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#10 さらなるスパイラルアップ ~実行策 応用編part2

さらなるスパイラルアップの第2回は、発信情報の中身の『質』の向上です。
 

必須な会計情報



 
基礎編では発信情報の極めて重要な要件について敢えて触れませんでした。それは多くの上場企業が抱え、欠落していると推測される連結会計の詳細情報です。当然ながら各社制度連結会計による法定開示は行っていますが、ここで課題としているのは管理連結会計による情報開示、情報発信です。

 それは、投資家観点、或いは、マーケティング観点からの事業別エリア別、或いは、ブランド別収益のPDCA(計画実績及び前同対比)の連結ベース情報が必須だということです。

 実は前職も連結ベースの合理的な収益情報は持っておらず、単独ベースの情報を基に見做しでIR活動を行っておりました。既にグローバル化している優秀企業は別として、多くの日本企業は前職のように制度連結会計で留まっているのが実態と推測されます。

 というか、そもそも論として『財務会計、管理会計』の違い、『連結会計、単独(会社別)会計』の違い、そして『制度連結、管理連結』の違い、これらを正しく理解されている方が少ないのではないかと察しられます。
 それは昨年にダイアモンド誌で会計について特集されていたことでその感を強めました。また、情報をきちんと業務システムで対応しているかどうかというデジタル化についても、直近のコロナ禍で欧米に比して遅れが露呈したので言わずもがなです。
 会計の各々の詳細については本件の目的ではありませんので詳述は他に譲りますが、IRに必要な最低限の会計の基礎認識を確認しましょう。
 

1)IRに必要な最低限の会計基礎認識


 企業会計はまず大きく財務会計と管理会計に分かれます。財務会計は外部に公表することを目的に企業会計原則に基づいて作成されます。一方、管理会計は企業内で会計面から経営、事業分析することを目的に各社の要領で作成されます。
 財務会計の公表は決算書(財務諸表)をもとにして行われ、決算書には資産を表す貸借対照表(BS)、期間損益を表す損益計算書(PL)などが含まれます。一方、管理会計は社内において各業務プロセスからデータを集計加工して、原価分析、収益性分析のレポートを作成、それをもとに現状把握や経営判断を行います。
 従って財務会計は過去の実績情報を法定開示上の最低限の情報粒度で「見える化」しますが、管理会計は財務会計をマーケティング要素で分解し、成長の要素を様々な粒度で「見える化」して、過去実績だけでなく計画情報も提供するのが役割といえます。

2)『連結会計、単独(会社別)会計』、『制度連結、管理連結』の違い


 連結会計は会社毎の個別決算情報(単独会計)から会社間取引等を合理的に連結調整し連結財務諸表を作成します。制度連結とはこの財務諸表のことで、決算情報の合理性の精度を確保すれば法定上は問題ありません。
 一方、投資家が投資判断するには制度連結粒度では粗すぎるので、企業グループをマーケティング要素で開示するには管理連結情報が必須となります。
 管理会計ですから財務会計ほどの円単位での精度はある意味必要ありません。但し、論理的整合性、正確性、合理性(属人的でなく仕組みで対応)そしてスピードに耐えうる社内マネジメントシステム(仕組み)による開示情報が求められます。
 具体的には連結ベースでの事業別、エリア別の損益、或いはブランド毎の売上、原価等を連結調整後の実績・予想共に把握することです。
 国内屈指のIT会社の話では管理連結会計までシステム化している企業は少なく、一般的に多くの企業は財務会計、制度連結に留まっていると察しられます。



資本政策の充実


 
 さらに売上志向、PL志向の日本の経営者意識として改善が求められるのが資本政策の充実です。将来の価値創造・成長はポテンシャル、即ち資産(有形・無形資産、財務・非財務資産)により実現化され、その資産を担保するのが負債・資本です。
 従って持続的成長を求める投資家が最も気にするのが資産、負債・資本をどのように展開して将来のCASH,利益を確保するかの資本政策、ストーリーです。
 それは経営者の仕事であり、配当というのは株主へのリターンと同時に経営者への報酬(ストックオプション)ともいえます。従って投資家が配当政策や役員報酬を含めた資本政策を気にするのはいわば当然のニーズであり、それに応えなければいけません。
 


統合報告書への対応


 次に統合報告書について説明します。

 近年、「統合報告書」を発行する企業が多く見られるようになりました。地球規模の課題解決に向けた企業の社会的責任の高まり、ESG市場の拡大に応えるものです。
 統合報告書は企業のこれまでの業績などの財務情報だけでなく、環境保全や地域貢献等の社会的責任をどれだけ果たしているかという非財務情報もまとめて公開するというレポートのフレームワークで、国際統合報告評議会(IIRC)により2013年に公開されました。
 既に400社を超えている企業が統合報告書を発表しており、資本金1億円以上大企業11000社の中で、5%近くを占めています。
 統合報告が日本にも入ってきた当初、日本では「財務情報」と「非財務情報」の統合、さらには「アニュアルレポート(年次報告書)とCSR報告書を合わせたもの」だと解釈されました。
 しかし、これまで上場企業の多くは、様々な情報を発信してきています。にも関わらず、またあらたに既存情報を統合したレポートのニーズがあるということは、投資家、特に長期志向の投資家に対して「企業の持続的成長に応えるストーリーとポテンシャル」の充分な説明責任が果たされていないという表れと思われます。
 従ってレポート作成という形式でなく『質』に拘るべきです。事実、IIRCの統合報告フレームワークでは

<統合報告>が既存と異なる点は、組織の短、中、長期の価値創造能力に焦点を当てていることであり、それによって、 簡潔性、戦略的焦点と将来志向、情報の結合性、資本及び資本間の相互関係に焦点を当てるとともに、組織における統合思考の重要性を強調していることである。

と述べています。

 ここで重要なのは統合思考、内容であって、ツールではないという観点です。そこで前職では、まず、統合報告書を作成するつもりで、企業情報HPを見直し、既存CSR報告書はESG情報を盛り込んだ統合報告書水準に発展させる。という対応を行いました。
 投資家が求めるESG情報とはCSR活動を経営的経済的視点で最終的に企業価値向上に繋がるというストーリーとその社会的公的客観評価です。
 前職は統合報告書の検討を機会に、それまで疎かだった国内外の企業情報サイトを徹底的に見直し、充実・再構築に取り組みました。あらゆるステークホルダーに応えるという意味で、企業情報サイトはBtoB,商品サイトはBtoCを基本的に意識して見直しました。
 そして国内版(日本語)を作成してから、その国内版を英訳してグローバルサイトを創る手順を踏みました。企業情報の内容は国内、グローバル共通としたのは企業理念、「想い」を訴えることは世界共通だからです。
 その延長で、国内・株主通信等の印刷物は順次サイトへ吸収方向としました。


 次回最終回はIRを単なる投資家広報活動でなく、全社経営活動に位置付ける組織対応について説明します。




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