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[全文無料・音楽の夕べ 0008] 21世紀は静かにサイケデリクスで始まった - ザ・ビートルズ「アクロス・ザ・ユニバース」

イギリスのリヴァプール出身の四人の青年が、20歳になるかならないかで結成したビートルズという名のロックバンドは、おそらく世界で一番有名なバンドでしょう。

ビートルズの四人が、なぜあれほどまでの人気を獲得しえたのかは、この世界がなぜ存在するのかと同じようなもので、説明しようとしてもできるわけのないことだと思うので、それについては何も書きません。

彼らの代表曲は、全部でLPレコード四枚分になる通称「赤盤・青盤」呼ばれるふた組みのベストアルバムで聴くことができます。これを通して聴いてみると、前期の赤盤と後期の青盤では大きく作風が違うことが、はっきりと分かるでしょう。

その違いを簡単に説明すれば、前期の素直で単純明快なロックンロールと後期の大胆で実験的なロックということになります。

この作風の変化のため、ビートルズが好きという人でも、前期の歌が好きなのか、それとも後期の曲が好きなのかで、話が全くかみ合わないこともあるほどです。

この記事で紹介する「アクロス・ザ・ユニバース」は後期の曲になりますが、音使いや曲の構成は比較的おとなしいもので、誰にでも聴きやすい美しいメロディーの歌です。

けれども、歌詞の内容はある意味現実離れしたものであり、その世界観を一言で言い表せば「サイケデリクス」ということになるでしょう。「スピリチュアル」と言ってもいいかもしれません。

※ビートルズのオリジナルがyoutubeで見当たらないので、フィオナ・アップル fiona apple のカバーを載せます。動画がちと過激ですが、曲調は元歌の感じをうまく保ってると思います。

サイケデリクスという言葉は、もともとLSDという幻覚剤につけられた呼び名ですが、その薬を服用することによって得られる幻覚(ヴィジョン)にならった独特の色使いやデザインのファッションを指す言葉でもあります。

このLSDに似た効果を持つものの幻覚性の作用は弱めの、マジックマッシュルームと呼ばれるきのこが2000年前後に日本でも流行したことは、カウンターカルチャーに関心のある方ならばよくご存知のことと思いますし、使い方を誤って「錯乱」状態になった芸能人の方もいましたから、多くの方が「あ、あの危ないやつね」くらいの認識はお持ちかもしれません。

かくいうぼくも高校生くらいのときに物の本でLSDについて読んで、「素質のある人は一発で気が狂う」という仰々しい記述に驚き、「そんな恐ろしいものは絶対やるまい」と思ったことをよく憶えています。

そんなぼくが世紀の変わり目には何の因果かマジックマッシュルームという名の不思議なきのこの魅力に取り憑かれてしまっていたのですから、人生というのは分からないものです。

この不思議のきのこについては次のマガジンに全文無料で記事を収めていますので、興味のある方はご一読ください。

・開け心 - 不思議なきのこの話
https://note.mu/tosibuu/m/m5222276c4636

さて、ビートルズの話に戻りましょうか。

「アクロス・ザ・ユニバース」は歌詞を素直に読めば、ビートルズの四人がジョージのすすめで1968年に訪れたインドのヨガ道場の師匠、マハリシ・マヘッシ・ヨーギに対する帰依と、インド哲学と瞑想から得られたビジョンを歌った歌ということになるでしょう。

言葉は雨のように降り続け、思考は落ち着きのない風のように吹き続ける。
その傍らで悲しみは水たまりになり、喜びはさざ波となって、笑い声と大地の色合いは、開かれた心の前でいつまでも踊りを踊り続け、この宇宙を超えてどこまでもいく。
そして、それらに包まれて自分の心は何ものにも動かされることなく、神への帰依を思う。

スピリチュアルで宗教的な内容ですが、このビジョンをビートルズの四人が瞑想だけで得たとは思えません。瞑想によってもこうした深いビジョンが得られるのは事実ですが、ヨガ道場にひと月あまり滞在したくらいで、そこまで十分瞑想に習熟できる人はあまりいないからです。

ビートルズはインド行きから帰るとドラッグの使用に対して批判的になったということですから( https://en.wikipedia.org/wiki/The_Beatles_in_India 参照)、逆に言えばそれまではLSD、マリファナなどを普通に使っていたものと考えられます。
(例えば「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド Lucy in the Sky with Diamonds」の頭文字はLSDとなっていますし、歌詞の内容もまさにLSDで得られるビジョンそのものと言えます)

そうした幻覚剤によるビジョンを知っている人は、瞑想によってその意識状態を「フラッシュバック」させることが比較的簡単にできることが多いので、「アクロス・ザ・ユニバース」の歌詞は、LSDやマリファナの体験があったからこそ生まれたものだと思われるのです。

日本でのマジックマッシュルームの使用は2002年に法律によって規制されましたが、その当時きのこを体験したとんがった若者たちが、今日本の文化を担う世代になってきていることを考えると、経済の停滞ムードや保守的で排外主義的な傾向によってどこかどんよりと曇った印象の強い最近の日本も、何か一つのきっかけがあれば、がらりと音を立てて別の次元に突入しうるのではないかと、そんな空想を楽しみながら「アクロス・ザ・ユニバース」という不思議な楽曲を、ウクレレ弾き語りの練習に励むインドはハリドワルの春なのでした。

☆今夜の紹介曲(下記リンクからアマゾンで青盤の情報が見れます)
ザ・ビートルズ「アクロス・ザ・ユニバース」
the beatles "across the universe"

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☆音楽の夕べ・バックナンバー
第一夜 - 六本木の地下の闇が西インドの孤独な魂を揺さぶる 2018.12.4
第二夜 - 七人のKさん 2018.12.11
第三夜 - 音楽と宗教 2018.12.18
第四夜 - イブは過ぎたけど、インドのクリスマス 2018.12.25
第五夜 - あの頃ぼくらはダサい世田谷の少年だった 2019.01.01
以上は、こちらの記事にまとめてあります。
https://note.mu/tosibuu/n/n438e9a17b82d

第六夜 2019.01.08
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https://note.mu/tosibuu/n/nb9e12c59e1b0

第七夜 2019.01.15
アーティスト・パワーの坩堝で、やさしく溶かされて - Chara「Swallowtail Butterfly」
https://note.mu/tosibuu/n/n0c80ee6b0734

☆有料部には何もありませんが、投げ銭としてお買い上げいただくと、トシベエ・ザウルスが喜んで、ブレークダンスを踊りながら、バナナを1房丸呑みいたします。

[ヘッダ画像はyoutubeの画面に映るフィオナ・アップルを書斎(≒安宿のベッドの上)で撮影したものです:-]

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