生命のすごさ💫(1)酵素:酵素がなかったら?
前回の記事、「爆発的進歩!タンパク質の高次元構造の解析:2021年のブレイクスルー」で、タンパク質である酵素について触れました。
酵素については洗剤や発酵食品を含めたサプリメントのイメージが強いのではないかと思います。でも、それだけではない酵素の本当のすごい役割と存在意義を考えてみたい思います。
まず、酵素(エンザイム)とは、
1)微生物から植物、人間まですべての生命体に存在。
2)生体でおこる大部分の化学反応の触媒(反応を速める)を行う分子の総称。
3)そのほとんどがたんぱく質で高分子である。(水の分子量は18、酵素は何千から何百万という分子量のものまである)
2013年時点で5000種類以上の酵素が(5000種類以上の異なる化学反応をそれぞれ別の酵素が触媒、それぞれに名前あり)存在すると報告されていて、その働き方は様々です。それらが一秒に何兆という数え切れないほどたくさんの化学反応を体内で引き起こしているのです。
例えば、
消化器系では、でんぷんのような大きな複雑な分子をグルコースなどの小さな分子に分解し、生命活動に必要なエネルギー分子ATPを生み出す働きをしています。この過程に種々の酵素が関わって効率的に反応が行われています。
骨、筋肉、脂肪、皮膚などを合成したり分解したりするのも酵素の働きで、細胞の分解と再構築が繰り返されています。人間の体内では1秒間に300万個以上の血液細胞が新しく生まれ変わると言われています。
生体内の各細胞には 遺伝物質であるDNA が含まれています。細胞が分裂するたびにそのDNAはコピーされますが、その過程も酵素によってなされます。もちろん、遺伝物質であるDNAやRNAの合成や分解も酵素が行いますし、DNAからタンパク質が作られる過程も酵素です。
免疫系でもたくさんの酵素が働いていますし、またセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質やホルモンの合成、分解にも、たくさんの酵素が複雑な経路で効率よく働いています。
また、肝臓では体内の毒素を分解するために、様々な酵素が働いています。
まだまだ挙げたらきりがありません。。。
このように、酵素は私達の生存にとって不可欠なタンパク質です。そして、酵素は人間だけではなくすべての生命体で働いています。微生物にも植物にも不可欠なものです。
植物の光合成は、酵素の助けなしには決して起こりえません。太陽のエネルギーを使って、植物の酵素は二酸化炭素を有機分子に変えています。
ワインやお酒の発酵は、酵素の働きによって可能になります。酵母の酵素が糖をアルコールに変えることができるのです。この他にも日本にはたくさんの発酵食品がありますね。納豆、醤油、味噌、漬物などなど。。
チーズも酵素なしにはできません。レンネットはチーズ作りに使われる酵素数種の混合物です。0.0003 gの酵素で1 kgのチーズを作ることができます。
このように、生物による大部分の化学反応は、酵素に依存しているのです。その触媒としての力により、反応は通常ミリ秒単位で起きます。その速さは酵素により異なりますが、速い例では肝臓のカタラーゼのように毎秒4000万分子を変換するものもあります。
しかし、酵素がなかったら? これらの生体内での反応は起こるのが可能でしょうか?人体の37°Cという穏やかな条件で、酵素なしでは何千年、何万年もかかっても反応が起こらないのではと漠然と思っていましたが、次のような論文に出会うことができました。
1995年、Richard Wolfenden, Ph.Dが、DNAとRNAの構成要素を作り出すのに「絶対不可欠」なある反応に酵素がなければ、7800万年かかると報告してたのです。気の遠くなるような数字ですが、このように酵素はほぼ起こらないような遅い反応を可能にすることが出来るのです。
これでも驚きなのですが、2008年、同氏は、その半減期(半分が反応するまでの時間)は23億年である反応をみつけました。これは地球の年齢の約半分です。でも酵素はそのような反応をミリ秒単位で起こすことができるのです!驚異的ですね。
Without enzyme, biological reaction essential to life takes 2.3 billion years
Uroporphyrinogen decarboxylation as a benchmark for the catalytic
proficiency of enzymes
その反応とは、ヘモグロビン、クロロフィル、チトクロムの生合成に不可欠なもので、uroporphyrinogen decarboxylase (UroD, ウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素)という酵素が触媒する反応です。
「この酵素は、地球上の植物と動物の両方の生命に不可欠です。この酵素が、進化の過程で23億年の半減期という途方もない年月が必要であるような反応の障害を克服できたのです。酵素がなければどの位の時間がかかる反応なのかを知ることで、酵素の触媒としての進化を評価することができると思います」と、Dr.Wolfendenは言っています。
その他の反応についても、Dr.Wolfendenは調べています。
11億年 amino acid decarboxylation
3100万年 phosphodiester anion hydrolysis
70万年 fumarate hydration
500年 urea hydrolysis など。
これらから、酵素がなければ、今のような微生物から人間に至るまで生命は存在しなかったということが理解できると思います。酵素がない地球の様子は想像さえできません。この地球上の生命の発現と進化に酵素がどのように関わり、酵素自身もどのように出現し進化してきたのかとても興味深いですね!
参考:
BRENDA in 2013: integrated reactions, kinetic data, enzyme function data, improved disease classification: new options and contents in BRENDA
ENZYMES IN THE BODY
カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第1巻
カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻
Image by Gaby Stein from Pixabay
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