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【短編小説】未来の戦闘(その2)-モビルスーツのパイロット-

マリア・ランドベルクは、モビルスーツWG-1000Xmk5の専属パイロットだ。
「モビルスーツ」は人型戦闘兵器を意味するが、なぜかわからないが古からそのように呼ばれていた。

今、まさに戦端は開かれた。
それは、壁と一体化しているモニターをみればわかる。戦いの状況がリアルタイムに表示される。
マリアは自室でコーヒーを飲みながらモニターを見つめている。

マリアは休暇中というわけではない。
任務中であり出撃の指示があるまでは待機しろと命令されている。

戦場では多数のモビルスーツや戦闘攻撃機等の兵器が、今、激烈な消耗戦を行っている。
とはいえ、兵器には人が一切搭乗していない。すべて無人だ。

兵器のコントロールは、1次的にはそれぞれに搭載されたAIが、2次的にはすべての兵器を統括し、必要に応じて直接コントロールする権限を持つマザーAIが行う。

戦闘は、AIがコントロールする兵器同士が決着をつけるのだが、ハードウェアの進歩が限界に達した今、兵器をコントロールするAI、そしてAIを実行する環境であるオペレーションシステムの差が戦闘の勝敗を左右するようになってきた。

人間がコントロールする兵器が、AIがコントロールする兵器に勝てなくなってどれほど経つだろう。
過去の戦闘データ量、判断速度、全体の戦術とのシンクロ、すべてがAIの足下にも及ばない。
結局、人間は戦場にいてはいけない存在になってしまった。

その代わり、各戦場での戦闘の決着を法的に確認することが、人間に残された重要な仕事の一つとなった。人間が戦いに参加するわけではないため、戦闘の単位で当事者として決着をつけなければ、戦争が際限のないものになっていく可能性があった。

AIの能力なら、戦闘の結果を確認することなどたやすい。
しかし、あまりに能力が高度化したAIに任せることは危険すぎるため、最後の決着は人間が判断するということとなった。

戦闘当事者のうち、確認する者は定められていないが、通常は勝利が明らか又は優勢のまま戦闘が終わった側が行うことになっている。
一見不公平に見えるが、片方が全滅した場合、相手方しか確認できないため、仕方がない。
このルールは、宇宙条約で定められている。

「マリア。決着が着いた。敵は壊滅した。
お前の出番だ。よろしくたのむ。」
攻撃型司令旗艦の司令本部にいる司令官からモニター越しに直々に命令がくだる。

「承知しました。」
マリアは静かに答えた。大昔は敬礼というものがあったそうだが、人間が戦場から排除されるようになってからは、軍人といってもホワイトカラーとほぼ同じ文化になってしまった。

ただ、そのような中でも、マリアのようなモビルスーツパイロットは、命の危険がわずかだがあり、軍人の中でもエリートが選ばれる。
マリアは女性だが、パイロットに性別は関係ない。兵器を操縦できる軍人は1割程度であり、その1割は皆エリートだ。

それ以外の軍人は一見するとオペレータだ。指揮所でモニターをみながら、音声またはコマンド入力で部隊をうごかすだけだ。
しかし、そのためには、AIに関する高度な知識と経験が必要になる。今の軍人はほぼ頭脳労働だと考えていい。

マリアは、新型モビルスーツであるWG-1000Xmk5に搭乗し発進した。全身が青を基調とした塗装となっており、「青き衣をまといたモビルスーツ」という者もいる。

このモビルスーツは、リリースされたばかりであり、人間が搭乗し実戦に参加するのは今回が初めてである。

このモデルには、地上戦決着確認のための機能として歴代最高性能の「ノイズキャンセリング」が装着されている。
モビルスーツの動きに伴って発生する耳障りな音を、かなりの程度低減させるのだ。移動中の騒音を最低限度にし、住民の理解をえることが目的だそうだ。

とはいえ、今日の戦場は宇宙である。そもそもが音など聞こえるはずがない。
最近の戦場はメインが宇宙空間であるため、ノイズキャンセリングはオーバースペックかもしれない。

このモビルスーツはマリアが搭乗しているとはいえ、基本的にフルオートで戦域を確認していく。

戦闘の決着を判断するための材料は全てAIが提供してくれる。
AIは自分の基準で判断するわけではなく、宇宙連合が提供するアルゴリズムによって行わなければならない。これで、公平性を担保しているのだ。

このアルゴリズムの稼働状況は宇宙連合のAIがリアルタイムで監視しており、不審な点があると直ちに判断が停止され、決着がつかない戦闘と結論づけられるとともに、次の戦闘で参加できる兵器の数が制限されるというペナルティがある。

今日も、両軍が戦った戦域を自動で確認していく作業を行ったあと、マリアが確認した旨の発声をすれば終わりだ。マリアの声紋、モビルスーツから宇宙連合に送信される電子証明でマリアの本人確認ができるのだ。

