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【短篇小説】未来の戦闘-モビルスーツのパイロット-

長谷川茂は、国立最先端科学技術研究機関(最科研)マルチバース研究ユニットの主任研究員だ。他の研究員は班長と呼ぶことが多い。

長谷川の研究ユニットは、マルチバースの理論的研究と実証研究を長年行ってきた。

マルチバースは、複数の宇宙・世界が存在するという理論的な仮説にしかすぎなかった。
しかし、M理論の研究が飛躍的に進んだことで、別の宇宙に存在する世界にアクセス可能であることが証明された。

長谷川は、最科研で、別の宇宙に存在する世界(ここでは「別次元の世界」と呼ぶ。)へのアクセスを実現するための理論と実証の研究に世界的な成果をあげた。

そして、今回、別次元の世界にアクセスし、その世界の様子を視覚化できるという「別次元視覚化装置」の開発に成功した。

その別次元視覚化装置を使ったテストを、開発責任者である長谷川が行うこととなった。

今、長谷川は、リクライニングチェアの背もたれに背中を預けて座り、ゴーグルを装着している。ゴーグルから別次元視覚化装置にコードがつながっている。

別次元へのアクセスには、かなりの電力を必要とするため、電源関係の施設が面積を取る。
また、試作段階の装置であるため、サイズについては重要視することなく開発を行った。
このため、別次元視覚化装置自体が、一昔前の量子コンピュータと同程度のサイズになってしまった。

「班長、テスト準備完了しました。」
ユニット所属の研究員が報告する。

「それでは、始めましょうか。」
長谷川はテスト開始を指示した。

ゴーグルに画面が表示されていく。
画面の映像はテストに参加している研究員も大画面モニターで見ている。また、録画もされている。

画面に映し出されているのは、武力衝突の現場のようだ。爆発や火災がいたるところで起きている。
しかし、そこにある武器はどれも、これまで見たことがないものばかりである。

その中でも人型タイプの武器に目を奪われれた。
大昔のアニメで登場した「モビルスーツ」に非常に似ているものであった。

「この画像はどのレイヤーの別次元だろうか。」
研究員に聞いてみた。
それがわかれば、今見ている世界が、長谷川の世界を基準として過去か未来かがわかる。別次元の世界は、長谷川が現在いる世界と同じ時間というわけではなく、過去や未来の世界が存在することがわかっている。

「重力波の特徴からすると、第6レイヤー、つまり100年以内の未来の可能性が高いです。」

「そうか。」

「この戦場はどこだろうか。しかし、人の気配がまるでない戦場だな。」
大型モニターで見ていた研究員も同意する。

この地点の画像がなぜ映されているのかは現時点ではわからない。別次元の世界に存在する物体が発する波動を画像として再構成しているのだが、今映し出されている地点が選ばれたのはただの偶然なのか必然なのかはこれからの研究だ。

突然画像が変わった。
今度は、人間がいる。軍服を着ている人々のようだ。多数のモニター画面が設置されている。3D画像が映し出されている空間もある。

モニターの一つに、先ほど見た戦場の様子も映し出されている。モニターには英語で戦況が自動で表示されているようだ。

「無人モビルスーツ」という表示がある。
戦闘に参加しているモビルスーツの総数と、破壊された総数が表示されている。

「無人???」
長谷川が大声をだした。

「どうしました。班長」
研究員が長谷川の声に驚いて聞く。

「どうしたもこうしたもない。モビルスーツなのになんで無人なんだ?」
テストに参加している研究員達がざわつく。

「何をおっしゃっているのですか。班長。」

「よく考えてみろ、モビルスーツはどんな時も有人だったろ。どんな未来でも、科学技術がかなり進んでいると思われる未来でも有人で戦っていたじゃないか。だから、ドラマが生まれていたんだ。」

「なのに、この世界では、無人なんだよ。人が死ぬことがないから、モビルスーツがバンバン投入されて戦っている。おー。」

「班長。そろそろお昼なのでテスト終わりにしませんか。モビルスーツはどうでもいいです。」

長谷川の目の前が真っ暗になった。研究員が呆れてテストを終了した。

リクライニングにゴーグルをして座ったままの長谷川が残された。

「無人なんだ・・・。」
長谷川がつぶやいた。

(おわり)

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