見出し画像

フィルムカメラと旅をする 松山道後 day1

旅がしたい。

そう思っていたらいつの間にかフェリーに乗って海を眺めていた。
しばらく遠出をしていないな、そろそろどこかに行きたいな、と思いながらもなかなか連休を取る予定も立てられず過ごしていた私に、ふいな休みが現れた。もともと予定があって休みにしていた1日にくっ付けてくれた感じで2連休になっていたのだが、その予定が急遽なくなってしまったので何の予定もない2連休に変わったのだ。

8月までに写真集を出すために過去の写真の編集、それに合わせてポートフォリオサイトの作成、物販サイトの作成などやらないといけないことは山程あるしリミットも段々と迫ってきているのだが、気がついたら宿を取って旅をする準備を進めてしまっていた。最近疲れてるから心を解放しないとまずい、良い写真を撮れたらそれがまた飯のタネになる、新しいレンズで沢山撮りたいじゃないか、などと自分に言い訳をしながらそうこうする内にフェリーに乗り込み揺られてしまっている。


行き先は松山。
広島とは瀬戸内海を挟んで向かい側にある愛媛県松山市だ。主な目的地は道後温泉で、他に周辺に神社がないかや食べ物は何が有名かなどを何となくで調べる。安藤忠雄建築の美術館があるのを知ったのでそこにも行きたい。というぐらいで、松山に行くこと自体が急な予定だったのもあって後は歩いていろいろ回ってみるかという感じだ。温泉に入ってあとは気の赴くままに過ごそう。とりあえずフェリーの窓際の席に座り、海を眺めたりスマホで松山の事を調べたりしながら過ごす。

窓枠に置いていたライカに目をやる。今回の旅からレンズがCarl Zeiss Planar 50mm F2 ZMに変わっている。NOKTONもいいレンズだったが、標準を極めたいという自分でも謎の思いからPlanarに買い換えた。NOKTONが艶のあるシルバーだったのに対し、Planarは落ち着いたシルバークロームでライカのボディともマッチしている。
光も良かったのでプラナーをつけたライカを撮って遊ぼうと思い、iPhone 15 Proのカメラを起動する。最近はiPhoneのカメラも信用して多用するようになった。RAWで撮影しそのままLightroomで編集すればちゃんとした写真を作ることが出来る。


スマホでこんなのが撮れるのか…と感動した一枚。


フェリーは途中呉港に立ち寄り、その後は本格的に瀬戸内海を航行するので後は写真を撮って過ごそうと思ってデッキに出る。船上は当然風が凄いので寒いのだが、陽があたれば暖かい。この日は気持ちのいい快晴だった。

晴れた空と遠くに広がる海。
なんて素晴らしい光景だろうと久しぶりに清々しい気持ちになる。
遠くにうっすらと見える島の影や向こうを航行する船を見たり、眼下を絶えず動く波を見たり、船での旅は飽きることがない。



デッキに上がってくる人はほとんどおらず、ほぼ貸切で思う存分写真を撮ったり海を眺めたりして過ごすことが出来た。船が風を切る音、波がしぶきを上げる音、そしてカメラのシャッター音。なんとも静かな時間。



一面海だった景色に段々と島が増えて来たと思ったらもう少しで松山観光港への到着となってしまったので、ぼさぼさになった髪を直しながら船内へ戻る。改めて見てみると呉港から乗った人が多かったのか船内は思った以上に人がいた。仕事っぽい人もいれば海外からの観光の人など様々だ。



松山観光港のターミナルに降り立ち、まずは道後温泉へ向かう。
道後温泉に行くには松山市駅まで行き、そこから路面電車に乗り換えとなる。松山市駅までは港から少し進んだところにある高浜駅から電車に乗らないといけない。高浜駅へはバスも出ているが歩いて10分もかからないぐらいだったので当然歩いて行く。海沿いを歩くのは眺めもよく気持ちがいい。

高浜駅は伊予鉄と呼ばれるいわゆるローカル線で、松山に住んでいた人に事前に聞いてはいたのだがICOCAやSUICAなどのICは使えなく、伊予鉄独自のICか切符のみとなる。地元のローカル線を思い出しながら切符を買い、電車に揺られること30分ほど、松山市駅へ到着。
そこから路面電車に乗ろうと思ったのだが、天気がいいのもあって結局Googleマップを見ながら歩いて道後へ向かう。

しばらく歩いて道後に着くと、坊っちゃんカラクリ時計や坊っちゃん列車が出迎えてくれた。
道後温泉までは道後商店街という商店街を進んでいけばいいようなので、雰囲気を楽しみながら歩いて散策してみる。結局道を逸れて裏道に入ったり旅館が並ぶような場所を通ったりして、道後の街の空気を掴む気分で過ごす。
今風なお洒落なカフェやお土産屋さんも沢山あるが、どのお店も落ち着いた雰囲気で温泉街という土地にあっていると思う。



