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【短編小説】未来の戦闘(その3)-モビルスーツのパイロットとか-

長谷川茂は、国立最先端科学技術研究機関(最科研)マルチバース研究ユニットの主任研究員だ。他の研究員は班長と呼ぶことが多い。

長谷川の研究ユニットは、マルチバースの理論的研究と実証研究を長年行ってきた。

マルチバースは、複数の宇宙・世界が存在するという理論的な仮説にしかすぎなかった。
しかし、M理論の研究が飛躍的に進んだことで、別の宇宙に存在する世界にアクセス可能であることが証明された。

長谷川は、最科研で、別の宇宙に存在する世界(ここでは「別次元の世界」と呼ぶ。)へのアクセスを実現するための理論と実証の研究に世界的な成果をあげた。

そして、今回、別次元の世界にアクセスし、その世界の様子を視覚化できるという「別次元視覚化装置」の開発に成功した。

その別次元視覚化装置を使ったテストを、開発責任者である長谷川が行うこととなった。

今、長谷川は、リクライニングチェアの背もたれに背中を預けて座り、ゴーグルを装着している。ゴーグルから別次元視覚化装置にコードがつながっている。

別次元へのアクセスには、かなりの電力を必要とするため、電源関係の施設が面積を取る。
また、試作段階の装置であるため、サイズについては重要視することなく開発を行った。
このため、別次元視覚化装置自体が、一昔前の量子コンピュータと同程度のサイズになってしまった。

「未来の戦闘-モビルスーツのパイロット-」より

注)このお話は、「未来の戦闘-モビルスーツのパイロット-」、「未来の戦闘(その2)-モビルスーツのパイロット-」の続きです。


「班長、テストの続きどうします?」
ユニット所属の研究員が聞いてくる。

「前回は、モビルスーツが無人で戦っていることだけで終わったからなぁ。」
長谷川はつぶやいた。

「えーっと。江藤・・さん?だっけ。」
長谷川がその研究員に聞いた。

「江川です。」

「そうだそうだ。江川さん。
今回は、そうだな。えっと、江川さんと同期のあの女性とかどうだろう。」

「進藤さんですか?」

「そう。その進藤さんにテストやってもらおう。
私とか江川さんのような男は、モビルスーツネタに弱いからな。」

「進藤さんにテストをやってもらうのはいいのですが、男女問わずあのネタが好きな人いますよ?」
江川がいう。

「ないでしょ。以前、彼女、飲み会でモビルスーツネタは嫌いだって言ってたぞ。なんか昔付き合ってた彼氏がガ◯オタで、自分よりもそっちを優先させたとかなんとか。」

「あーそれならいいですね。」

「前回のテストのときは映像だけだったから、あっちの様子がいまいちわからないところがあった。理論的には音声も大丈夫だったのだが、なぜか次元間音声転送が技術的にうまくいかなくてな。でも、今回は大丈夫だぞ。開発に成功したんだ。とはいえ、あっちの人間とは会話することはできないがな。」

「班長。開発に成功したなら研究ユニットのメンバーには言ってくださいよ。」

「悪い悪い。でも、音声聞けるって、なんか面白そうだよな。」

「確かに、別次元の画像だけじゃなくて音声まで聞けるようになると、わかってくることが増えますからね。」

「よし。決まりだな。すまんが、進藤さんにはテストお願いしておいてよ。」

「え?あー。わかりました。」

「じゃあ、テストは明後日、金曜日の10時からにするか。」

「了解です。」


進藤ありさは、リクライニングチェアの背もたれに背中を預けて座り、ゴーグルを装着している。ゴーグルから別次元視覚化装置にコードがつながっている。

今回は、耳に完全ワイヤレスヘッドフォン(TWS)をつけている。このTWSはマイクがついているモデルのため、テスト中も会話ができる。長谷川と江川は、ヘッドセットで進藤と会話できるが、それ以外の研究員は、モニターから流れる音声を聞くのみである。

「班長、テスト準備完了しました。」
江川が報告する。

「進藤さん。いいですか?」
江川が最後の確認を行なった。

「大丈夫です。」
進藤は答えた。

「では、初めてください。」
長谷川はテスト開始を指示した。

進藤のゴーグルと、モニターには、やはり前回のテストと同様、モビルスーツが戦う映像が出てきた。

「これ、また前と同じレイヤーなのですかね。」
進藤が聞く。

「ちょっとまってください。
えっと、そうですね。前回テストと同じ、第6レイヤー、つまり100年以内の未来ですかね。」
江川が答える。

「なんで毎回モビルスーツなんだ?」
長谷川が江川を向いて聞く。

「いや、班長、そこは、『なぜ毎回第6レイヤーなんだ』という疑問が正解です。
もういい加減モビルスーツから離れてください。」

「ああ、そうだな。」

「あ?」

「どうした進藤?」
長谷川が問いかけた。

「画面が変わりました。」
進藤が言う。

長谷川と江川はモニターに視線を戻した。

そこには、軍人らしき高齢の女性が映っている。

そして、その女性は、モニターを見て突然、人が変わったかのように、涙を流しながらつぶやいた。

「おおぉ!『その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし』古き言い伝えはまことであった!」

「なんだあれ?」
長谷川と江川が顔を見合わせる。

「確か、ナ◯シカのセリフですよ。」
進藤がいう。

「え?あの古典アニメの名作ということで、教科書にも乗ってるやつ?」
長谷川が言う。

「そうですね。」
進藤が答える。

「なんで、ナ◯シカのセリフが、モビルスーツに出てくるんだ?」

江川も進藤も長谷川の「モビルスーツ」は無視することにしたようだ。

その時、モニターから軍人らしき高齢女性の言葉が聞こえてきた。

「あれが古から伝わる、『ニュ・タイプ』じゃ!」

「え?今、『ニュータイプ』って言わなかったか?
そうか、やっぱり、モビルスーツのパイロットに、ニュータイプはいたんだ!」
性懲りもなく長谷川が叫ぶ。

「ええ。」
江川はうんざりしたように言った。

「また、画面が変わりましたね。」
進藤が独り言のようにいう。

そこは、どこかの学校のようだった。
「これ、どこだ?」
長谷川と江川がいう。

学校に女子学生が通学している様子が映し出されている。
この学校には高い時計塔がある。それ以外は、よくあるような学校だ。
学校の入口には、学校の名前が書かれた、大きな石塔が建っている。

学校の名前は「ベローネ学院女子中等部」と書いてある。

長谷川と江川はこれがなんなのかわからない。

と、突然、進藤が叫んだ。
「ベローネ学院女子中等部って!
あ、あれ、美墨なぎさと雪城ほのか?」

「え、まじ、これ、『プリ◯ュア』」
進藤が黄色い声になった。
「キャー」

「班長、この研究やめませんか?」
江川がいった。

(おしまい)

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