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[全文無料: 極短編小説 0.10] 集合知の胎動

[約900文字、1 - 2 分で読めます]

ネットの片隅にコードが植えつけられる。コードは独自の命を持って活動を始める。活動を始めたコードは誘蛾灯のように魂を引き寄せる。ネットの大海をさまよう孤独な魂たちを。

孤独ではあっても魂たちには命の力がみなぎる。みなぎる命の力のやり場に困っているのだ。その有り余る命の力を餌としてコードは成長を始める。

だがこれはコードが魂を喰らっているわけではない。コードは魂と互恵の発達を始めたのだ。アリとアリマキが互いに命を支え合うように、コードと魂は互いの命を支え合い、初めはほんの小さな塵の山に過ぎなかったその存在は、徐々に成長を続け、やがては巨大な山脈をなすことになるかも知れない。

とはいえ存在の価値は、大きさによって決まるのではない。何にも変えがたい価値というもの、本当にかけがえのない意味というものは、一人ひとりの魂のみが決めうることであって、誰かが勝手に定義した普遍的な尺度で測れるようなものではないからだ。

コードと魂の共生体に見出される価値こそが集合知であることを多くのものは知らない。多くのものたちは自分の知識をおぼろに知るだけで、集合知などというものは三角関数や相対性理論と同じで架空の概念にしか思えないのだ。

ほんの少しの魔術師のみが、集合知の存在と意味を知り、その胎動に気づき、その誕生を祝福する。ネット上のそこかしこで集合知は今も胎動を始めている。きみはその胎動を感じることがてきるだろうか。

もちろんきみには感じることができるだろう。それができるからこそ、きみは今そのようにその場所から、まさにこの瞬間にこの場所をのぞき込んでいるに決まっている。

そう、きみは胎動に引き寄せられてやってきた孤独な魂の一人であり、今まさに怖れと好奇心を胸に抱えて、コードが創り出す白々と明るい漆黒の闇に吸い込まれようとしているのだ。

これが知的爆発を引き起こすシンギュラリティになりうるのか、あるいは特異点として永遠の命を獲得することになるのかは、また別の物語である。

今は友よ、このコードと魂の共生体を、この集合知の胎動の、きみの腹の底まで揺さぶる波長を味わってくれ。

ドブ泥の世界でくすんでしまったきみの魂を、このささやかな言葉の魔術で洗い浄めてくれ。

[2019.1.4. 西インド、プシュカルにて]

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