き払って運命を待ち受けていた」(岩波文庫

          「戦争と平和」5️⃣ 第三部  第三篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第二篇 トルストイ 感想文

          苦しみ抜いた挙句、見えてくるものがあるのだと思う。 この篇の登場人物達の苦しみの先にあった深い気づきと理解を感じた。 1812年、ナポレオンがモスクワに侵攻してくる8月(旧暦)、ボロジノの戦いは26日に迫った。 死を目前に予感しなから、その戦争の苦しみと、更に個々の人間の内面には幾つもの悲しみを抱えていた。 今、この時点でも多くの人がそうであるように。 マリアは、父、ボルコンスキー老公爵の死の深い悲しみと、領地の農民の反動に苦しみ道を閉ざされていた。 運命のようなニコライ

          「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第二篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第一篇 トルストイ 感想文

          「だれでも人間のなかには二面の生がある。その利害が抽象的であればあるほど、自由が多くなる個人的な生と、人間があらかじめ定められた法則を必然的に果たしている、不可抗力的な、群衆的な生である」(岩波文庫 四巻 p.24) 1812年、6月12日、ナポレオンの大軍がロシアに侵入し、いよいよ戦火を交える日も近い。 クレムリンにアレクサンドル皇帝を迎えた時のロシアの人々の熱狂ぶりが、不可抗力的に戦争に呑み込まれていく群集の凄まじい恐ろしい姿として想像させられた。 ナポレオンが、自ら

          「戦争と平和」 4️⃣ 第三部 第一篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第五篇 トルストイ 感想文

          生きるのに夢中で、とても綺麗なのにそれに気づいていない人がいる。そんな人がとても魅力的に見える瞬間がある。 若い頃、「自分の容姿を髪型に頼りたくない」と言って丸坊主にしてきた会社の同期の男性がいた。「なるほど潔し!」と思ったことを思い出した。 第五篇では、社交界を舞台に己の美しさに酔い、それを手段に人を騙していく、クラーギン家の兄(アナトール)と妹(ピエールの妻、エレン)の作り込んだ美しさに胸が閊(つか)えた。 アンドレイの求婚と、言い寄ってきたアナトールへの、「愛」らし

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第五篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第三篇 第四篇 トルストイ 感想文

          「有為転変(ういてんぺん)」p.64 「世の中のものが絶えず変化して、しばらくの間も同じ状態にとどまることがない」、という意味であることを知った。 ピエールの心の指針となっているバズデーエフ老人が語った「自分自身の完成」の三つの目的を伝えたえた言葉の中にあった。 「有為転変こそが人生のはかなさを教える」p.64 三、四篇を読み終えて、つくづくこの言葉を感じてしまった。 それぞれの登場人物に、流動的に変化していく苦難。 幸福を見つけても隙間なく難題が押し寄せてきて留まる

          「戦争と平和」 3️⃣ 第二部 第三篇 第四篇 トルストイ 感想文

          「戦争と平和」 2️⃣ 第二部 第一篇 第二篇 トルストイ感想文

          「自分の立場からすれば正しかった」(岩波文庫 2巻 p.312) 人はその時の立場でしか判断する術を持たず、思いもかけない感情の爆発を止められないまま、人生をも揺るがす行動を起こしてしまう瞬間があるのだ。それが若気の過ちであっても。 主人公のピエール・べズーホフが妻エレンの不貞の相手、ドーロホフに決闘を突きつけ、結果、相手を傷つけ、自分も人生最大の心の傷を負ってしまった。何の確信もないままに。性格の弱い受け身で人のいいピエールが、予想通り爆発してしまった瞬間を思った。

          「戦争と平和」 2️⃣ 第二部 第一篇 第二篇 トルストイ感想文