【短編小説】未来の戦闘(その3)-モビルスーツのパイロットとか-
注)このお話は、「未来の戦闘-モビルスーツのパイロット-」、「未来の戦闘(その2)-モビルスーツのパイロット-」の続きです。
「班長、テストの続きどうします?」
ユニット所属の研究員が聞いてくる。
「前回は、モビルスーツが無人で戦っていることだけで終わったからなぁ。」
長谷川はつぶやいた。
「えーっと。江藤・・さん?だっけ。」
長谷川がその研究員に聞いた。
「江川です。」
「そうだそうだ。江川さん。
今回は、そうだな。えっと、江川さんと同期のあの女性とかどうだろう。」
「進藤さんですか?」
「そう。その進藤さんにテストやってもらおう。
私とか江川さんのような男は、モビルスーツネタに弱いからな。」
「進藤さんにテストをやってもらうのはいいのですが、男女問わずあのネタが好きな人いますよ?」
江川がいう。
「ないでしょ。以前、彼女、飲み会でモビルスーツネタは嫌いだって言ってたぞ。なんか昔付き合ってた彼氏がガ◯オタで、自分よりもそっちを優先させたとかなんとか。」
「あーそれならいいですね。」
「前回のテストのときは映像だけだったから、あっちの様子がいまいちわからないところがあった。理論的には音声も大丈夫だったのだが、なぜか次元間音声転送が技術的にうまくいかなくてな。でも、今回は大丈夫だぞ。開発に成功したんだ。とはいえ、あっちの人間とは会話することはできないがな。」
「班長。開発に成功したなら研究ユニットのメンバーには言ってくださいよ。」
「悪い悪い。でも、音声聞けるって、なんか面白そうだよな。」
「確かに、別次元の画像だけじゃなくて音声まで聞けるようになると、わかってくることが増えますからね。」
「よし。決まりだな。すまんが、進藤さんにはテストお願いしておいてよ。」
「え?あー。わかりました。」
「じゃあ、テストは明後日、金曜日の10時からにするか。」
「了解です。」
進藤ありさは、リクライニングチェアの背もたれに背中を預けて座り、ゴーグルを装着している。ゴーグルから別次元視覚化装置にコードがつながっている。
今回は、耳に完全ワイヤレスヘッドフォン(TWS)をつけている。このTWSはマイクがついているモデルのため、テスト中も会話ができる。長谷川と江川は、ヘッドセットで進藤と会話できるが、それ以外の研究員は、モニターから流れる音声を聞くのみである。
「班長、テスト準備完了しました。」
江川が報告する。
「進藤さん。いいですか?」
江川が最後の確認を行なった。
「大丈夫です。」
進藤は答えた。
「では、初めてください。」
長谷川はテスト開始を指示した。
進藤のゴーグルと、モニターには、やはり前回のテストと同様、モビルスーツが戦う映像が出てきた。
「これ、また前と同じレイヤーなのですかね。」
進藤が聞く。
「ちょっとまってください。
えっと、そうですね。前回テストと同じ、第6レイヤー、つまり100年以内の未来ですかね。」
江川が答える。
「なんで毎回モビルスーツなんだ?」
長谷川が江川を向いて聞く。
「いや、班長、そこは、『なぜ毎回第6レイヤーなんだ』という疑問が正解です。
もういい加減モビルスーツから離れてください。」
「ああ、そうだな。」
「あ?」
「どうした進藤?」
長谷川が問いかけた。
「画面が変わりました。」
進藤が言う。
長谷川と江川はモニターに視線を戻した。
そこには、軍人らしき高齢の女性が映っている。
そして、その女性は、モニターを見て突然、人が変わったかのように、涙を流しながらつぶやいた。
「おおぉ!『その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし』古き言い伝えはまことであった!」
「なんだあれ?」
長谷川と江川が顔を見合わせる。
「確か、ナ◯シカのセリフですよ。」
進藤がいう。
「え?あの古典アニメの名作ということで、教科書にも乗ってるやつ?」
長谷川が言う。
「そうですね。」
進藤が答える。
「なんで、ナ◯シカのセリフが、モビルスーツに出てくるんだ?」
江川も進藤も長谷川の「モビルスーツ」は無視することにしたようだ。
その時、モニターから軍人らしき高齢女性の言葉が聞こえてきた。
「あれが古から伝わる、『ニュ・タイプ』じゃ!」
「え?今、『ニュータイプ』って言わなかったか?
そうか、やっぱり、モビルスーツのパイロットに、ニュータイプはいたんだ!」
性懲りもなく長谷川が叫ぶ。
「ええ。」
江川はうんざりしたように言った。
「また、画面が変わりましたね。」
進藤が独り言のようにいう。
そこは、どこかの学校のようだった。
「これ、どこだ?」
長谷川と江川がいう。
学校に女子学生が通学している様子が映し出されている。
この学校には高い時計塔がある。それ以外は、よくあるような学校だ。
学校の入口には、学校の名前が書かれた、大きな石塔が建っている。
学校の名前は「ベローネ学院女子中等部」と書いてある。
長谷川と江川はこれがなんなのかわからない。
と、突然、進藤が叫んだ。
「ベローネ学院女子中等部って!
あ、あれ、美墨なぎさと雪城ほのか?」
「え、まじ、これ、『プリ◯ュア』」
進藤が黄色い声になった。
「キャー」
「班長、この研究やめませんか?」
江川がいった。
(おしまい)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?