道後温泉の本館は保存修理工事をされているので、利用は出来るが外観などは工事中という感じだ。ちなみに思ったのは「道後温泉本館って、思ったより小さいのね」ということ。「千と千尋の神隠しの湯屋のモデルとなった」と聞いていたのでもっと大規模な施設なのかと思っていたら意外とこじんまりしているというか、コンパクトに収まっているのだなという感想。改修が終わったあとの姿を次回は是非とも見てみたい。



肝心の温泉は、なんだかんだと本館ではなく別館の飛鳥の湯に入った。落ち着いたところで湯に浸かりたい気分だったが、ちょっとは道後気分も味わいたいと思って選んだのだが正解だった。建物の造りは飛鳥時代の建築様式を取り入れたというもので、現在入り口には蜷川実花によるアートもある。施設の前に着いた時はなかなかインパクトがある佇まいだったが、建築デザインとアートが新旧混ざった感じで不思議な魅力を持っている。
施設内は落ち着いた作りで、湯場は良い意味で広すぎず、シンプルに温泉を楽しむことが出来た。湯場の壁には砥部焼という愛媛の伝統工芸の磁器が使われていて、そこに描かれた日本の風景を眺めながら過ごすことが出来る。


iPhone 15 Pro


そろそろ出ようかな、と考えていたタイミングで室内に和風な音楽が流れ始め、一番大きな壁面に文字が映され始めた。壁に描かれた、おそらく松山の山々などの風景の絵を利用したプロジェクションマッピングのようだ。

どこかから白鷺が飛んでくる。白鷺は道後温泉の成り立ちとなる鳥だ。そして景色は時間をかけて四季折々の姿や、朝から夜にかけて時間によって姿の変化を見せる。

元々壁にある絵も素晴らしかったが、プロジェクションマッピングによって夕焼けの姿になったり星空になったりして「いいなぁ」と思えるものだった。


温泉でのんびりした後は、道後の街を再び散策する。
天気がよくて気持ちがよく、足湯を楽しんだりお店で買い物をしたりみんな穏やかな様子だ。湯船に浸かって体も温かいので、上着も脱いでしまおう。

道後温泉のすぐ近くには湯神社と、少し歩いたところに伊佐爾波神社(いさにわじんじゃ)という神社がありそれぞれ参拝する。伊佐爾波神社はとても立派な社殿で、見学させていただいたが非常に見応えがあった。国の重要文化財にも指定されていて、八幡造というらしい。中にはお祭りで使われるのかお神輿が置かれていたが、差し込む光が美しく思わずカメラを向ける。



神社を参拝した後は道後公園に寄り、夕方になったのでホテルに向かう。
ホテルは松山市駅の近くだったので、帰りは路面電車に乗って移動する。途中小学生の集団と一緒になり、彼らのエネルギーに圧倒されながらも流れる松山の街を眺めて過ごす。

駅からホテルまでは歩いて15分ぐらいで、丁度いい交通手段もなかったので疲れていたがそのまま歩いて向かう。
旅に出られたのは当然嬉しいが、日頃の疲れが身体に間違いなく溜まっている。しかもいつもよりも早起きしたのでその反動が来ている。今日は早めに寝よう。



道後温泉で湯船に浸かりながらプロジェクションマッピングを見ていた時、「移ろう自然を眺めながら共に過ごすだけ、っていう人生を過ごしたいな」とふと思った。刻々と移ろう日本の原風景の映像を見ていると、そこを愛でながら過ごせたらどんなにいいだろうかと考える。
植物が色を変え、形を変えていくのを見て季節が変わったことを知る。朝になれば自然と共に目覚め、夜になれば自然と共に眠りにつく。何も特別なことをする必要なんてないんじゃないだろうか。ただそうやって生きるのが実はとても幸せなんじゃないだろうか。
現代社会で生きていると、あれが欲しい、これがしたいと思うのはまぁ当然というか仕方のないことなのでしばらくは欲の中で生きていこうと思うが、いつか関係のないところで生きていくことが出来ればいいなと思っている。



camera : LEICA M2 
lens : Carl Zeiss Planar 50mm F2 ZM
film : MARIX 400
paper : Ilford MGRC

モノクロ写真は自家現像、暗室プリントしたものをスキャンしてデータ化したものです。


この記事が参加している募集

カメラのたのしみ方

旅のフォトアルバム

フィルム写真の文化の一助になるよう活動を続けたいと思います。フィルムや印画紙、薬品の購入などに使わせて頂きたいと思うので、応援の程よろしくお願い致します!