WG-1000Xmk5が戦域を進んでいく、周りにはモビルスーツや攻撃戦闘機がマリアを乗せて進んでいくモビルスーツを守るように自動追尾している。

もう少しで戦域確認が終わるときだった。
激しい警告音が鳴り、マリアのコックピット全体が赤くなった。
同時に、マリアを追尾していたモビルスーツや戦闘攻撃機が次々とレーザーや敵のモビルスーツに破壊され、それが全天周囲モニターに映し出される。

「マリア!敵襲だ!」
マリアの前方に司令官の様子が突然映し出された。少しうろたえている様子がみえる。

「戦時宇宙条約違反だ!戦闘開始時に宇宙連合に報告されていた以外のモビルスーツが攻撃を始めた!!」
司令官が叫ぶ。

戦闘決着を判断するために、戦闘に参加する兵器については、戦闘開始前に、種類と基数を宇宙連合に報告する必要がある。報告は戦闘開始時刻よりも前であれば良いため、1分前に宇宙連合に報告することが通例だ。

報告されなかった兵器は、その日の戦闘に参加してはならない。
これらのルールを破った場合、宇宙連合全加盟政府の共通した敵となり、武力で鎮圧され、責任者とその関係する者たちは死刑となる。

マリアは冷静だった。本格的な実践なんて経験したことはないが、切り抜けるしかない。
「司令官。とりあえず、自動戦闘モードで対応するので、無人機で相手を黙らせてください。」

「全モビルスーツ、全無人攻撃戦闘機戦闘開始。」
司令官が命令を出す。

戦時宇宙条約違反の戦闘データが2次AIには学習されていないため、迎撃体制をすぐにとることができず、マリアを守るべき無人モビルスーツ、無人攻撃戦闘機たちは次々と宇宙(そら)の藻屑と消えていく。

マリアのWG-1000Xmk5は、最新のモビルスーツであり、自動戦闘モードの性能は非常に高いため、相手の無人機による攻撃をなんとか避けているが、味方が次々と破壊されていくにつれ、攻撃が集中し飽和攻撃を受けているのに等しくなる。こうなると自動戦闘モードも対応が難しくなっていく。

今は、シールドがなんとか攻撃を跳ね返しているが、今の状況では、あとどれくらいシールドのエネルギーがもつかわからない。

また、古からなぜかそういう名称である「フィソファンネル」20基がWG-1000Xmk5の周囲に展開し、AIによる自動攻撃を行なっているが、次第にファンネルが破壊されていく。

「司令官。AIによる制御はもう持たないと思います。」

覚悟を決めたようにマリアは言った。
「シミュレーターの経験しかないけど、マニュアルモードで行きます。」

WG-1000Xmk5のマニュアルモードでは、ヘルメットや戦闘服内のセンサーでパイロットの脳内電気信号を読み取り、モビルスーツを操作する。訓練された者でなければ、満足にモビルスーツの操作は行えない。

マリアは音声でマニュアルモードをONにした。

その瞬間、手のひらから体全体、そしてモビルスーツ全体が金色の光に包まれた。
「え?こんなことはシミュレータでも経験してないわ。」
マリアがそう思うと同時に自分とモビルスーツが完全に一体化したかのような感覚に襲われた。

そして、マリアの頭脳全体が、あらゆる方向から向かってくる攻撃を察知する。
マリアの意識は攻撃を回避するようモビルスーツに凄まじい速さで命令を出して行く。
マリアは、一切考えていない。意識としては無心の瞑想状態だ。単なるマニュアルモードなら、モビルスーツは止まったままだろう。

WG-1000Xmk5は、飽和攻撃を紙一重で避けていく、その動きは目視では追えないくらいのスピードだ。

マリアの頭脳は飽和攻撃のほんのわずかな隙を察知し、まだ生き残っているファンネルに攻撃指示を出す。

次々と敵のモビルスーツを的確に破壊していく。
敵のどんな攻撃も、マリアが操るWG-1000Xmk5をとらえることができず、逆に自らが破壊されていく。

「な、なんだ、あれは・・。」
司令本部の司令官は、マリアの戦う様が信じられない。
司令部にいる隊員たちも驚愕の声をあげている。

そこに、司令官の上司であるサリー・フィッシャーマン准将がやってきた。
高齢の女性で、通常なら退役しているはずだが、軍は准将の地位を与え続けている。

サリーは、モニターに映るマリアの戦いを見て、突然、人が変わったかのように、涙を流しながらつぶやいた。
「おおぉ!『その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし』古き言い伝えはまことであった!」

突然隊員が叫ぶ
「大ババさま!」

司令官がいう。
「誰だそれ?」

隊員が困ったようにいう。
「いや、なんかそういわないといけない気がして・・」

構わず、サリーがいう。
「あれが古から伝わる、『ニュ・タイプ』じゃ!」

(おしまい)



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